天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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・シリアスです。
・ギャグ&コメディ回ではないです。
・ツッコミどころしかないかと思われます。
・時間的に無理がある(四番隊の平隊士である仏宇野が卯ノ花隊長が死んだことを知っているなど)所があります。
・楽しんでいただければ幸いです。


千年血戦篇にクズと呼ばれる男が出ていたら

「――――え?」

四番隊時代の同僚で親友、仏宇野(ふつうの)の言葉に、マユリにクズと呼ばれている男は絶句した。

「……………………、俺だって信じたくはないさ。だけど!」

親友の反応を仏宇野は痛いほど理解できた。自身も信じられなかったからだ。自分自身嘘だと思いたい。しかし。だからこそ仏宇野は目の前の男にもう一度言った。

卯ノ花(うのはな)隊長が……亡くなられた」

「――――ッ!」

 

ガクンッ!

 

男は放心したまま音もなく膝から崩れ落ちた。

男にとって卯ノ花烈という女性は自分の進むべき道を指し進めてくれた大恩人だった。

 

その大恩人と、二度と会うことができない。

 

認めたくない真実が、男の気力を根こそぎ奪い取った。

「……………………」

「……………………」

二人の間で永遠とも思える空白がその場を支配する。

「!そうだ、何でだ!?何で卯ノ花隊長が亡くなられたんだよ!!??」

放心から立ち直った男は目の前の親友の胸を掴んで尋ねる。

言っていいのか悪いのか悩むこと数秒、仏宇野は言葉をつむぐ。

「無間にて“更木(ざらき)隊長に剣術を教える”という指示で……うぅっ、うううっ……」

言葉を詰まらせ仏宇野は涙をポロポロと流す。

「そうか。更木(・・)剣八(・・)にかぁ……」

余所(よそ)とはいえ上司である隊長を呼び捨てにした男は出口に向かう。その行動に違和感を覚えた親友は男の肩を掴む。

「まさか、葛原。お前、更木隊長とやりあおうと考えてな――!?」

仏宇野は言葉を続けることが出来なかった。四番隊時代には持っていなかった、全身から立ち上る男の凶悪な気に当てられたからだ。

恐怖で固まる仏宇野は部屋を出る元同僚を止めることが出来なかった。

 

 

 

卯ノ花(うのはな)八千流(やちる)から“剣八”の名前を譲り受けた更木(ざらき)剣八(けんぱち)は自室で休んでいた。部屋の光源はわずかに入る月明かりのみ。

「……おい。出てきたらどうだ?」

『……やはり僕程度の技術者に毛が生えた程度では本物(・・)とは程遠いというところか。それとも貴方が凄いのかな?』

剣八が語りかけると語りかけられた者、霊圧を遮断する外套(がいとう)に似た物を着た男が突然姿を現した。

「更木隊長。お疲れの所申し訳ございません」

男は膝をついて頭を下げる。

「……用件は何だ?」

「……」

眼帯の隊長を前に。男は立ち上がって静かに愛刀・幽世閉門(かくりよへいもん)(つか)に右手を置き、左手で(さや)の部分を握った。

「用件は……貴方の命です!」

その瞬間。男の目がカッと見開き、一気に間合いを詰め、刀を抜いた。

「……」

避けることも受け止めることも反撃することもなく……瞬き一つしない剣八の目前で刀は止まった。

「……小僧。何で刀を止めた?俺を殺すんじゃなかったのか?」

「……」

男は目を見たまま、尋ねる。

「更木剣八、お前に一つ聞きたい。……卯ノ花隊長……いや。……卯ノ花烈(・・・・)は最期、どんな顔をしていた?」

「……笑っていたぜ」

男の目をみたまま、剣八は瞬き一つせず言った。

男は静かに刀を下ろす。

「……そう、ですか。失礼しました。数々の無礼、お許し下さい……どのような処分も甘んじて受け入れます」

「あん?いかんなぁ、疲れているみてぇだ。幻覚が見える」

「……ありがとうございます、更木隊長(・・・・)

刀を納めた男は再び霊圧を遮断する外套を被り、剣八の部屋を後にした。

剣八はこのことを誰にも言わなかった。

 

 

 

「竹馬棒。ちょっと……散歩に行ってきてくれないか?一人にして欲しい」

自室に戻った男は、出迎えたペットに外に出るよう促した。

主の心中を察した竹馬に似た生物は扉を閉め、男の部屋を後にした。

「……」

男は布団に顔を(うず)めると

 

「…………………………………………ッッッ!!!!」

 

布団の中で、声にもならない声で号泣した。そうでもしなければ周囲に聞かれてしまうからだ。

 

男は知らない。元上司であり自分の生きる道を示してくれた女性が元は尸魂界(ソウルソサエティ)の空前絶後の大悪人で初代『剣八』であったことを。

 

男は知らない。恩人である女性がかつて卯ノ花八千流と名乗り、更木剣八と戦ったことを。

 

男は知らない。恩返しをしたいと思っていた女性が、“自分自身の弱さのために更木剣八の力を封じさせてしまった”ことを()いていたことを。

 

だが男は知っていた。更木剣八を殺しても卯ノ花烈が笑わないことを。

そして。怒りの矛先を自分ではなく他人に向ける、……すなわち“逃げ”だということを。

男は布団から顔を上げる。その目には殺意も、怒りも、迷いもなかった。

男は静かに目を閉じ、(まぶた)の中にいる卯ノ花烈に語りかけた。

「卯ノ花隊長。貴女がどういう心境で()かれたのかは分かりません。貴女は僕にとって大事な人でした。そんな貴女が生きている間に、僕は恩返しをすることは出来ませんでした。ですが見ていて下さい。葛原粕人の生き様を。貴女に救われた男が、貴女が生きていたことを証明する姿を」

『……』

瞼の中の女性は、優しい笑みを浮かべていた。

 


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