ご指摘下されば修正したいと思いますので教えて頂けると嬉しいです。
ヒカルの中で広島はある意味悲しい思い出なので、何とか楽しい思い出に変えたくて描きました。
無理やりな展開で強引な内容ですが、皆様の大きな懐と温かい眼で読んでいただけるとありがたいです。
「いらっしゃい」
ヒカルが碁会所の扉を開けるとマスターらしき人物が挨拶をする。
「……進藤ヒカルプロじゃないか!」
一歩中に入ると、客の1人がヒカルに気付く。
「と、塔矢アキラプロもだ!」
後ろに付いて入ってきたアキラにも気付き、客が対局途中にも関わらず集まってくる。
「打つのかい?」
「何で、こんな所に来なさった?」
「何でこんな所に連れてきたんだ? 進藤」
マスターが質問し、客の1人が発した質問にアキラがさらに質問を畳み掛ける。
「いっぺんに言われても困るよ」
ヒカルは困った顔をする。集まった客たちを見渡し誰かを探しているようだ。
「久しぶりじゃのう、進藤プロ」
「あ! いた。良かった!」
ヒカルは周平の声のする方に視線を向けて笑顔を見せる。
「塔矢達も打つか?」
「そうだね。見てるだけもつまらないし打つよ」
「おじさん、4人分ね」
ヒカルはアキラも打つと返事を貰って、4人分のお金を渡す。
ヒカル、あかり、秀輝、アキラ、久美子、咲似の6人は広島に来ていた。
いつの日か佐為と一緒に因島に来ようと思って30年が経った。
なかなか予定が合わなかったが遂に念願叶ってヒカルが連れてきたのだった。
予定は2泊3日。思ったより早く着いたのでホテルに荷物を置いて出掛ける。
あかりと久美子は観光や買い物に出掛けた為、ヒカルは3人を連れて昔入った碁会所にやってきた。
ーーあの時は佐為を探しに来たけど、今日は佐為も一緒だし、思い切り楽しむぞ!
ヒカルはワクワクしながら周平が座る場所に向かっていく。
「彼は進藤と知り合いなんですか?」
アキラがマスターに声を掛ける。
「周平か? 昔、進藤プロが秀策巡りで広島に来たときに連れの男が打った後、進藤プロも打ったんじゃ。周平はアマNo.1じゃ」
「アマNo.1……。その時はどちらが勝ったんですか?」
「進藤プロじゃよ。早碁でな。すごかったわい」
マスターは視線を天井に向けて思い出すように話す。
30年も前の事を思い出せるとはよっぽど印象深かったのだろう。
その時の高揚感まで思い出しているようだ。
アキラはマスターと話しているため、秀輝と咲似は場所を変えて碁会所の客と打ち始める。
しばらくして客の1人がアキラに指導碁をお願いするとアキラは快諾し、席を移る。
アキラの周りにもあっという間に人だかりができてしまった。
「お願いします」
「お願いします」
ヒカルと周平が頭を下げ対局が始まる。
ヒカルは白石。周平が一手目を打つ。
「進藤くん、わしの手紙読んで、わざわざ来てくれたんか?」
「わざわざじゃないけど、手紙読んで来ようと思ったのは合ってるよ。アマの大会で東京来たときも棋院に寄ってくれてたらしいじゃん」
「そうじゃ。なのに進藤くん、いつもおらん。……その上院生師範じゃろ?」
「ハハハ。あの手紙、果たし状みたいに怒り大爆発だったもんな」
「結果的に対局が叶ったけぇ。わしは満足じゃ」
周平は今までの不平不満を口をへの字にして漏らしていたが、待ち望んだヒカルとの対局をやっと叶えられ嬉しそうに話す。
ヒカルは打ちながら周平との会話も楽しむ。
今のヒカルにとっては周平との対局は指導碁に近い。
「5冠棋士がこんな所で油売ってて良いのか?」
「今日はプライベートだから良いの!」
周りにいたギャラリーからの質問にヒカルが答える。
「プライベートでも、有名人じゃろ」
「有名人じゃないよ。普通に電車で来たし」
「……」
ヒカルは思った事を口に出す。
周りに居る人は言葉を失ってしまった。
「きっと子供っぽいから気を使ったんじゃな」
「何だよ、それ」
客の1人が結論づけるとヒカルは口を尖らせ不満を募らせる。
「周平との対局なのに喋りながらでえぇんか?」
「大丈夫だよ、これくらい」
「なんじゃと?!」
ヒカルの返答に周平は頭に来る。
今や5冠のトップ棋士に勝てるとは思ってないがここまでコケにされて黙ってるような人間ではない。
「その言葉…で、後悔させたるゎ!」
「うん!」
「こ、こいつ……!」
周平の宣戦布告に、笑顔で答えるヒカル。
周平はさらに顔を赤くして怒りを露わにする。
厳しい一手を打つも軽々とヒカルにかわされてしまった。
それならと、左下に新手を打つ。
さすがにヒカルもその一手にどんな意図が組まれているのかと手が止まる。
ニヤッと笑みを浮かべる周平。
少し考えて受けた一手は全然関係ないと思われる左上辺だった。
ーー少しも気に掛けてないだと?!
