天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


新章第五話 眠八號誘拐事件。犯人・葛原粕人を捕縛せよ!

(くろつち)隊長へ。(ネムリ)さんと一緒に近くの裏山に行っています。ちゃんと無事に帰りますので心配しないで下さい。葛原(くずはら)粕人(かすと)より』

「おのれぇ、クズの分際で私の娘を誘拐するとは!ただで済むと思うなヨ!」

マユリは机に置かれた手紙を握りつぶした。

 

 

 

「捕われてる?(ネムリ)八號(はちごう)が、ですか?」

「そうだ、間違いない!急いで救出しなければ眠八號の身が危ない!」

数分後。マユリは粕人が眠八號を連れて裏山に行ったという手紙を残していることを副隊長の阿近(あこん)に伝えた。

「葛原がそんなことをするとは思えませんが」

「何を言う!あのクズに私がやったことを考えれば……ハッ!?」

マユリの頭の中にモザイク無しでは放送できない内容が脳裏を(かす)める。

 

『イ、イヤアアアァァァッ!クズさん、止めて下さいィッ!!』

『グヘヘッ、そんなことを言ってここはそうは言っていないようだが?』

 

「おのれ、あのクズがぁ!」

嫌がる愛娘に児童ポルノ禁止法に当たる行為を想像し(いきどお)りが隠せなくなっているマユリ。

そんな上司に「隊長。何かとんでもないゲスなこと考えていませんか?」と突っ込む阿近だったが、怒り狂う奇怪な顔の隊長にその言葉が届くことはなかった。

「阿近。直ちに私の大事な眠八號を(けが)すあのクズを捕まえてくるんだ!」

 

 

 

十二番隊隊長である涅マユリの命令に、阿近率いる眠八號救出兼葛原粕人捕縛部隊三十名が粕人と眠八號がいると思われる近くの裏山のふもとに集結していた。指揮官の阿近を含め、全員が武装をしている。

「これより眠八號の保護と葛原の身柄を拘束する。相手は一人とはいえ地の利は向こうにある。油断はするなよ」

(ったく。うちの局長も過保護だよな。大体あの臆病者の葛原が眠八號を誘拐したとも思えねぇ)

とはいえ我を忘れて怒り狂う上司を止める(すべ)を、角の生えたような強面の副隊長は知らなかった。逆らえばひどい目にあっていることを百年以上の付き合いのある副隊長は知っていた。

こうして乗り気ではない十二番隊副隊長の指揮下の元、眠八號奪還作戦が開始された。

さほど大きな山ではないとはいえ山は山。自分を含めた三十名を六で分けた阿近は、自分の班を除く五つの班を五方向に分けて探索させた。

 

 

 

裏山北側。

技術開発局通信技術研究科霊波計測研究所研究科長、鵯州(ひよす)率いる二班は『ここからは罠が張られて危険なので入らないで下さい』と侵入防止用の縄を切って山を登っていた。

「しかし葛原二十席一人捕まえるのにこんなに人数が要りますかね?」

十二番隊に配属されて間もない隊員が馬鹿にするかのように呟いた。

「だってあの人。涅隊長に顎で使われているじゃないですか。技術開発局にもほとんどいないし。実験とかしているところほとんど見たことないし」

「確かにな」

前を歩くフグのようなギョッとした目の男が含みのある相槌を打つ。

「鵯州さん。まさか、あの人が実は凄い人、なんていう気じゃないですよね?」

科学者(・・・)としてはな」

科学者としては。その言葉に隊員は反応する。

「ということは、鵯州さんはあの人を凄いと思っているのですか?」

「すげえよ、あいつは」

間髪入れずに返答する男に、隊員は言葉を失った。

十二番隊で鵯州と葛原粕人、どちらが重要かと問われればほぼ全員が鵯州と答えるだろう。そんな人物が技術開発局で雑用をやらされている男を『すごい』と言い切る。

粕人をよく知らない隊員には信じられなかった。

兵間(ひょうま)、一つ覚えておけ。葛原粕人(あいつ)は技術開発局という組織では能力は決して高くはない。義骸一つ作るのに俺らの倍はかかる。十年以上技術開発局にいるのに未だにその程度の腕しかない。しかしあいつは涅隊長の嫌がらせとも言える要求に我が身を削って応え続けた。そしてあいつは自分が弱いことを知っている。だからこそ敵に回すとやっかいな奴だ。隊長には負けるけどな」

