本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。
この話は『フランダースの犬』の悲しい結末を破壊します。
「こんなフランダースの犬は嫌だ!」と思われるかもしれません。そうなった場合はこの場を借りて先にお詫びの言葉を述べさせていただきます。
マユリにクズと呼ばれる男が仕事から戻ると、そこにはドラ○もんに登場する通り抜けフー○によく似た黄色いフラフープをかたどった道具が壁に取り付けられていた。
ただドラ○もんに登場する通り抜け○―プは通り抜ける壁の原子をゆらして穴を開け、そのままフープをくぐってその壁の向こうへ抜けることができる。つまり向こう側が見えるはずなのだが、壁に取り付けられているフープの向こう側は暗くて何も見えない。
そして男が気になったのは
『クズ。このフラフープを通り抜けるんじゃないよ』
という張り紙が。
「誰が通り抜けるものか。こんな怪しげなもの」
そう言って男は布団を敷いて読書をする。
「『
何度も読む論語を置き、今度は福沢諭吉の学問のすゝめを手に取る。
「多くの人は『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』という部分から人間とは平等であるべきと教えていると思っているけど、これには続きがあって勉強しないと貧しい人間になるよ、と書かれているんだよな。僕もそんな人間にならないように勉強しないと」
そうして堅苦しい本からやドラえもんを読み進めていく。
だが時がたつにつれ、男の視線は本ではなく壁のフラフープと張り紙に奪われていく。
男の部屋は一畳という布団を敷けばそれだけで部屋が占領されてしまう狭い部屋。どうしても壁にかけられたフラフープと『クズ。このフラフープを通り抜けるんじゃないよ』と書かれた張り紙が目に付いてしまう。
最初は気にせず本に集中していた男も、次第にフラフープが気になり始めていく。
さらには『クズ。このフラフープを通り抜けるんじゃないよ』というカリギュア効果により(『やめろ!』とにより言われるとやってみたくなり、『やれ!』と言われるとやる気がなくなる事)、男はフラフープを通りたい欲求を抑えきれなくなり始めていた。
「あああ!もうダメだ!!」
頭や身体をかきむしり、何とか飛び込もうとする欲求を抑えていた男だったが遂に耐え切れず、フラフープに飛び込んだ。
「ふがっ!?」
尻餅をついた男は「いたたっ」と尻をさすりながら辺りを見渡す。
「どこだ。ここは?」
そこはどこかの大きな教会の中だった。
そしてしばらくして男は二つの絵に目を奪われた。
着ている服をはがされていく一人の男が十字架にかけられた絵とかけられた男の胸に槍が刺さる絵だった。その絵は男達の筋肉と筋肉、表情や背景など細部にわたって描かれていた。
「パトラッシュ。僕、何だかとても眠いんだ……」
今にも消え入りそうな声が男の耳に聞こえた。
視線を下に下げると、そこにはみすぼらしい身なりの金髪の少年とやせ細った犬が横たわっていた。
その光景で男は全てを察する。
(これはあの有名なフランダースの犬で、主人公のネロとパトラッシュが天国に行く前の最後のシーンだ!
