天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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・シリアスです。
・ギャグ&コメディ回ではないです(たぶん)。
・ツッコミどころしかないかと思われます。
・時間的に戦闘シーンは単行本BLEACHの64巻、187~188ページの間です。
・残虐な描写があります。

・楽しんでいただければ幸いです。


クズと呼ばれる男は一人でバンビーズ(-1)に挑むようです

「ラァ~~ッキィ☆バカが一か所に集まってくれたから一網打尽じゃね!?」

「ちっ、それにしても・・・はらへったな~~~っ」

「ダメですよぅ、隊長さんはもう死ぬんですぅ。かけつけたってムダですよ~~~~><」

「ハイッ。みんな切腹ゥ──」

 バンビーズの四人は、グレミィ・トゥミューとの戦いで傷ついた更木剣八の周囲にいた隊士達を片付ける。

 

 さて。更木剣八(あの男)を殺すとしよう。

 

 四人が倒れている更木剣八(特記戦力)の方へ振り返った。その時だった。

「おい、そこのドブスども!」

 その声にバンビーズは振り返る。そこにはただの死覇装を来た小柄で華奢な男が立っていた。

「あぁん? だれだよ、おめぇはよ!」

 キャンディス・キャットニップが声を荒らげる。

 その言動に男は侮蔑にも見える微笑を浮かべる。

「僕の名前は葛原(くずはら)粕人(かすと)。貴女方が殺した隊士と変わらない、覚えている価値もない……十二番隊の平隊士です」

 カス同然の霊圧の雑魚が自分たちに喧嘩を吹っかける。その姿にある者は苦笑し、ある者は憤怒の表情を濃くする。

 そんな彼女達に、男は笑みを崩さず対峙し続けた。

 

 

 

(くろつち)隊長。お願いがあります』

 数時間前。男は何らかの作業をしているマユリの元を訪れていた。

『今お前のようなクズを相手にしている時間はない。さっさと持ち場に戻れ』

 背を向けたまま邪険の言葉を放つ上司の言葉を気にすることなく、男は衝撃的な発言を口にする。

『更木隊長を監視させてください』

『!? ……、理由を聞こうか』

 マユリは手を止め、男の方へ振り返る。

『更木隊長は強くなりました。更木隊長が死ねば戦局が大きく傾くほどに。それはつまり更木隊長を殺すためより強大な敵が集まっていくということです』

『お前程度では犬死だよ』

 手助けをする気なら無意味どころか邪魔にしかならない。そう切り捨てる上司に男は微笑む。

『だから監視なのですよ、涅隊長。更木隊長を殺そうと多くの敵が集まる。集まった敵は更木隊長を殺すために“手の内を見せる”。涅隊長の元に一つでも多くの情報が集まれば涅隊長は“より確実でより最小限の被害ですむ対応策を思いつく”』

『……』

 男の言葉から感じられる自分への信頼に、マユリは言葉が紡ぐことが出来なかった。そんなマユリを見ながら男は続ける。

『涅隊長。僕は涅マユリという男はそれだけの頭脳を持っている男だと信じております。僕の人を見る目は間違っているでしょうか?』

 言葉こそ丁寧なものの言っていることは“涅マユリは情報が集まって何の対応策も取れないバカじゃないでしょう”ということだった。

『ほう、言ってくれるじゃないか?』

 不気味な笑みを浮かべる奇怪な顔の隊長に、男も釣られて不気味な笑みを浮かべる。

『そこまで言うんだ。“敵と遭遇してすぐに死にました”は許さんぞ』

『安心してください。『僕は涅隊長の実験の実験体にされるのが一番輝いている』存在ですよ。有益な情報を持ち帰り、必ずや涅隊長の元へ帰ってきます(・・・・・・・・・・・・)

