天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

筆先文十郎オリジナル設定が入ります。BLEACH本編と混合しないように気をつけて頂けると幸いです。



新章第八話 東空座町赴任前日談

 

 

話は粕人が東空座町に赴任する一か月前に遡る。

 

西流魂街から少し離れた丘。

「キャアッ!?」

「ウワァッ!?」

小学生高学年ほどの、暖かい髪の色をした女の子と高校生くらいの青年が宙に舞った。

「ククク、鬼ごっこももう終いにしようか」

地面に叩き付けられた二人を、ユニコーンに骸骨に見える仮面をつけた胸に穴が開いた虚が見下ろす。

「まあ、ワシが本気になれば二本足のお前らなどいくらでも額の角で貫けたのだがな」

そう言って馬のような虚は器用にも前足で自身の額にある細く尖った角を指さす。

「うぅ……」

青年は少女を見る。

 

彼女だけは助けなければ。

 

しかし目の前の虚から逃げ回った恐怖と疲労、そして地面に強く叩きつけられた痛みで青年の身体は指一本動かせなかった。

「それじゃあ、どちらから食べようか?」

ユニコーンのような姿をした虚、ボーンホースは青年と少女を何度も見る。

「よし。決めた」

虚の口が大きく歪む。視線の先には頭から血を流し気絶している少女の姿が。

「……や、やめろ!」

青年は残った力を振り絞って叫ぶ。

「安心しろ。少女(こいつ)を食ったら次はお前だ」

やめろっ!と叫ぶ青年の声を気持ちよさそうに聞きながら、ボーンホースは少女の身体に狙いを定めた。

「ッ!?」

額の角を少女の身体に向けていた虚が大きく後ろに跳んだ。

その直後。黒い鉄の物体、黒々と光る苦無が地面に突き刺さる。もしボーンホースが後ろに下がっていなければ虚の頭を地面に刺さる苦無が突き刺さっていただろう。

「だ、誰だ!?」

苦無が飛んできた方向をボーンホースが見る。そこには死神だけが着ることを許される黒い衣服、死覇装を身に着けた145センチ前後の小柄な男がこちらを見ながらたっていた。男の足元には大量の荷物が入った篭があった。

「僕はただの死神です。そして貴方を狩ろうとは思っていません。ですので彼を見逃してくれたら貴方を斬ろうとは思いません。ここは退いてはもらえないでしょうか?(くろつち)隊長に届けないといけない物がたくさんあるので」

「舐めるな、死神!」

生きるか死ぬかの決定権が突然現れた死神にあるような言い方に、ボーンホースの怒りは頂点に達した。

 

死神(こいつ)からは霊力はほとんど感じられない。

 

突然現れた死神に狙いを定め、ユニコーンにも似た虚、ボーンホースは小柄な男めがけて突進した。

自分より大きい虚が突進する姿に、男は怯えることなく右手を腰にぶら下げる刀の上に置いた。

 

シャキンッ!

 

突進をかわし、いつの間にか刀を抜いていた男がゴーンホースの方へ振り返って、ゆっくりと刀を鞘に戻す。

「よくぞかわした。だが次はお前の身体は我が角に突き刺さる」

「……その角で、ですか?」

「え?」

ボーンホースは視線を額に向ける。そこにはあるはずのもの、鋭く長い自慢の角が根元を残して切断されていた。

「わ、ワシの角!?ど、どこだ!?」

「これのことですか?」

焦ったボーンホースが目の前の光景を見て愕然とする。

そこには先ほどまであった角が男の手の中にあったからだ。

男は持っていた角をこちらに投げつけた。

ボーンホースが反応する前に角は馬の虚の足に深々と突き刺さっていた。

「う、ウアアアァァァッ、ッ!?」

信じられない状況に恐れおののいた虚は男に背を向けて逃げようとして身体が動かないことに気づいた。よく見ると前足に数本細い針が刺さっていた。

「痺れ薬を塗った針を打ち込みました。これで数分の間、貴方は動けない」

そう言って男は馬型の虚の前に立つと再び刀に右手を置いた。

「ま、――――」

待ってくれ。男の目にも止まらぬ早業で抜かれた刀によって首を刎ねられたボーンホースはその言葉を紡ぐことは出来なかった。

 

 

 

「大丈夫ですか?」

小柄な死神は頭から血を流す少女を介抱した後、(いま)だ痛みと疲労で動くことが出来ない青年に手を差し伸べた。

「あ、ありがとうございます」

青年は自分よりも小さい死神の力を借りて立ち上がる。

「助けて下さって本当にありがとうございました。ボクは柴田ユウイチです。貴方は?」

「護廷十三隊十二番隊二十席、葛原粕人です」

自分より少し背の高い青年に、小柄な死神は隣にいる者を(なご)ませるような微笑を浮かべた。

 

 

 

粕人は背中に調達した荷物を背負い両方の二の腕に籠の持ち手をくぐらせながら助けた暖かい髪の色をした少女、東雲(しののめ)夕姫(ゆうき)をお姫様抱っこで運びながら歩いていた。

「大丈夫ですか?柴田さん」

隣でズキズキと痛む箇所を抑えながら歩く青年を粕人は気遣う。

「い、いえ……それよりも粕人さんの方が大変じゃないですか。そんな大荷物に夕姫ちゃんを抱きかかえて」

「大丈夫ですよ、こう見えて僕は力持ちですから」

満面の笑みで答える粕人に釣られて青年も笑う。

その後二人はスースーと寝息を立てる少女を気遣いながら帰り道を歩いた。

そして話は青年がなぜ流魂街に来たのかに変わる。

青年は答えた。

母親を生前連続殺人犯だった虚・シュリーカーに殺されたこと。シュリーカーの『母親を生き返らせる』という口車に乗せられ、生きたまま魂魄をインコに入れられ、シュリーカーから逃げ回っていたこと。インコに魂が入っている間、周囲の人を不幸にしてしまったこと。