貧しい祖父と2人で暮らすネロが同郷のルーベンスに憧れ、画家への道を夢みていた。しかし、仲の良いアロアと遊ぶことを禁じられ、理解者だったおじいさんが亡くなる。
そして放火の疑いをかけられて仕事も失って住んでいた小屋を追い出され、すべての望みを託した絵のコンクールにも落選。
失意に沈む道中、アロアのお父さんの全財産が入った財布を拾ったがネコババすることなくアロアに届け、大聖堂で飾られているルーベンスの絵を見た後、愛犬のパトラッシュと共に天に
このままでは目の前の少年と犬が死んでしまう。そう思った男の身体は考えるよりも先に動き出していた。
「死ぬな、死んだらダメだ!」
男は今にも眠りそうな一人と一匹に声をかけて身体を触る。少年と犬の身体は氷のように冷たかった。
「あ、貴方は?」
消え入りそうな声で少年は尋ねる。
「ネロ君。君はここで死んではいけない!今君はルーベルスの絵を見る以上の幸せな未来が待っているんだ!!」
ネロはわずかに開いた目で男を見る。その目には「貴方は何を言っているんですか?」と書かれていた。
男は少年の目を見ながらはっきりと言い放つ。
「君を邪険にしたアロアのお父さんは君がお金を届けたことを知って、アロアとつき合うことも認め、『わしはあの子に償いをしなければならん』と、これまでの仕打ちを深く反省しているんだ!」
その言葉にネロは大きく目を見開く。だがその目も「で、でも……」という言葉と共に小さくなっていく。
「……僕は、風車小屋の放火の疑いを……」
「それも大丈夫だ!風車小屋が燃えた原因は君が放火したからではなく、風車小屋の管理を任されていた男が
「そう……ですか、でも……僕は自信があった絵の才能が、なかったんです……こんな僕が生きていたって……」
「違う!」
男は全力で否定する。
「君には才能があったんだ!コンクールの審査員の一人が、『私はこれを描いたネロという少年に、アントワープが世界に誇る大画家・ルーベンスの跡継ぎになり得る、恐るべき素質を見出しているのです』と絶賛したんだ。そして『彼を引き取って、できる限り絵の才能を伸ばしてやりたい』とも言っている」
「……」
「その言葉にアロアのお父さんも『ネロが戻ってきたらわしのうちに迎えて、アロアと同じようにどんな勉強でもさせてやるつもりだ。それがせめてもの、わしの償いなんだ』と言っている!」
「……」
少年は信じられないという目で男の言葉を聞く。そんなネロに男は一番言いたいことを伝える。
「君は何も後ろめたいことはしていないし絵の才能がある。そして君が死ねば悲しむ人間が大勢いる!だから君は絶対に生きるんだ!!皆のために、そして君と愛犬パトラッシュのために!!!」
「あ、ありがとうございます……」
その言葉に少年は静かに笑う。
「でも、もう……僕には力が…………え?」
ネロは男の突然の行動に目を疑う。男は着ていた服を脱ぐと自分とパトラッシュに被せたのだ。そして少年と犬を脇に挟んで歩き出す。
「あ、あの――」
何で僕のために。そう聞く前に男は答える。
「目の前で死のうとしている人間に手を差し伸べない人間なんているものか!君とパトラッシュは死なせはしない!!」
自分が死神ということを忘れ男は少年と犬を眠らせないように励ましながら大聖堂を出た。
「ネロ!」
先ほどまで外で出てネロを探していたアロアは失意の内に家に戻ると、窓から外の様子を見ながら少年の無事を祈っていた。その時だった。
コンコン、コンコン……
今にも消え入りそうなドアを叩く音が聞こえた。
「!」
少女は急いで扉を開けた。そこには
「ネロ!パトラッシュ!」
玄関には親友の少年とその愛犬が、和風の死神が着ていそうな黒い服の上で横たわっていた。少女は急いで両親を呼ぶと、二人は少年と犬を暖炉に運んだ。
一向に目を覚まさないネロとパトラッシュ。誰もが死を覚悟した、その時だった。
「……ん、んんっ。……あれ?……ここは?」
少年がゆっくりと目を開けた。その少年と合わせるように愛犬のパトラッシュもゆっくりと目を開けて「クゥ~ン」と小さく鳴いた。
「ネロ!!パトラッシュ!!」
目を覚ました少年と犬に、少女は涙を流しながら抱きついた。後ろで見守っていた両親もうれし涙を流す。
「良かった」
窓からその様子を見ていた男はそこからゆっくりと立ち去り、
「……ッ!?」
崩れ落ちた。
氷のように冷たい風と雪が吹く中、下着一枚で少年と犬を励ましながら歩いたのだ。体力は
「……し、死神が……死んでいく者の代わりに死ぬなんて……笑い話にもならないな…………」
葛原粕人はそう言って苦笑すると、
「――――」
ゆっくり目を閉じた。
雪は最初から男がいないことにしたかったかのように横たわる男の身体を覆い尽くした。
その後。アロアとの親交を許され、放火の疑いが晴れ、絵の才能を認められたネロは豊かになっても心優しい気持ちを持ったまま成長し、多くの人と共に幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
自分の中で「何でネロとパトラッシュが死なないといけないんだよ!」という怒りが湧いてきたのでこんな話を書いてしまいました。
なんだかな、とは思いましたが後悔はしてないです。