対局が終わって
「ちょうど時間だね」
と神様が言い、ヒカルのおでこに指をチョンと押し当てると、一瞬で棋院の一室、天井に視界が切り替わった。
上半身を起こし、
──あかりと結婚。子ども。アプリは週2まで1回3時間。あ、携帯買わないと出来ねーじゃん。後で和谷につきあって貰うか。後、棋譜並べか……
と一通り思い出してから碁盤の前に移動し、先程の神様とsaiの対局を並べた。
周りが興奮して検討を始めると和谷を連れ出し携帯ショップに行く。
「和谷、オレもそのアプリが使える携帯が欲しい。どれ?」
とヒカルが聞くと
「進藤……」
和谷は突拍子もないヒカルの発言と行動に頭を抱える。
いつもの事か──と思い直し、
「オレと同じ機種で良いよな? 操作方法教えやすいし」
「うん。それで良い。さっきのアプリも入れといて」
と二つ返事でOKをし、ダウンロードまで任せる。
「~~~」
言葉にならない言葉で抵抗を試みるが和谷は諦めて言うとおりにする。
「和谷、サンキュー」
とヒカルは礼を言い店を出る。
「進藤、研究会もどんねぇのか?」
と和谷の問いに対し反対方向に足の向くヒカルは
「うん。オレ、これから行かなきゃ行けないとこ出来た」
と答え、和谷と別れる。
自宅近くの公園。夕日が落ち始めている。
──ここで佐為に石の掴み方習って出来なかったんだよな。懐かしい思い出だ。
1人で思い出し笑いをしていると、
「……ヒカル??」
と聞き覚えのある声がした。
ヒカルは声のする方を向く。
「あかり……」
少しタイミングの良すぎるあかりの登場に、
──恋愛の神様の計らいってやつか?
と思いながらヒカルは切り出した。
「会社帰りか? ……お前のお陰で夢が1つ叶ったよ。サンキューな」
とヒカルが笑って言うとあかりは顔を赤くして「えっ?」と目を丸くする。
「あかり、結婚しよう」
とヒカルはお構いなしにプロポーズした。
夕陽があかりの頬を照らし、より赤く染め上げる。頭が真っ白になる。
「……は? ヒカル、なに言ってんの? 頭打った?」
突然過ぎるプロポーズにあかりは驚き、思考が追いつかない。
「ご、ごめん。急すぎたかな、ハハ。付き合おう! ……か」
予想してた反応と違いヒカルは慌てふためく。
──こいつ、本当にオレの事好きなんだよな??
とヒカルが思いながら取り繕っていると、あかりはその反応に笑いが込み上げた。
ひとしきり笑い終わると
「結婚……良いよ」
と一言あかりはプロポーズをOKした。
【sai】のアプリが本物のsaiに会えると分かり一気に棋士達の間に広がる。
数日後に開かれた塔矢門下の研究会の際には芦原がアキラにスマホを見せる。
「アキラ、知ってる? 進藤君がこのアプリでsaiに会ったらしいんだよ。この問題、君なら分かるだろう? 見てみてよ」
見せられた碁の並びには見覚えがあった。
──進藤に初めて会った時のものだ。
「8-5」
うつむき、声を絞るようにして答えを言う。
「えー?!それは良い手じゃないよ?」
と笑ったアシワラは言われた一手を気軽に入力した。
アキラが倒れる。