「……」

尊敬する上司の言葉だったが、兵間と呼ばれた新入りは納得しなかった。

(鵯州さんが言うとおり、あの男はバカで弱いんだろう?なのに敵に回すとやっかいな奴?意味が分からない。俺はこれでも文武両道に努めてきた。研究に興味があったから十二番隊に志願したが、所属隊士の能力が高いのが特徴の五番隊を薦められたほどだ。はっきり言って斬拳走鬼(ざんけんそうき)、そして頭。全てにおいて俺の方が上だ)

自分が下に見ている男がすごいと評価されていることに怒りを抑えられない兵間。その時だった。

 

「「うわあああぁぁぁっ!?」」

 

後ろを歩いていた隊員の悲鳴に鵯州を始めとする隊員が振り返る。そこには隊員二名が片足程度の浅い落とし穴にはまっていた。

「く、くそっ!接着剤か?」、「ぬ、抜けない!」

「大丈夫か?」、「今助けるぞ!」

落とし穴から抜け出せなくなった隊員を救おうと別の隊員二名が近寄る。

「ま、待て!迂闊(うかつ)に動くな!」

鵯州の止める言葉は遅かった。

 

バサッ!

 

低い位置に張られた細い糸を踏んだ瞬間、上から網が落ちてきたのだ。

「な、何だこの網!?」、「く、クソ。網が身体に絡みついて!」

「兵間、迂闊に動くなよ!周りをよく見て――」

上司が言葉を失ったことに疑問を覚えた新入隊員。彼はバカにしていた男の本当の恐ろしさを知ることとなる。

(な、なんじゃこりゃあ!?)

再び前を見ると、そこには坂道を転がり落ちる大量の丸太があった。敵対する者は容赦なく叩きつぶすと言わんばかりの罠の応酬。

後ろで身動きを取れなくなる隊員の姿を見ている兵間は罠にはまることを恐れて満足な動きが出来ず、前に立つ鵯州と共に丸太に押しつぶされた。

 

 

 

裏山ふもとに設置された眠八號救出兼葛原粕人捕縛隊の野営地は騒然としていた。

「阿近副隊長、鵯州研究科長率いる第二班が全滅。救援要請を求めています!」

「第三班。罠にはまって身動きが取れないと」

「四班が助けて欲しいと」

「第五班もやられました!」

「第六班、以下同文です!」

指揮と情報伝達をする自分の班を除く全ての班が全滅したという報告に、阿近は頭を抱えた。

(そうだ。あいつは普段のほほんとした顔をしているから忘れていたが。あいつは涅隊長に虐めに虐められてきたから色々と智恵を振り絞るようになったんだ。一人で大王イカを釣ったり、(ホロウ)が出る危険区域に研究素材を採取するくらいに。しかしほとんどの奴らが油断していたとはいえ、二十四人もの隊員を全滅させるとは……)

知らない所で着実に実力をつけていた男の力を見せつけられて、阿近はおもわず(ひたい)に手で押さえた。

「あれ、皆さん。こんな所でどうしたんです?」

どうすればいいのか思案に暮れる隊員達の前に、一人の男が陣幕を手でどけて入ってきた。

男の背には可愛らしい寝息を立てている少女の姿が。

「く、葛原!お前今までどこに行っていたんだ!?」

「え、今日は僕、休日なので眠さんに頼まれて一緒に秘密基地を作っていたんですよ」

強い口調で尋ねる阿近の声に、粕人は一瞬だけ驚く。

「いやぁ、秘密基地なんて作るのは百年ぶりでして。頂上に眠さんとそのご親友の阿散井(あばらい)苺花(いちか)さんの秘密基地は作ったのはよかったのですが。『これじゃあ味気ないな』と思って周囲に罠を仕掛けてみたんですよ。……え、皆さんどうしたんです?」

怒りのオーラをゆらゆらと漂わせる阿近達に、背中で寝ている眠八號を地面に優しく置いた粕人は思わず後ずさる。

「全員、葛原を捕まえろ!」

阿近の命令に隊員達が襲い掛かる。

何が何なのか分からない粕人はあっという間に取り押さえられ、怒り狂うマユリの元に送られた。

 

 

 

その後罠にかかった鵯州以下二十三名は無事救出されたものの、数日ほど葛原粕人の姿を見た者はいなかった。




兵間(ひょうま)
今年十二番隊に配属された隊員。優秀な人材が集まる五番隊を薦められるほどの実力者。雑用係として走り回る粕人をバカにしていた。
鬼道を使う間もなく粕人の仕掛けた罠に引っかかった。
筆先文十郎オリジナルキャラ。

阿散井苺花(あばらい いちか)
朽木ルキアと阿散井恋次の間に生まれた娘。名前だけの登場。
筆先文十郎設定では彼女と眠八號は親友関係。

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