・涅マユリ対数え切れないほど生還したクズと呼ばれている男(霊骸)です。
・この話に登場する薬とマユリの考え方はあくまで作者が勝手に想像したものです。
・ツッコミどころしかないかと思われます。
・マユリに戦える余裕はなかっただろう!?というツッコミなどはあるかと思いますが、その辺りはスルーして下さると幸いです。
瀞霊廷某所でマユリとクズと呼ばれている男が交戦していた。
「どうです涅隊長?今までクズと呼んでいた男にボコボコにされる感想は?」
マユリがクズと呼んでいる男は小馬鹿にする笑みを浮かべながら片膝をつく十二番隊隊長を見下ろしている。その目は青く輝いている。
「ハァ……ハァ……こ、この……クズの分際で!」
大量の脂汗を流し、肩で息をしながらマユリは刀を杖代わりにして立ち上がる。
「いい気になるなよ、クズが!
鞘からイモ虫のような身体に赤子のような頭を持つ巨大な生物が現れたかと思うと、口から不気味な紫色の毒ガスを周囲に撒き散らす。
「ふふふっ」
男は金色疋殺地蔵やすでに自分の周りを漂っている毒ガスを前にしてもただただ笑うばかり。
その男の態度が、マユリには気に食わなかった。
「貴様、何がおかしい!?」
「おかしい?えぇ、おかしいですね!涅隊長ッ!!」
ニタッと男はマユリが一度も見たことのない下卑た笑みを見せる。男はすでに毒ガスに触れている。にも関わらず苦しむ様子は一向に見えない。
そんな自身の身体を見て、男はマユリの方へ視線を向ける。
「涅隊長。僕はね、貴方が恐ろしかった。だから僕は斬魄刀の幽世閉門の力で何度も死んで生還し、強くなった。貴方を殺すために!そしてその強さは金色疋殺地蔵の毒すらも効かない高みまで上り詰めた。あれほど恐ろしかった人間が地面に這いまわる蟻のように見える。それがおかしい以外の何だと言うのです!?」
「ええぃ!その口黙らせてやるッ!!殺せッ、金色疋殺地蔵!!!」
主の意思に反応して、金色疋殺地蔵が毒を撒き散らしながら男に向かって駆け出す。
「ふふ、ふははははははっ!!」
本物の男なら背を向けて逃げ出していただろう。しかしすでに何度も死んで生き返ったことで本物よりも強くなっていた男の霊骸は巨大な赤子のような芋虫に向かって跳躍し、殴りかかる。
それだけだった。金色疋殺地蔵の顔が大きく歪み、男の何十倍はある巨体が地面に崩れ落ちた。
「ば、バカな……クズに、クズなんかに……私の、金色疋殺地蔵が……」
自らの卍解がなす術もなく倒されたことに、十二番隊隊長はショックのあまり膝から崩れ落ちた。
「おやおや、誇り高い護廷十三隊の隊長を任された涅隊長ともあろうお方が、この程度のことでショックを受けられるとは。まぁ、僕が強くなりすぎたのですから、仕方がないですが」
本物の男だったらマユリに見せない見下した笑みを見せながら、男は放心するマユリの胸倉を掴む。
「それじゃあ、今まで恨みを晴らさせてもらいましょうか。隊長の身体で!」
そう言うと男はマユリの顔に拳をねじ込ませた。
数分後。
「ぶぁ、ぶぁかふぁ……ふぉの、ふぁふぁひがぁ。ッ!?(ば、バカな……この、私が。ッ!?)
顔面をこれでもかと言わんばかりに腫れ上がらせたマユリの胸倉を男が離す。
「まさか、こんな時が来るとは思いもしておりませんでした。涅隊長がこのようにボコボコに顔を殴られ腫れあがらせる時が来るとは。それも、この僕が」
男は指一本も動かせない上司から一旦距離を取る。
「涅隊長。ありがとうございます。貴方のおかげで僕はここまで強くなった。だから、冥土の土産に見せてあげますよ。僕の卍解を!」
男は刀を頭上に掲げる。
「それでは隊長。さようならです。また会う機会があるなら会いましょう。卍か――ッ!?」
(何だ、この痛み……そして、脱力感は!?)
