強欲のヒーローアカデミア   作:チーバ君

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今回はちょい長めです。


俺は嘘はつかねえよ

第4話 俺は嘘はつかねえよ

 

 

 

「あ?てめえ、緑谷だったか?」

 

「えっ!?グ、グリード君……?なんでここに?」

 

「家がこっち方面なんだよ。お前も今帰りか?」

 

雄英からの帰り道、緑谷はグリードと出くわしてしまった。

緑谷はグリードが苦手だった。

いや、緑谷だけでは無い。他の生徒も大小の差はあれど、グリードに対してよそよそしい態度をとっていた。

 

屋内戦闘訓練の際、グリードは轟の大氷結に対し、自らの四肢を犠牲にすることで勝利を勝ち取った。

個性の反動で傷つく緑谷とは話が違う。『超再生』があるとはいえ自分から四肢を引きちぎるなど、模擬戦でそこまでする理由が他の生徒には理解できなかった。

早い話、グリードはやり過ぎたのだ。

彼の凶行には他の生徒はおろか、オールマイトさえもドン引きしていた。

耳郎などは気を遣って話しかけてくれたが、それでもどこかよそよそしかった。

 

(どうしよう……初日にもかっちゃんと喧嘩してたし、不良みたいな人とは絶対仲良くなれないよ……!)

 

グリードの外見が怖いことも拍車をかけ、緑谷は内心ビビりまくっていた。

 

「おい、緑谷!!!」

 

「ひゃいっ!な、何でしょう!?(まさか心の中を見透かされた!?)」

 

「お前がリュックに付けてんの、オールマイト10周年記念の時の限定ストラップじゃねえか!俺も持ってるぜそれ!」

 

「え!?本当!?」

 

この瞬間、緑谷のなかでグリードはいい人認定された。

『オールマイト好きに悪い奴はいない』というのが緑谷の座右の銘だ。

 

男達はオールマイトについて語り合った。

 

友達のいない緑谷にとって、ヒーローについて友達と語り合うのが長年の夢だった。

しかし雄英に入ってから得た友達、麗日と飯田もそこまでヒーローオタクという訳では無かったため、夢は果たされなかった。

だが今日、グリードというオタク友達を手に入れることが出来た。

緑谷は幼少から蓄えてきた知識をふんだんに用い、思う存分オールマイトについて語った。

他方、グリードは緑谷ほどヒーローに詳しいという訳ではなかったが、オールマイトに関してなら緑谷と遜色ないほどのオタクだった。

 

二人は仲良くなった。

 

「まさかここまでオールマイトで語れる奴がいるとはな、さすが雄英だぜ……!」

 

「僕もいっぱい話出来て楽しかったよ!それで、グリード君は何でヒーローに?やっぱりオールマイトに憧れて?」

 

「まあ、話せば長くなるんだが……でもお前になら話してもいいぜ。正直あんま気分のいい話じゃねえが、聞いてくれるか?」

 

「う、うん」

 

グリードのそれは、今日親しくなったばかりの人間に話すようなものでは無かったが、オールマイトについて思う存分語り合えて気が緩んでいたのだろう。加えて、緑谷は信用出来る、そんな確信めいた予感があった。

 

「俺は生まれた時から何かおかしかったんだ。常に胸の中に渇きがあって、そいつは何をしても満たされることは無かった」

 

「物心ついた時からずっとそうだ。何をするにも、常にそれがついて回った。テストで良い点とっても、ゲームをクリアしても、美味いもん食っても、俺の渇きは満たされなかった」

 

「今となっては、ホント何やってんだって話だが、当時の俺は物凄く思い悩んじまってな。『もうこの世界に俺の居場所は無いのかもしれない。なら、生きている意味なんてあるのかーーー?』」

 

「そう思って自殺を図ったこともある。廃ビルの屋上から飛び降りたんだ」

 

「自殺……!?」

 

緑谷にも無個性というコンプレックスがあった。それが理由でいじめられることもあったし、なにより小さい頃からの夢だったヒーローへの道が閉ざされてしまった。

無個性だと分かってからは辛い毎日だった。しかし、それでも自殺を考えた事は無かった。

なら、幼くして自殺に踏み切ったグリード君の辛さは、一体どれほどのものだったのかーーー?

 

「今思い返しても、本当馬鹿やってんなー、あん時の俺は。まあ、そのおかげで個性を応用した再生能力の可能性に気付けたけどな。ーーーでも、親にも大分迷惑掛けちまった」

 

「服を血だらけにした息子が帰ってきたんだ、親父は慌てたよ。『誰かにいじめられたのか?それともヴィランに襲われたのかっ!?』ってな」

 

「俺は全部話した。俺の中にある渇き、何をしても満たされることは無く、それが原因で自殺を試みたことも。今まで抱えてたもの全部」

 

「初めて親父に殴られたのもそん時だったなー、あれは痛かった。でも、体の痛みなんかよりも心が痛かった。親父が本当に俺のことを思ってくれてるのが伝わってきた」

 

「その後、親父は仕事を辞めて、俺をいろんなところへ連れてってくれた。少しでも俺が人生を楽しめるようにってな、一緒に俺の渇きを満たせるものを探してくれたんだ」

 

「日本だけじゃなく世界中を回って、俺はたくさんのものに触れた。ーーーそれでも、俺の渇きを満たせるものは見つからなかった」

 

「ーーーーーー」

 

緑谷は思い返していた。

自身が無個性だと分かった時、緑谷は失意のどん底に突き落とされた。だがそれ以上に、母親に辛い思いをさせていなかっただろうか?