周平はさらに怒りを露わにして新手の場所を攻めていく。
ヒカルはまたも軽やかにかわしていきつつ、左上辺にも手を入れていく。
「な!?」
周平はヒカルが打った意図を理解する。
ーー左下に入れた自分の手は、上辺からの挟み撃ちで死んでしまう!?
「ま、負けてたまるかぁ!」
周平は諦めずに、さらに攻め込んでいく。
ヒカルは終始笑顔のままそれ以上殺さないように気をつけながらもノータイムのまま守っていく。
「凄いな」
「さすがプロじゃな」
と周りが感心仕切っていると、
「負けました」
周平が投了する。
「もう手も足も出ぇへんゎ。手抜いたまま終局したらどついたろ思ったが進藤くんの実力を間近で見られて良かった」
「鬼の形相だったからビビったよ」
ヒカルは苦笑いするも、周りの客たちは大笑いだ。
周平は只でさえ強面なので怒った顔は本当に怖い。自分を睨みつけてきた周平の顔を見てしまったが最後、多少の実力を見せないと納得してもらえないと思い投了に追い込んでしまった。
もう少し長引かせて楽しもうと思っていたのが台無しだ。
「じゃ、次は指導碁をお願いしても良いか?」
「あ、ズルいぞ! わしもじゃ!」
側にいた客の数人が指導碁の取り合いをする。
「やりたい奴まとめて座れよ。まだ時間あるし相手するよ」
「良いのか?!」
嬉しそうに座る客達の言葉と対照的に「生意気な……」と苦い顔をする周平。
けれど、本当にやれるだけの実力があるから面白くないが何も言えずにいた。
「よし! じゃあ、始めるぞ。お願いします」
「お願いします」
10人ほどもいる指導碁が始まる。
全く時間を掛けずにどんどんと白黒模様が出来上がっていく。
その模様はとても美しい。
「しゃーねぇ。帰りはわしの車で送ってってやる」
周平は鮮やかに指導碁を打っていくヒカルを見ていて感心してしまった。
きっと院生師範もこんな感じなのだろうか?
夕日が当たっているせいか、ヒカルが一段と眩しく見えた。
日が沈む頃指導碁も終わり、キリが良かったのでそこで帰る。周平がホテルまで4人を送る。
翌日は予定通り秀策巡りをした。
虎次郎と佐為が170年前にいた場所。
4人並んで海も眺めた。
「やっと来れた。良かったよ!」
「……それはもう1人の私と見た後に言ってください! 進藤おじさん!」
ヒカルが30年越しの願いを叶えた事を口にしたが、咲似がヒカルを見て突っ込む。
笑顔を見せる咲似がそっとヒカルの腕を掴んだ。
少し驚くヒカルだったが、佐為に代わって辺りを見渡し佐為が最高の笑顔でヒカルに言った。
「ヒカル! 連れてきてくれたんですね。ありがとう」
佐為の言葉を聞いて、ヒカルは心底来て良かったと思ったのだった。