『……そうか』

 マユリは見逃さなかった。男が一瞬だけ悲しい目をしていたのを。

『クズ。お前の斬魄刀を貸せ』

 男から斬魄刀を受け取るとマユリは男に背を向けて何かをする。

『ほら、受け取れ』

 背を向けたままマユリは男の斬魄刀を放り投げる。

『おっとととっ!?』

 慌てて受け取った男は気づく。(つか)の先に涅隊長の顔をした太陽のストラップが付けられたことに。

『それは盗聴器と監視カメラが内蔵されたものだ。無くすなヨ』

『行ってきます』

(涅隊長。今までありがとうございました)

 男は上司に頭を下げると部屋を後にした。

 

 

 

「てめぇ、怖くないのかよ!」

 ライム色の髪をした少女が睨みつけながら男に言い放つ。猛獣すら恐怖でショック死しそうな視線に男は笑いながら答える。

「怖いですよ。“護廷十三隊四番隊隊長の卯ノ花(うのはな)隊長と十二番隊隊長の涅隊長を同時に敵に回す”。その次くらいに」

「「「「……ッ!!」」」」

 その発言は彼女達の(かん)(さわ)った。

 カス同然の霊圧しか持たない男が。自分達よりも、自分達が格下と思っている隊長の方が恐ろしいと笑顔で語る姿に。

 彼女達の頭の中に『弱いからさっさと殺してしまおう』という考えは無くなった。

 代わりに湧き出たのは『どうしたらこの男を一番苦しんで殺すことが出来るか』。

「じゃあ死んでくださいぃ」

 ピンク色の髪をした少女、ミニーニャ・マカロンが地盤ごと近くにあった巨大な柱を引き抜くと男に向けて投げつける。直撃と思われたが男は平隊士とは思えない跳躍力で横に跳んでそれを避ける。

「バカじゃねぇの!? ガルヴァノブラスト!!」

 一撃で殺せなかった仲間を罵りながらライム色の長髪の少女が矢を(つが)えると男に向けて放つ。

「……ッ!?」

 雷の矢は男の心臓を貫く。

 

 殺った。

 

 誰もがそう思った時だった。

 

 パアァンッ! 

 

 男の身体が風船のように弾け飛んだ。

「「「「!?」」」」

 男の形を模した携帯用義骸が破裂する光景に、バンビーズは釘付けになる。

「ど、どうなっているの!?」

 小さな軍帽を被り、長髪の黒髪を触覚のように結んだ少女が目をこする。その時だった。

「戦場で一瞬でも目を閉じるなんて自殺行為だと思いますが?」

「!?」

 ジゼル・ジュエルは視線を背後に向ける。そこには(つか)に右手を置き、左手で(さや)を持ち、左足を半歩下げて屈みこんだ男の姿があった。

「血を浴びた者を自分の言いなりにしてしまう死体にする貴女の能力は見させてもらいました。同時に深手を負ってもすぐに治してしまう貴女の再生能力も」

でも、と男は続ける。

「首を落とされても貴女は生きていられますか?」

 言い終わると同時に男は刀を抜いた。目にも止まらぬ速さで抜かれた刀が狙うのは目の前の少女の細首。

 しかし男の刀は少女の首に届くことはなかった。

「遅いよ」

 少女は男に背を向けたまま、迫り来る刃を掴むと刀ごと男を投げ飛ばした。

「グアッ!?」

 投げられた男は地面に叩きつけられる。

「ボクを殺すんだったらさっさと殺しなよ。もっともそんな刀でボクの首が落ちるとは思えないけど。ッ!」

「ウガァッ!」

 地面に倒れる男の腹を少女はグリグリと踏みにじる。

「アンタもボクの死体になってね」

 そう言うと少女はまだ乾ききっていない、手についた血を男の身体に落とした。

「や、やめろッ!!」

 先ほど切腹させられた隊士たちの姿を見ていた男は絶叫した。

「じゃあ君は自分で自分の首をチョンパ♪」

 少女は男から離れる。男は立ち上がると持っていた刀を自分の首に当てた。

「い、嫌だ……死にたくない!! うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!?? …………なんてね」