 

『お母さん……僕、無個性でもヒーローになれるかなあ……?』

 

その問いがどれだけ残酷だったのか、今になってようやく思い至った。

『無個性で産んだのはお前だ。お前のせいで、お前の息子は夢を追いかける権利さえ奪われた』

そう、母親に突きつけているも同然だった。

 

「だがオールマイトとの出会いで全てが変わった」

 

そうだ、オールマイトとの出会いで僕も変わった。

 

「世界を一通り回って日本に帰ってきた時、オールマイトのヒーロー活動中に偶然出くわしてな」

「その時、俺はオールマイトに光を見た」

「初めてオールマイトを見たときは痺れたぜ。世界にはこんな人間がいるんだってな……!」

「ああ、本当に痺れた。誰も彼もを救ってみせる?たった一人で全ての平和を背負う?なんて強欲な男なんだってな……!」

「ヒーローになってNo. 1になれば、生まれてからずっと続いてきた乾きも満たされるかもしれねえ、初めてそう思えるものに出会えた!」

「ーーーオールマイトは、俺にとっての希望なんだよ」

 

「うん、分かるよ……すごく分かる」

 

『君はヒーローになれる』

 

その言葉に救われた。

オールマイトのおかげで僕はここまでこれた。夢を諦めずに済んだ。

まだOFAを満足に使うことさえ出来ない未熟者だけど、僕は雄英(ここ)までこれた。

ーーーオールマイトは、僕にとっても希望なんだ。

 

「だから俺はNo. 1ヒーローになる!必ずオールマイトを超えてやる!」

 

緑谷は理解した。

戦闘訓練の際、なぜグリードがあそこまでして勝利を求めたのかを。

心の裡にある渇きを満たすため、どこまでも貪欲に、どこまでも強欲にヒーローへの道を邁進する。

それが彼のヒーローとしての在り方だった。

 

「……やっぱりすごいね、グリード君」

 

「おうよ!なんたって俺はグリード様だからな!いずれ平和の象徴の座もこの俺が手に入れる!ーーーだがまずは、ヒーローにならなきゃな。そん時は緑谷、俺のところでサイドキックやらねえか?」

 

「ええッ!?僕なんかがサイドキックで良いの?」

 

「ああ、光栄に思えよ?なんたってこの俺、グリード様のサイドキックだ。なりたくてもなれるもんじゃねえ」

 

「でも僕、個性の扱いだってまだ上手く出来てないのに……。それに、僕ヒーローになれるか分からないよ?」

 

このまま個性を使いこなすことが出来なければ、ヒーローになるなど夢のまた夢。当然、OFAの継承者としても失格、OFAをオールマイトに返さなければならないだろう。

考えたくは無いが、最悪の場合そんな未来もあり得る。

 

「個性なんか関係ねえよ、俺が気に入ったのはお前のその在り方だ。そうそう使用に踏み切れるもんじゃねえ自爆覚悟の個性、それをお前は何の躊躇も無く使って見せた」

 

屋内戦闘訓練、緑谷は個性の反動で重傷を負った。

いくらリカバリーガールの個性で治るからとはいえ、自ら激痛に飛び込むのは相応の覚悟が要る。

何が緑谷を突き動かしているのかグリードには分からないが、痛みと引き替えにしてでも求めるものがあるのだろう。 

そして求める心とは『欲』。

グリードはその在り方、緑谷の『欲』に惹かれたのだ。

 

「俺は嘘はつかねえよ。そしてその俺が断言してやるーーー()()()()()()()()()()()

 

「ーーーあ」

 

『君はヒーローになれる』

 

(オールマイトと同じーーー)

 

「ーーーなんて、俺なんかに言われても嬉しくねえだろうが……って、緑谷。お前……泣いてるのか?」

 

「あ、あれ……?」

 

気づけば涙が流れていた。

 

オールマイトはかつて、無個性でもヒーローになれる、そう言ってくれた。でもそれは、OFAを継ぐ者として相応しいという意味でのヒーローだ。

 

でも、グリード君は違う。

個性とは関係なく、緑谷出久という一人の人間を見てくれた。その上でヒーローになれると言ってくれた。

 

『お母さん、僕、無個性でもヒーローになれるかなあ……?』

 

それは、あの時、何よりも言って欲しかった言葉だ。

 

「ーーーーーーーーッ!!!」

 

膝をついて泣き崩れる僕を見て、グリード君は焦った顔でオロオロしていてーーーなんだかそれが印象的だった。

 

 

 

 

 

 

この日、二人はかけがえのない友となった。




というわけで、グリードがなぜヒーローを志したのかが明かされる回です。
ハガレンの原作を知っている人には分かると思いますが、グリードがオールマイトに見た光とはその強欲さでは無く、誰からも愛され、期待され、心の底から声援を送られること、そして〇〇。
原作では、真に欲しているものが何なのかリンに見抜かれていながらも気づかない振りをしていましたが、今作では本当に気づいていません。
それに気づく日が来た時が、グリードの本当のヒーローへの第一歩だと思っています。

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