本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。
この話はアンデルセンの人魚姫の悲しい結末をぶち壊します。
「こんな人魚姫は嫌だ!」と思う方は読まないほうがいいかと思います。
マユリの部屋。
マユリにクズと呼ばれている男の前には公衆電話ボックスがあった。
「クズ。これに入って何か言ってみろ」
「って言いながらあああぁぁぁっ!」
そう言ってマユリは男を電話ボックスに蹴飛ばす。
「うがっ!?痛いなぁ、もう!」
男は蹴られた箇所をさすりながら先ほどまで考えていたことをおさらいする。
(これってドラ○もんのもし○ボックスだよな?だってさっき
ということはこれは普通の電話ボックスではないはず!)
そう思った男は『もしも涅隊長が優しい人間だったら?』と言おうとして、やめる。
涅隊長がもし○ボックスなんて作るだろうか?
男の危機管理能力が
(涅隊長は完璧を嫌う方だ。たしかにも○もボックスは『一見万能な道具のように見えて、思い通りの世界にしようとしても結果的にはそれなりに
男はハッと気がつく。
(これは罠、もしくはバッドエンドに繋がるパターンだ!このもしもボッ○スが逆の世界になるものだったら『もしも涅隊長が優しい人間だったら?』は間違いなく地獄。そしてもしもしもボッ○スの形をしたただの電話ボックスだったら『貴様はそんなことを望んでいたのか!?』と激怒は必須!……どうする僕!?)
「いいから何か適当なことは言わないか!」
外では激昂したマユリが電話ボックスごと破壊しかねない顔で怒鳴り散らす。
「は、はい!」
(何か、とりあえず真逆でもただの電話ボックスでもいいようなことを!)
そう思った男が呟いたのは
「もしも人魚姫が王子様と結婚したら!」
だった。
「……」
「……あ、あの。涅隊長……これで、いいですか?」
何も言わない上司に、不安になった男が恐る恐る尋ねた。
するとマユリはニンマリとした顔で男を見る。
「素晴らしい!素晴らしいよ、クズ!見ただけでそれが何なのか気づくとは。察しの通りそれは受話器に「もしも○○が××だったら?」とそのように話せば、その通りになる発明品だ。童話限定で!」
「ど、童話――――ッ!?」
男はそれ以上続けることが出来なかった。なぜならば電話ボックスの風景がグニャリと
その光景に気分を悪くした男が気絶する直前にマユリが言った言葉が男の心に刻まれた。
「『もしも”
その言葉に、男は「言わなくてよかった」と心の中で呟き、気を失った。
「ん?」
男は目を覚ます。夜だったが、目が暗闇に慣れ、大きな窓から差し込む満月の光で部屋は何があるのか分かる。そこは男の自室(一畳)が何個も入るほど広い、西洋の豪華な部屋だった。
男はベッドを見る。そこには男も一瞬見惚れるほどの美形の青年がスースーと寝息を立てていた。そしてその青年の近くには、艶やかな金色の髪にも負けない美しい顔の女性がナイフを持って立っていた。
「な、何をしてるんですか!?」
女性がナイフを振り上げようとする姿に、男は無我夢中で女性からナイフを奪い取った。
「……ッ!」
女性は驚く顔で男を見た。その目には涙の跡が。
(も、もしかして)
その涙が人生最大の決断を迫られた苦悩だと知った男はある童話を思い出す。
(確か人魚姫は助けた王子に一目ぼれして助けるけど『人間に姿を見られてはいけない』という教えで王子を助けた後に身を隠したんだっけ。そしてどこからか娘が現れて王子を抱き上げると王子は同時に目を覚まして、目の前にいる娘を命の恩人だと勘違いした。
それをみた人魚姫は『自分が命の恩人』だと伝えるため、魔女に『美しい声と引替えに、人間にしてくれる』ように頼んで人間になった。だけどその人間になる魔法は、『王子様が他の女性と結婚すると二度と人魚姫には戻れず海の泡になって消えてしまう』というものだった。
その後人間になった人魚姫は色々あって王子と共に城で暮らすことになったが、声が出ないから自分が命の恩人だと伝えることが出来ない。
そしてこのシーンは溺れた時に助けられたと勘違いした娘と結婚する日が近づいたとある夜。王子の心臓を突き刺してその血を使えば海の泡にならなくてすむと聞いて心臓を刺そうとするが、愛する王子の命を奪うことが出来ず最後に海の泡と消えてしまう前のシーンだ!)
「……ッ!」
一瞬の回想に銅像のように固まる男を、言葉が話せない人魚姫は涙を流す目でジッと見る。その瞳には「貴方はなぜ私を止めたの?」と書かれてあった。
「何だ、あの音は?」、「王子の部屋からだぞ!」、「急げ!王子の身に何かあったのかもしれない!」
何人かがこちらに近づく足音にパニックになった男は意味も分からず口走る。
「人魚姫!貴女は王子様に『私が貴方の命の恩人です』と伝えたいのですか!?それとも『王子様のことが好きです』と言いたいのですか!?どっちなのです!?」
「ッ!?」
その言葉に見るだけで幸せな気持ちにさせてくれる容姿を持った女性は、考えてもいなかった男の言葉に大きく目を見開く。
男は心臓をバクバクさせながら続ける。
「王子様は『声が出ない
「ッ!」
でもどうやって?不安になる瞳の声に、男ははっきりと言い放つ。
「声が出ない相手が必死で愛を伝える……これは男の本能を刺激するシュチエーションです。それでときめかない男なんていないんです!だから、貴女が本当にしたかったことをすればいい。貴方なら分かっているはずです!」
その時だった。男の声に『一刻を争う』と思い、駆けつけた衛兵が王子の部屋のドアを蹴破ったのは。
「貴様!王子の部屋で何を?」、「なんだそのナイフは!?」「さてはお前は王子の命を狙う暗殺者だな!」
そう言うと衛兵達は男を取り押さえる。
「ま、待ってください!僕は、僕は王子様の命を奪おうなんてこれっぽっちも――――」
「黙れ!不審な男が王子にナイフを向けて『殺す気はなかった』と誰が信じるんだ!?」
男の訴えは聞き入れてもらえず、男は衛兵達に連行された。
「ん?何だ……騒々しいな」
度重なる疲れで泥のように眠っていた王子が目を覚ます。そこには目に涙を浮かべ自分を見る人魚姫の姿があった。
「お、お前は――――」
王子はそれ以上何も言えなかった。
『貴女が本当にしたかったことをすればいい』。つい先ほど男から助言をもらった人魚姫が、心を込めた熱いキスで王子の唇を
その後人魚姫は王子様と結婚し、人魚姫に愛の告白をするように助言した男は王子の命を狙った反逆罪でその晩に断頭台の露に消えました。
めでたし、めでたし。