 人を小馬鹿にするような笑みと共に男は刀を下ろす。

「貴女さっき言ってましたよね? 『そんな刀でボクの首が落ちるとは思えないけど』って。その通りですよ。僕の斬魄刀・幽世(かくりよ)閉門(へいもん)尸魂界(ソウル・ソサエティ)で一、二位を争う切れ味の悪さでしてね。ただ力を入れて押し当てただけでは皮膚一枚切れないほどに」

「……」

 苦虫を潰したような顔で“死者(ザ・ゾンビ)”の能力を持つジゼル・ジュエルは男を見る。

「……それに貴女は気づいているんじゃないですか? 僕が操られていない(・・・・・・・・・)ことに」

 その言葉にジゼルは大きく目を見開く。

「貴女は貴女の返り血を浴びた死神に言ってましたよね? 『ボクの血を浴びるとね。ボクの言うことしか聞けない死体になっちゃうんだよね────ッ』って。ということは相手が何らかの力で死体にならない死神(・・・・・・・・・)だったら? その死神はゾンビになるでしょうか?」

「……ッ!」

 その答えは男の身体が証明していた。

「つまりその何らかの力(・・・・・)がその刀の力だったら。お前は死ぬ、ってことだよな?」

 様子を見ていた金髪の少女、リルトット・ランパードの指摘に男の顔から笑みが消えた。

 男は無意識に不利な情報を漏らした自分の浅はかさを呪った。

(涅隊長なら巧妙にこちらに不利な情報は隠していただろうに。……どうやら僕は涅隊長の足元にも及ばなかったようだ。これじゃあ時間稼ぎにもなりゃしない)

 男は黒焦げで地面に倒れる更木剣八に目を向け、覚悟を決めた。

(涅隊長。申し訳ございません。僕は、ここまでのようです)

 弱点を発見したバンビーズの行動は早かった。

 ミニーニャが男の背後に立つと刀を持つ腕を引き千切った。

「……ッ!? ……………………!!!!」

 血しぶきを上げる腕。

 男は歯を食いしばり今にも口から出そうな断末魔の叫びを力づくで抑え込む。

 怪力の少女は引き千切った男の手から斬魄刀・幽世閉門を奪うと、原型がなくなるほどに粉砕した。

「死ねや、雑魚が!」

 ピンク髪の少女が男から離れたのを確認したキャンディスの雷が男に直撃する。

「……………………ッ!!!!」

 全身が一瞬で黒こげになるほど焼かれる痛みにも歯を食いしばったまま、男はその場に崩れ落ちる。

 まだ死んでいない、虫の息の男を。リルトットは観察するように見た。

「カス同然の死神がオレ達の前に一人で立ち向かった勇気を(たた)えて。ゆっくり(・・・・)味わって食ってやるよ」

 金髪の少女は口をもちのように伸ばすと真っ黒こげの男に向けて大きく口を開けた。

(……卯ノ花隊長。貴女は涅隊長の策を確実にする情報収集のために捨石(すていし)になった僕をどう思うでしょうか……涅隊長の元へ必ず戻るという約束を破った、この僕を)

 そんなことを考えた男は苦笑し、死を目前に心の中で呟いた。

(卯ノ花隊長。今そちらに────)

 

 バシュッ! ガリッ! バキィッ! 

 

 肉がそぎ落とされ骨が砕かれる。痛覚だけでなく視覚や聴覚でも肉体が食べられていることを実感させられる。それでも男は最期まで叫ぶことなく

 

「────」

 

 絶命した。

 

 

 

 

「……クズ。お前の死はムダにはしないヨ」

 柄に取り付けたストラップから部下の最期を見届けたマユリは作業を止めることなく呟いた。

 命を賭して得た部下の情報を無駄にはしないと言わんばかりに。

「まぁ、あのクズの斬魄刀はあの時すり替えておいたのだがネ」

 そう言ってマユリは満面の笑みで男の斬魄刀を取り出した。

 




戦闘描写って難しいですね。

負けると分かっていても情報収集と更木剣八を助ける時間稼ぎのために死んだ男には書いていた本人も少し感動しました。

そして悲しい結末、男の覚悟と最期をぶち壊す涅マユリ・・・。


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