第1話 強欲のヒーローアカデミア
雄英高校 入学試験
「0ポイント
「デケエ!あんなのに勝てるわけねぇ!」
「マジか雄英!?下手したら死人出るぞ!?」
「に、逃げろーーー!!」
受験生の誰もが逃げ出していく中、少女はその場を動かずにいた。
チャンスだと思った。
先ほどまでここに受験生が密集していたせいで、2ポイント敵や3ポイント敵は、まだこの場に残っている。
0ポイント敵がここに到着するまでは、まだ僅かばかりの猶予がある。
ギリギリまでここで仮想敵を倒し、ポイントを稼いだ上でこの場から離脱する。
それが少女の選択だった。
少女は優秀だった。他の受験生達が雑魚敵にすら手こずっている中、一騎当千の様相で次々と雑魚敵を撃破していった。ならばこそ、少し欲が出てしまうのも仕方ないのだろう。
既に十分ポイントは稼いでいるが、多くポイントを稼ぐに越したことはない。
だが、少女は優秀過ぎたのだ。
ここまでの試験で大きな手応えを感じてさえいなければ、他の受験生同様に逃げ出していただろう。
試験の様子を観ているだろう
私は他の受験生達とは違うと、見栄を張りたい気持ち。
良い順位、あわよくば主席で合格したいという気持ちが、彼女を増長させてしまった。
(筆記試験の自信もある、必ず雄英に合格してみせるーーー!)
そんな欲を出した罰が当たったのだろうか。
彼女は逃げ遅れてしまった。
最後の雑魚敵を倒す際に足を挫いてしまったのだ。
0ポイント敵はすぐそこまで迫っている!
常識的に考えて雄英側も死傷者などを出すつもりはなく、いざとなった時のために教師達も各試験会場に控えているだろう。
だが、少女の頭は恐怖で埋めつくされており、そんな当たり前の思考をすることすら出来なかった。
少女の心は、絶望に染め上げられた。
そこに、ヒーローが現れた。
「よう嬢ちゃん、助けが必要かい?」
「えーーー?」
現れたのはとてもヒーローとは言い難い外見をしている男だった。
目つきは悪く、口調は粗暴、顔には欲望に満ちた凶悪な笑みが浮かんでいる。
そんな男を前に、少女は言葉を失っていた。
だが、次に男が発した言葉で、少女はさらに言葉を失うことになる。
「そこで待ってな。今すぐあのデカブツをぶっ倒して来てやるよ」
「はーーー?」
今、この男はなんと言った?
ありえない。
他の受験生は全て敵だ。
倍率が300倍にもなる雄英の受験では、その傾向は一層強い。
ありえない。
受験生が他の受験生を助けることもそうだが、この男は私を連れてこの場から離脱しようとしているのでは無い。
あの巨大なロボを倒すことで、結果として私を助けようとしている。
ありえない。
そして何よりも、あんなでかいやつに勝てるわけがないーーー!
「そんなの不可能だって顔だな」
「だが、『ありえないなんてことはありえない』のさ」
「あの0ポイントヴィランもぶっ倒して、てめえを救い出す!そんでもって合格してみせる!」
「だ、だめ!!ウチは自分でなんとかするから、アンタは早く逃げて!仮に0ポイントヴィランを倒せたとしても、ここで時間喰ってたらアンタまで不合格になっちゃうよ!?」
「ハッ!俺を誰だと思っていやがる!」
「助けたいと思ったら助ける」
「殺したいと思ったら殺す」
「手に入れたいと思ったら手に入れる」
「金、女、命!この世界の全てを手に入れる!それが俺様ーーー」
「ーーー強欲ヒーロー、グリード様よぉ!」
言っていることはともかく、男は私を本気で助けてくれようとしている。
敵を倒し、弱きを助ける。
こんなところで無様に這い蹲っている自分とは違う。
その男は紛れもなくヒーローだった。
0ポイント敵に向けて走っていく
(それ、どっちかっつーと