本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。
マユリにクズと呼ばれている男は例によってマユリに呼び出されていた。
「クズ、これをどう思う?」
奇怪な顔の上司の手には子どもが落書きで書いていそうな銃が握られていた。
「すごい、怖いです」
自分を何度も殺しかけている(男は死んだ前後の記憶がすっぽり抜けているので死んだと気づいていない)マッドサイエンティストが銃を持っている。恐ろしくないわけがなかった。
「なるほど。やはりクズでも、いや……クズだからこそ危険察知能力が特化しているから気づいたか?」
そういいながらマユリは手にする道具の説明を始める。
「これは高速短縮ガン。これを人間に向けて3秒ほど照射すれば猛烈な勢いで歳を取って瞬時に白骨死体になる発明品だ」
(なに息を吐くように
普段なら「ドラ○もんの年月○縮ガンですね」と言うところだったが目の前の上司の説明に男は心の中で突っ込む。
(あれを
その時男にある考えが浮かぶ。
「そういえば涅隊長……」
男は懐に手を入れた後、手を後ろに回して何かをしながら会話を続ける。
「今日はお日柄もよくいい天気ですね~」
「今は夜だぞ?」
マユリは男に呆れながら突っ込みを入れる。
「あ、そうでしたね。はははっ」
後ろに回していた手が止まると男は口を開く。
「そうだ、涅隊長。その年月圧縮……じゃなかった高速短縮ガンを触らせてもらっていいですか?」
「……壊すなよ」
いぶかしむマユリから子どものおもちゃのような銃を受け取った男は「へぇ、すごいな」と漏らしながら色々な角度から銃を眺める。
「なるほど。ありがとうございました」
そう言って男は銃を返すと
「それでは仕事に取り掛からないといけないので失礼します」
と足早に部屋を去っていった。
「ふう、持ってて良かった。いざと言うときのダミー用部品」
夜勤を終えた男の手には高速短縮ガンがあった。
男はマユリが持っていた銃が、自分が服の中に隠しているダミー用部品と形が類似していたことに気づくとすぐに高速短縮ガンとそっくりの物を作ったのだ。
発明品をすり替えることに成功した男は高速短縮ガンを懐に入れたまま流魂街を散歩していた。
「お前バカじゃないの!」、「それは童話の話だけだって!」
「本当だよ!」
声のした方へ歩くと、そこには背の高い少年二人組と背の小さいの少年が言い争っていた。
「お父さんが言っていたよ。ハサミでチョッキンチョッキンしたら柿が驚いて一気に成長して実がなるって!」
少年は柿の種を持ってそう主張する。
「だったら今すぐその種を実のなる木にしてみろよ!」
「い、今はハサミがないから無理だよ……」
「そうか、じゃあ明日お前の家に言ったら柿を食べられるんだな?」、「じゃあ楽しみにしているぜ!」
そういい残し、背の高い少年二人組は少年の前から姿を消した。
「……どうしよう」
少年は困った顔で柿の種をジッと見る。
「どうしたんですか?」
男は少年の目線の高さまで屈んでから少年に尋ねる。
「お、お兄ちゃん。誰?」
「僕は……
「
少年はテンションの低いまま男に自己紹介をする。
「……柿の種だね。どうしたんだい?」
先ほどの光景を見ていた男ではあったが、あえて知らない風を装って尋ねる。
「俺、明日までにこの種から柿の実を作らないといけないんだ」
「う~ん、それは無理じゃないのかな?」
「絶対柿なるよぉ!」
男の常識的な意見に、少年は真っ向から否定する。
「父ちゃんが、死んだ父ちゃんが昔言っていたんだ。柿の種は『ハサミでチョッキンチョッキンすると一気に成長して実がなるんだ』って」
涙ぐむ少年に男はなぜ少年の父親がそんな夢物語のようなことを言ったか察する。
(たぶん。それは童話の猿蟹合戦のことを言っていたんだろうな。それをこの少年が本当のことだと勘違いして覚えた。そんなところかな)
「父ちゃんは、父ちゃんは……『どんなに辛くても嘘だけはつくな』って口癖のように言っていた。貧乏で、偉いわけじゃなかったけど……俺にとっては自慢の父ちゃんだった……その父ちゃんが言っていたんだ!間違いなわけがない!!」
そういうと少年はエンエンと声を出しながら泣き始めた。そんな少年をなだめながら男は考える。
(少年はいずれ父親が言っていたことが童話のことを言っていたと気づくだろう。……でももし明日少年の柿の種が柿の実を成らせなかったら……少年の心に父親への不信感が湧くだろう。いずれ勘違いだと気づくとしても……少年の夢を壊したくない。でもどうする?……ッ!!)
その時男の脳内に閃きが走る。
「そうだ!僕がその柿の種を実がなるようにしてあげるよ!!」
翌日。
「「…………」」
少年の庭で少年二人組は唖然としながら実がなる柿の木を見上げていた。二人組は少年の家の庭を何度も見ている。どこからか持ってきて植えたか、本当に一日で実がなるまで成長したか。そのどちらかしかなかった。
だがどこからか持ってきた目撃情報はないため、必然的に一日で成長したと信じるしかなかった。
呆然とする二人組に胸を張る少年。
その光景を男はこっそり見ていた。
「ふう、僕の予想通り高速短縮ガンで種を柿の木にすることに成功できたな」
少年の中の父親像を壊さずにすんだ男は満足した様子でその場から立ち去った。
翌日。
発明品がすり替えられたことを最初から知っていたマユリの雷が男に落ちたのは言うまでもない。