天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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何かどこかで見たなぁ、と思われるかもしれませんが気のせいです。


涅マユリは何故葛原粕人を排除しないのか?

 (くろつち)マユリは葛原(くずはら)粕人(かすと)の事が嫌いである。将棋で全ての駒を取られるという屈辱的な負けを与えたことを皮切りに、自身に不平不満を持っていること、かつて自分を殺そうとしたこと、そして

「クズ、明日は(ねむり)八號(はちごう)と現世に遊びに行く。だから隊首会やこないだの実験データのまとめetc(などなど)任せたヨ」

「はい! こんなこともあろうかと隊首会で話す内容と隊長の仕草などを頭に叩き込みかつ隊長に変装できるように(きょう)(かすみ)水月(すいげつ)(第五話登場)を改造して光の屈折で隊長に見えるようにしました。声も物まねマイク(第九話登場)を改良し誰が聴いても僕だと気づかれない自信があります。

 あと実験データを言われると思ってすでにこちらにまとめてあります。

 それと隊長がどこかに急に出ていかれると想定して、お弁当を用意していたのが無駄にならなくてすみました。それと……」

 

 自分が心の底から()み嫌う、「千の備えで一使えれば上等。 可能性のあるものは全て残らず備えておく。それがアタシのやり方です」という言葉を残した浦原(うらはら)喜助(きすけ)を思い出させる行動に。

 

「しかしクズは人体実験やストレス解消、雑用処理、トカゲのしっぽ切りなど利用価値がある。どうしたものか……そうだヨ!」

 自室で腕を組んで考えていたマユリは先日、眠八號と見たアニメを思い出すとたまたま部屋を訪れた部下に「私からの命令だ。クズに──」と伝達をした。

 

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 技術開発局 廊下。

「うぅ……やっと終わった……」

 フラフラな上手く動かせない頭と身体を無理やり動かし、粕人はマユリがいるであろう局長室に向かっていた。

 

 クズ、お前に特別に休暇をやろう。だからその分前倒しで仕事をしておくんだヨ

 

 そう言われた粕人は言われた通り仕事を休憩時間を削って前倒しで終わらせた。

 そして前倒しで終わらせた仕事の報告と確認をしてもらうため、局長室の前に立つ。

 入ろうとした。その時だった。

(……何だ? 何か嫌な予感がする……)

 脳内でビビッとした粕人は入室をためらう。

「……もう少し後にしようか」

(いや、隊長のことだ。「嫌な予感がしたので報告が遅れました」なんて言ったら……うぅっ!)

 激怒したマユリを想像し、粕人は覚悟を決める。

(大丈夫だ。何が起きても対応できるように注意深く周囲を見て、逃げ道を確保をすればいい! よし、大丈夫だ!)

 想像できるあらゆる状況を頭で考えた粕人は大きく深呼吸をすると部屋に入った。しかし粕人は知らなかった。部屋に入った後で思わぬ事態に対処するでは遅すぎたという事実に。そのツケは扉が開いた瞬間から始まった。

「あれ? ……なんか、頭が……」

 見慣れた局長室と今まで嗅いだことのない甘い香りが鼻に入る。その香りに身体は無意識に鼻から大量の空気を吸い込んでしまう。

(ま、まずい! 今すぐ逃げ、ない……と…………)

 大量に吸い込んだ甘い香りが脳内にまで浸透すると、粕人の目は(うつ)ろとなる。それと同時に全身から力が抜けて前かがみになる。

「僕は、あれ……ここ……どこだっけ……」

 見慣れた涅マユリの部屋は次第に食べ頃の桃が実った桃林に底まで見える透明度の高い池、暑くもなく寒くもない理想的な桃源郷の風景へと変わっていく。そこに音もなく目の前に胸元を隠すように黒髪を結わえた、卯ノ花(うのはな)(れつ)に似た天女が現れる。

(うわぁ~、すごいきれいなひとだなぁ〜……)