自らの身体に襲い掛かる異変に、男は頭上に掲げていた刀を杖代わりにして胸を抑える。そして気づく。自らの手がひどくやせ細っていることに。
「ど、どういうことだ?……なッ!?」
手だけはなかった。腕は骨と皮だけと錯覚するほど細くなり、思わず触れた顔は凹凸が感じられるほど皺だらけになっていた。
肌だけではない。全身の筋肉が急激に減少し立つことすら困難になった男は両ひざを地面につかせ、刀にしがみつくことで崩れるのを防いでいる状態になっていた。
「ククク。ようやく効いてきた……、いや。薬が
「な……、何を、やった!?……涅マユリ!?」
男の前には何事もなかったかのように立ち上がる上司の姿があった。
「さすがは自ら何度も殺されて強くなったというだけはある。おかげでこのマスクを作った甲斐があったというもの」
そう言ってマユリは自分の顔を引っ張る。先ほどまでの腫れ上がった顔ではない、いつも見る奇怪な顔がそこにはあった。
「ぼ、僕に……何をした、と聞いている……答えろ!涅マユリ!」
しわがれた声で叫ぶ男に、マユリはいつも見る人を小馬鹿にしたような笑みで答える。
「何をされたかわからないクズに、この私が特別に教えてやろう。戦いの中で、私はお前にある薬を投与していた。安心したまえ、毒薬じゃない。それは、そう……
「ちょ、超活薬?」
「そう、超活薬だ。異常なまでに再生能力を持つ者がいるだろう?その薬は代謝能力を上げることで異常なまでの再生能力を人為的に作ることができる。つまり、お前が毒を苦にしなかったのも、幽世閉門の力で強くなったからではなく、超活薬の力で毒を迅速に処理していたに過ぎない」
「さ、再生……能力、で……処理?」
息も絶え絶えに男が呟く。
「理解できているか、クズ。この薬を使えば、新陳代謝を数百倍にも数千倍にも、数万倍にも高め今にも死にそうな奴にもすぐに元の状態に再生することができる。そして、その薬は一滴を25万倍に希釈するのが適量なのだが、お前には特別に原液を使っておいた」
「……」
「今のお前には1秒が1年に匹敵するほどの早さで代謝が行われているはずだ。つまりこうして生きている間にも、お前の身体は再生を通り越し、急激なまでに老化しているというわけだ」
「ご、ご解説、ありが、とう……で、でも……僕には――ッ!?」
男はかすれた声で声にならない声で絶叫する。
マユリが男から幽世閉門を奪うと、懐から液体が入ったビンを取り出し、男の斬魄刀に垂らした途端、刀が溶け始めたのだ。刀を溶かす液体は瞬く間に斬魄刀を無へと変えていく。
「ぁ……あぁ……」
絶望に打ちひしがれる男に、マユリは語りかける。
「クズよ。死ぬ前に一つだけ教えておいてやろう。我々科学者が最もしてはいけないこと、それは過信だ」
「か、し……ん?」
「そう、過信だ。科学とは常に発見の連続だ。今まで見たことのない世紀の大発見もあれば、予想だにしない死に直結するような危険もある。だからこそ、科学者は細心の注意を払い最悪の事態に備えなければならない」
「……」
「わかるかい、クズ。科学者にとって過信とは、最も遠ざけなればいけない感情だ。そして私はお前の力を良く知っている。……つまり。幽世閉門の力に驕り、最悪の事態を想定せずに私の前に現れた時点で、お前はすでに私に敗北していたのだヨ」
「……」
男は涙を流すしかなかった。それは悔しさなのか、それとも死への恐怖なのか。それは男しかわからない。
「もっとも。お前を曲なりにも科学者とするのならの話だがネ」
そう言ってマユリは辛うじて生きている、今にも死にそうな老人となった男に背を向けて歩き出す。
「では、クズ。また出会える日を、楽しみにしているヨ」
「……――――」
その場を立ち去るマユリに、男からの返事はなかった。
色々な方の感想を見て、強くなった男がマユリと対戦したらどうなるか。そんな疑問が浮かんだのでこんな話を書いてみました。
お楽しみ頂けたのなら幸いです。