半年が経った頃、アキラからヒカルに連絡が入る。
ーーついに佐為に会える!
とヒカルは心が躍るのを感じた。
お互いの日程を合わせ、2週間後の日曜に決まった。
もう待ちきれないほど嬉しさが汲み上げてくるが、あまりのテンションの高さにあかりに少し不審な目で見られ、つい平静を装った。
「2週間後の日曜に、塔矢の家に行ってくる」
「……それ、私も行って良い?」
ヒカルはあかりに予定を告げると、予想しなかった反応が返って来たため驚く。
「お前まで来たら塔矢迷惑だろ?」
「だってまだ秀輝を会わせてないから、私も久美子に会わせたい」
「誰だよ? そいつ」
「誰って葉瀬中囲碁部に連れてきた私の友達よ! 塔矢君の奥さんになったじゃない」
「……え?」
ヒカルは止まった。
確かに塔矢からは結婚した話とその奥さんが妊娠中だという話は聞いたが、まさか相手があかりの友達とは思わなかった。
ならば仕方ない。
「分かった。塔矢に聞いてみる」
とヒカルはアキラに再度連絡をするも結果はあっさり即OKだった。
少し肩を落とすヒカルだったが、女同士で話してくれてるなら逆に都合が良いとも思い直し、当日が楽しみになった。
当日昼過ぎ、進藤家揃って塔矢家を訪れる。塔矢家はヒカルが日中韓ジュニア北斗杯の合宿の時に行ったきりだったが、道はさほど変わっていなかったため迷う事なく着くことが出来た。
「いらっしゃい。どうぞ上がって下さい」
家から出て来たのはアキラだった。
「今日はお世話になります。ヒカル! 手土産! 渡して」
あかりはアキラに挨拶をし玄関にお邪魔すると、ヒカルが持っている手土産を渡すように促す。
「あ、あぁ、そうか。はい、これ」
ヒカルはひょいと手土産をアキラに渡す。
一瞬アキラはヒカルからの常識的な行動にハッと驚いたが、さすがに奥さんの意向だろうと納得する。
「あかり、久しぶり! ゆっくりしてって」
奥からパタパタと赤ん坊を抱えた久美子が近付いてくる。
「まずは女性達からどうぞ。僕達は一局打ってから行くよ」
久しぶりの女友達の再会は何とも騒がしい。このままきっと幾分の間話し始めるだろう。そして男にとっては話の終わりが見えない苦痛の時間……。
やっと佐為に会えたのに、ずっと久美子の腕の中では込み入った話も出来ないし、ずっと女性陣の話を横で聞いているだけと言うのも何か癪だ。
早々にアキラはヒカルの肩をつかみ、普段塔矢門下で研究会に使っている部屋へと誘導する。
ヒカルも佐為に触れるのは当分無理と思い、アキラに賛同して付いて行った。
棋譜並べをしていたのか碁盤に石が並べられている。
「これ、初めて塔矢と会ったときの棋譜だ」
2目差の指導碁。ぼそっとヒカルはつぶやく。小さな声だったが、アキラには十分届く大きさ。
「覚えているのか? 今日君が来る事になってたからつい並べたくなったんだ。アプリで佐為に会うために使われた問題でもあったしね」
「お前の問題コレだったのか。オレの時は塔矢との中学囲碁大会の一局だったよ」
「懐かしいな」
と2人で笑い合う。
碁盤を囲んで2人が座り、碁盤の石を片付ける。
アキラが一手目をパチンと音を立てて打つと、ヒカルも負けじと大きな音を立てて二手目を打つ。
小一時間ほど打つと、
「そろそろ良いかな。ちょっと見てくる」
とアキラが席を立ち、あかりと久美子の様子を見に行く。