その後、現世で助けられた茶渡泰虎(おじちゃん)と流魂街で再び出会い、『探していればいつか会える』と励まされたこと。そして探していた母親と再会できたことを。

そうこうする内に西流魂街についた二人は少女の家に足を運んだ。

(そら)さ~ん」

「あぁ、ユウイチ君。ちょっと待って――!?」

奥から顔を出した優しそうな顔をした男性が粕人の腕で眠る少女を見るなり、顔面蒼白で駆け寄った。

「ユウイチ君!?これは、これはどういうことだい!?なぜ夕姫が怪我をしているんだ!?」

粕人の存在を忘れて、男性は頭に包帯を巻く少女を震えながら見る。

粕人は少女を優しく床に置き、心配するあまり興奮する男性をなだめた。

男性が落ち着きを取り戻したことを確認した後、青年は事の詳細を話した。

丘に行きたいという夕姫の懇願に負けて、青年は少女と共に丘に向かったこと。その丘で馬のような虚に襲われたこと。今にも殺されそうになった所を少女をここまで運んでくれた死神に助けられ、介抱されたこと。

事の経緯(いきさつ)を聞いた男性は小柄な死神の方へ振り返り、頭を下げた。

「この度は()の夕姫がご迷惑をおかけしました」

「いえ、いいんですよ。僕はたまたま通りかかっただけですから」

「う~ん?」

その時少女が目を覚ました。

「あれ、ここ……うち?」

「夕姫!」

目を覚ました少女の肩を目を大きく見開いた男性が掴む。普段見ない()の姿に動揺した妹はビクッと震える。

「何であの丘に行ったんだ!?『あの丘は虚が度々目撃されるから行ったらダメだ!』と言ったじゃないか!!」

「ご、ごめんなさい!」

少女は涙を流し、男性に頭を下げる。

「お兄ちゃんに言われたのは覚えているよ。でも、今日は……お兄ちゃんの誕生日だから……」

そう言って少女は腰につけた巾着の中身を男性に手渡した。

それは、白く透明な六つの花びらのようにも見える石だった。

「……そうか、これを。俺のために」

男性は「ごめんなさい、ごめんなさい」と頭を伏せて泣いている少女を優しく抱きしめる。

「ありがとう、夕姫。とっても嬉しいよ。でももう二度と危ない所にいくようなことをしないでくれ。お兄ちゃんにとって一番嬉しいのは、元気なお前が傍にいることだから」

「う、うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

その言葉に少女は嬉しさのあまり泣き出してしまった。

 

 

 

泣いていた少女が泣き止み、鳴きつかれた少女が床につく。

「この度はウチの夕姫を助けていただき、本当にありがとうございました」

男性は改めて粕人に頭を下げた。

「いえいえ。妹さんが無事で何よりです」

粕人は荷物を持って外へと歩き出した。

「あ、待って下さい!」

「ん?」

振り返るとそこには先ほどの優しそうな顔つきの男性が思いつめた顔で粕人を呼び止めた。

「あ、あの……助けてもらった上に、こんなことを言うのは失礼かもしれませんが。ここで会ったのも何かの縁ということで、聞いてもらえないでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」

粕人は玄関で呼び止めた男性の元に戻って話を伺う。

「俺は井上(いのうえ)(そら)と申します。俺には井上(いのうえ)織姫(おりひめ)という妹がいて……。……家で寝ている夕姫とは数か月前に兄妹(・・)になりました」

「……」

顔を少し下に傾け、言葉を詰まらせる男性の言葉を粕人は待った。

「もし現世にいる妹、井上織姫と出会うことがありましたら。『井上昊は幸せに暮らしている』。そう伝えてくれないでしょうか?」

「……」

粕人はすぐには返事が出来なかった。十二番隊の二十席という重要か重要でないかと問われれば重要で、忙しいか忙しくないかと問われれば忙しい自分が現世に行くと考えにくかったからだ。

「……あ、いえ。やっぱり忘れて――」

「会うことがあれば、お伝えします。十二番隊、葛原粕人の名に()けて」

「あ、ありがとうございます!」

粕人の言葉に、男性は目に涙を浮かべながら再び頭を下げた。

 

 

 

この一ヶ月後に現世行きを通達されることになると、この時の粕人は知る由もなかった。

 

 




筆先文十郎オリジナル設定で
①柴田ユウイチは高校生くらいの青年に成長し、母親と再会した
②井上昊は妹の織姫と似た髪色をした少女、夕姫の兄となって暮らしている
という設定にしてます。
本作が二次創作でこんな未来もありかな、と寛大な心で読んでいただけると幸いです。

ボーンホース
西流魂街から離れた丘でユウイチと夕姫を襲ったユニコーンに似た虚。粕人に角を斬られ、痺れ薬が塗られた針で動けなくなったところで首を刎ねられた。

柴田ユウイチ
チャドに助けられた少年。
高校生くらいの青年に成長し、母親と再会を果たした(筆先文十郎オリジナル設定)。

井上昊
井上織姫の兄。東雲夕姫と兄妹になって幸せに暮らしている(筆先文十郎オリジナル設定)。

東雲夕姫
井上昊の妹。兄のためにプレゼントになる石を探していたところをボーンホースに襲われる。

「実は柴田ユウイチと井上昊はこういう設定だよ」と公式の後日談があるなど設定が食い違うことがありましたら教えていただけると幸いです。

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