アキラが目を覚ます。
「アキラ! 目が覚めたかい?」
と芦原が心配そうにアキラを覗き込む。
「3時間も起きないから心配したよ」
とやや涙目になる芦原にアキラは答える。
「ご心配おかけしてすみません。無事saiに会えましたよ」
「それで? 対局はしたのか?」
といつの間に来たのか緒方が横から質問をする。
「はい。碁の神様とペア碁もしました」
と棋譜を並べ始める。
どれどれと研究会に出席している者がこぞって碁盤を見つめる。
お~っ! と感嘆が聞こえる横で全然意図が分からねーと悲鳴も上がり色々な声が聞こえる。
少し笑い出してしまうアキラ。
ーー神様は、きっとこんな『囲碁』を望んでいるのだろうか
黄昏時の赤く染まる空と夕日を見つめ、アキラは感慨にふけるのであった。
アプリ起動が同時になると、天界で鉢合わせる事もあった。アキラが行くと、ヒカルが虎次郎と打っていた場面に出くわした。そこでもう一度詳しくヒカルから佐為のこと、虎次郎のこと、そしてアプリに関する約束事も聞き、アキラはようやく事の成り行きを理解する事ができた。
たまにヒカルとアキラは囲碁サロンでも打っているためヒカルがポロッとアキラに口を滑らせる。
「そう言えばこの前あっちで緒方先生に会って大変だったんだよ!」
ーー緒方さんもアプリでsaiとの対局が叶ったのか
アキラ同様saiに執着の強かった緒方もsaiとの対局が叶ったと聞き、アキラもホッとする。
「十段になった後のイベントでオレと打った時の対局が問題だったらしくてさぁ。かなり酔ってたから記憶が曖昧で困惑したらしいんだよ。佐為に何であの一局なんだ?! って食ってかかってたのが面白かった」
と得意気に話すヒカルに、黙って聞きながら
ーーこれは胸にしまっておこう
と緒方を可哀想に思うアキラであった。
数ヶ月後、ヒカルとあかりは無事入籍した。元々親同士が知っている仲だったので、始めこそ驚いたもののすぐに意気投合しすんなり話がまとまった。
ヒカルの意向で入籍だけ済ませ、先に部屋を借りる。色々家具を揃えるのもあかり任せにしてケンカも絶えなかったが、すぐに忘れてくれる性格が有り難い。
何だかんだと自分好みにできるので、あかりもそれほど強くヒカルの協力を求めなかった。
棋院や森下九段の研究会仲間など、出入りしている所には順に報告を済ませ、そのたびに驚かれて色々質問責めに会って疲弊した。特に院生仲間の研究会に顔を出すため和谷の家に行った時は夜まで質問が続きぐったりだった。
さすがに囲碁サロンに報告した時はアキラが全く驚かなかったので、周りも釣られて大きな騒ぎにならずサラッと終わったので助かった。
ーー後は子どもが生まれれば恋愛の神様との約束は達成だな
ヒカルはそんな事を思いながら、多忙の日々を送る。
恥ずかしくて決して口には出せないがsaiとの再会や神様との対局を叶えてくれたあかりには心から感謝しているヒカル。
と同時に、この幸せがずっと続くよう守っていきたいと決意するのであった。
●○1部完○●
最後までお読みいただきありがとうございました。この後、転生する話が出てきますので苦手な方はここで終わって下さい。