※9月26日、修正。
第6話 ひとりはみんなのために
雄英ヒーロー科1ーAクラスは、USJでの災害救助訓練の際、ヴィラン連合の襲撃を受けた。
彼らの目的はNo. 1ヒーロー、オールマイトの抹殺。
だが、彼らの狙いはそれだけでは無い。抹殺対象には生徒たちも含まれていた。いずれ平和を背負うことになるヒーローの卵たち、成長する前にその芽を摘んでしまおうと考えたのだ。
そして彼らの狙い通り、ワープの個性を持ったヴィラン、黒霧の手によって生徒たちはヴィランが待ち構える各エリアに跳ばされてしまった。
しかし、学生とはいえ天下の雄英ヒーロー科の生徒。チンピラ擬きのヴィランでは、束になっても相手にならなかった。それぞれが難なくヴィランへ対応することが出来ていた。
その中でも最も早くヴィランの迎撃に成功した緑谷、蛙吹、峰田の三人は、先ほどの広場へ戻ることにした。逃げるにしろ、生徒たちを守るために一人戦っている相澤先生の様子を見てからにしようということになったのだ。
彼らは広場へ向かった。その先に何が待っているのかも知らずに。
「えーーー?」
そこには地獄が広がっていた。
脳無と呼ばれているヴィランにより、瀕死の状態の相澤先生が組み伏せられていたのだ。その他大勢のヴィランたちは倒したようだが、死柄木と呼ばれるリーダー格の男も健在、状況は絶望的だった。
緑谷は思考を巡らせた。
(どうする、助けに入るか!?でも僕が割って入っても返って足手纏いになるだけ?それより助けを呼んできた方が?いや、そんなことをしている間に相澤先生はーーー)
「ーーーッ!?」
今、死柄木と呼ばれる男と、目が合った。
「おい緑谷、相澤先生がやられちまってるんだぜ!?勝てっこねえよ!こっちに気づかれる前にこっそり逃げちまおうぜ!」
「ーーーダメだ」
「はあ!?なんでそんなこと言うんだよ!諦めちまったのか!?」
「ダメだーーーもう気づかれてる!!」
「へえ……さすがヒーローの卵、今のを躱すんだ……?」
(今のはたまたま避けられただけだ。次は絶対無理ーーー!)
信じられないが、脳無と呼ばれていた男は個性を使わず、素の身体能力でイレイザーヘッドを瀕死に追い込んだのだろう。
オールマイトを殺すというのもあながち冗談ではないように思えた。
ヒーロー資格も持たない学生が戦って勝てる相手では無い。
(なら、僕がすべきことはーーー)
「ーーー僕が時間を稼ぐ、二人は逃げて」
「な、何言ってるんだよ緑谷!お前も一緒に逃げるんだよ!」
「無謀だわ緑谷ちゃん」
「無謀なのは百も承知だよ。たとえ三人で戦ったって勝てるわけが無い。でも、逃げるにしても向こうにはワープの個性がいる。三人同時に逃げ切るのは無理だ。だけど僕が囮になれば、敵の戦力を分散させられる。少なくとも時間は稼げる。ここで時間を稼いで助けを待つ、それが最善策だ!」
「ーーーーーー」
蛙吹は冷静だった。
ヴィランに攻め込まれ命の危険にさらされている今も、ぶれない思考と的確な判断が出来た。
だからこそ理解してしまった、それ以外に生き残る方法が無いことを。
そしてその方法をとれば、緑谷は確実に助からないこともーーー。
「さあ、行って!」
緑谷は二人を庇うように前に立ち、ヴィランたちと相対した。
「自己犠牲の精神とは、美しいねえ……流石はヒーローの卵。でも、だからこそ……それを踏みにじるのはたまらない……!」
ーーー悪意、そして狂気。
緑谷が目の前の男から感じたのはそれだった。
初めて相対する本物のヴィランを前にして、緑谷は恐怖で足が竦みそうになる。
「でもお前のそれは勇気じゃない、蛮勇だ……その無謀のツケ……たっぷり払ってもらうぞ……?」
(来るーーー!)
「無謀かどうかは、私たち全員を倒してから判断してもらえるかしら?」
「蛙吹さん!?なんでーーー!」
「私だけじゃないわ」
「ちくしょおおおおおおお!緑谷、お前にばっかかっこいい真似はさせねーぞ!?」
「峰田君まで!?」
「分かってるわ。緑谷ちゃんの言う通りにした方が、生き残る確率はよっぽど高い。私たちが残ったところで意味は無いって。そしてそれが緑谷ちゃんの覚悟を裏切ることになることも」
「なら、どうしてーーー?」
「
そう、緑谷の覚悟が二人を動かした。
『
その在り方が二人の心を、体を動かした。
人を動かす才能。
その力は、OFAを継承する前から、緑谷が持っていたものだった。
『情け無い……本当に、情け無い……!』
ヘドロ事件の時は、オールマイトさえも動かした。
『俺は君に挑戦するーーー!』
『絶対にお前らより、立派にヒーローやってやる……!』
『決勝で会おうぜ……!』
『俺だって……ヒーローに……!』
そしてこれからも、多くの人を動かしていくことになる。
「それにーーーここで逃げたらヒーローじゃないもの」
「蛙吹さん……!」
「ちくしょおおお!絶対生きて帰るぞお前ら!童貞のまま死ぬなんてごめんだーーー!!!」
「うん!絶対に生きて帰ろう、みんなで!」
その場にいる誰かを動かす力。
ヒーローにとって、何よりも得難く、何よりも必要な才能だ。
そうだ、一人で全ての平和を背負う必要は無い。
『
これからは、みんなで平和を背負っていくのだ。
「ハア……くだらねえ……全くもってくだらねえ……!」
だが、足りない。
「脳無……黒霧……皆殺しだ!来いよガキども、現実を教えてやる……!」
死柄木弔にとっては、殺す相手が一人から三人に増えただけだ。
彼の言う通りだ。人はそれを、蛮勇と呼ぶのだ。
「その通り!激情に任せて吠えたところで、得なことなんてありゃしねえ!」
「…………あ?」
「この、声はーーー!」
「だけどなんでかねぇ……見捨てる気持ちにはなれねえんだよな、そういうの!」
「グリード君!!!」
「クソヴィランどもがあああああ!!!」
「グリード!お前もなかなか熱いじゃねえか!見直したぜ!」
「かっちゃん!切島君も!」
「悪りぃ、遅くなった」
「轟君まで……!」
「クソが、次から次へと……!」
ヒーローはいつだって、奇跡を起こす。
ひとりでは勝てない相手でも、二人なら、三人ならばどうか?
ひとりで抱え込む必要などない。
時には助けを求めたっていい、誰しもがひとりではないのだから。たとえ挫けても、迷っても、みんなで手を取り合って、また前に進んでいけばいい。
『
その思いは伝播し、大きな輪をつくる。
たとえ最初は小さな波紋でも、人を超え、そして時を超えて、いずれ時代を動かす大きな波になる。
ヒーローの役目は、平和を守り、それを次の世代へと繋いでいくこと。
だが、まだ世代交代の時ではない。
次世代を担う子供たちが頑張っているというのに、大人が何もしないでいてどうする?
そうだ、大人の役目は、子供たちを守り次代へ繋いでいくことーーー!
「ーーー私が来た!」
『その通り!激情に任せてーーー』
連載に踏み切った一番の理由は、グリードにこのセリフを言わせたかったことです。言わせたいセリフはまだあるんですが、ちゃんと全部言わせられるか不安です。