行洋との対局後検討する間もなく時間が来てしまいヒカルと行洋は現世に戻る。次も同じように対局する事を約束して……。
「やったぜ! あの塔矢先生に勝てた!!」
と帰ってきても興奮覚めやらぬヒカル。佐為のことなどこの2週間完全に忘れていた。
翌日は和谷の家での研究会だった。
昨日勝ったからか気分良く出掛けるヒカル。
「行ってくる」
「その研究会って塔矢くんも来るの?」
靴を履いている所であかりに質問される。
「塔矢は来ねぇよ。なんで?」
ヒカルは足早に答えて聞き返す。
「……ううん。何となく聞いただけ」
「何だよ、それ。じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
よく分からない事を聞いてくるなと思いながらも大して気にも止めずに家を出た。
和谷家の研究会は伊角と本田も来る。数名の院生もいるのでそれなりに賑やかだ。
和谷が始めた研究会だったが、今ではヒカルの研究会と言っても良い。数名の院生は間違いなくヒカルとの指導碁目当てだ。
なにせ一度は7冠達成、現4冠棋士のヒカルが研究会に来ているとあっては皆ヒカルと打ちたいと思うのは仕方ない事だった。和谷自身ヒカルと打つことで強くなっていってることを実感しておりかなり満足もしている。
【sai】アプリが一時期広まったものの、問題が解けずそのままアンインストールする人が殆どの中、和谷は今もたまにアプリを開く。
問題が常に変わり、よくよく考えると一流棋士に対する指導碁になっている。
始めこそ全く分からなかったものの、ヒカルとの研究会を通して徐々に分かるようになってきている。
今日の研究会ではこのアプリの問題をみんなで考えようと思っていた。
院生2人と本田が入ってきたので、碁盤を広げさっそくアプリを起動。
出てきた盤面を見ながら石を打っていく。
「次の一手をみんなで考えようぜ」
と和谷は本田と院生2人に話しかける。
「……全然分かんねぇな」
「あぁ」
本田と和谷が話す。
「そんな、プロのお二人が分からなかったら僕達じゃ到底分からないですよ!」
院生はお手上げ状態だ。
「う~ん、進藤を待つか」
「そうだな。それまで10秒碁でもするか?」
早々に諦める4人。
少し時間が経った頃、ヒカルが和谷家に到着した。
「こんちはー」
ヒカルが挨拶しながらドアを開ける。
「おぉ! 進藤来たか。早くこっち来いよ」
と和谷が部屋の奥から顔を出してヒカルを手招きする。
靴を脱いで、碁盤のある部屋に行くと、何やら石を並べ始めていた。
「検討でもするのか?」
とヒカルが聞くと
「また問題があってさ。進藤ならどう答えるかと思って」
と和谷が言いながら最後まで並べ終える。
「次の一手は?」
と和谷がヒカルを見ながら聞くと
「次の一手も何も、これはこの前俺が神様に打ってもらった指導碁じゃん。和谷、何でこの対局知ってるんだ?」
と不思議そうな顔をしたヒカルが答える。
見る見るうちに和谷の顔色が変わっていく。
隣にいた本田と院生2人はそんな和谷を見て凍ってしまった。