 大恩人と慕う美女に似た天女に疑問や驚きを覚えない程、粕人の思考力は低下していた。

 優しく微笑む女性が粕人の口先に飴玉を差し出す。何も考えることなくゆっくりと口を開ける粕人に、天女は粕人の口に飴玉を入れた。

 粕人が飴玉を飲み込んだ、次の瞬間。

 

 ニヤリッ

 

 天女に似つかわしくない、歯をむき出しにした獲物がかかった笑みを粕人は大きく目を見開く。

「!? ……うぅっ、う、うううぅぅぅっ!!」

 苦悶の表情を浮かべ胸元を抑える粕人。

「クククッ」

 天女、ではなく対象者に幻を見せる香で天女に化けた涅マユリが膝から崩れる粕人をニヤニヤと見下ろす。

「……く、涅、隊ちょ!? ……うぅ、うわぁ、うぅ、ぅぅっ…………」

 見る見るうちに粕人の体は死覇装(しはくしょう)と同化し、遂には反物(たんもの)になった。

「ククク、クズ。しばらくお前は休むがいい。これでどんな巨大な被験体も簡単に持ち運べるようになったヨ」

 先日見た中国妖怪の頭目が日本に攻め込み日本の妖怪達を次々に反物に変えていく。そこからヒントを得て開発した道具の実験が成功したことに満足したマユリは、反物を拾うとクルクルと巻いて戸棚に入れた。

 その直後だった。

 

 ブゥッー!! ブゥッー!! ブゥッー!! 

 

 異常事態を知らせる警告音が局内に響き渡る。

破面(アランカル)を確認!! 全隊員、及び全局員は持ち場に入り迎撃と非常事態に備えよ!! 繰り返す。破面を確認!! 全隊員、及び全局員は──』

「何だと、このタイミングで……ん?」

 懐に入れた伝令神機からマユリに報告が次々と入る。

 

『局長、大変です。保管庫で火災が発生! 我々だけでは消火しきれません!!』

『こちら十二番隊隊舎です! 破面がこちらに! 助けてください!!』

滅却師(クインシー)が挟撃する形で攻撃してます! どうすれば!!』

 

 マユリにとって不都合な情報が続々と入る。

「何だ、何なんだこの状況は!?……ハッ!!」

 粕人を使い勝手のいい駒としか考えていなかったマユリは気づく。

 葛原粕人という男は雑用のスペシャリストである。そのためベテランから新人まで粕人に頼ることが多い。つまり自然と自分や阿近などの上層部と隊員・局員の末端をつなぐ存在となっていた。

 その粕人がいない状態では命令や情報の伝達が遅れる。一分一秒の遅れが命取りになる状況ではそれは命取りだった。

 また粕人はマユリの無茶ぶりによって、緊急事態に対して的確な行動に移せる行動力と判断力が鍛え上げられた。熱いヤカンに触れた際、脳を経由せず脊髄(せきずい)から手を放すように身体に命令する脊髄反射(せきずいはんしゃ)のように、上層部に伝えていては間に合わない状態ではその場にあった命令を下せることが出来る。

「クソが!」

 マユリは吐き捨てると矢継ぎ早に命令を発して窮地を乗り越える。しかし翌日、そのまた翌日と十二番隊及び技術開発局を揺るがす事件や事故が多発した。

「……ハァッ、ハァッ…………これでは仕事にならない上に私の研究に支障が出るヨ」

 熟慮(じゅくりょ)に熟慮を重ねた結果、マユリは粕人を元に戻すことに決めた。

 その日を境に今まで起きた問題がピタリ! と止まった。

 

 

 まるで今まで一人に降りかかっていた災いが元に戻ったかのように。




本編とは関係ない話。

チー(ゲゲゲの鬼太郎)
ゲゲゲの鬼太郎に登場する中国妖怪を率いる妖怪。鬼太郎を始めとする日本妖怪を飲み込んだ者を反物に変える丸薬で次々と反物に変えて戦況を有利に進めた。

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