天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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浦原喜助、世界を救う!

 浦原商店 お茶の間。

「うひょひょひょっ!」

 ちゃぶ台に置かれた札束の山を見ながら浦原商店の店主、浦原(うらはら)喜助(きすけ)は扇子で口元を隠しながら笑っていた。

 先日尸魂界(ソウル・ソサエティ)で行われた護廷十三隊対抗リレーで『一着になる可能性が天文学的確率でない』十二番隊と四番隊に大金を賭けた。

 結果は一位を走っていた本命中の本命、二番隊アンカーの大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)のまさかの転倒(・・)。対抗にされていた十一番隊の班目(まだらめ)一角(いっかく)も巻き込まれて最下位に転落。転落した二番隊と十一番隊に代わって最下位争いをすると思われた十二番隊と四番隊がギリギリの争いを繰り広げ、わずかの差で十二番隊が一位の座をつかみ取った。

「いやぁ、まさか先頭を走っていた二番隊が転倒し、十一番隊がそれに巻き込まれるなんて……いやぁ、勝負に不慮の(・・・)出来事(・・・)はつきものですねぇ」

 邪悪な笑みを扇子で隠しながら目の前のお金の使い道を思案する。

「さて、まずは夜一サンも含めた皆で世界一周旅行をして……それからこの店を拡張させて──」

「次のニュースです──」

「ん?」

 喜助は付けていたテレビの方へ振り返る。

「……なん……ですと……」

 そのニュースを見た喜助は驚きの声を漏らした。そのニュースは世界で大流行を引き起こした病原菌で渡航などの移動を制限、それに合わして店などが営業を制限するというものだった。

「ふふふ……面白いですね!」

 喜助の身体から禍々しい赤黒いオーラが立ちのぼる。今まで立てていた計画がご破算したからだ。

「せっかく考えた楽しい計画を潰されるとは……許せませんね!」

 喜助の目に狂気が宿る。それからの喜助の行動は早かった。自らを崇拝レベルまで慕っている元部下、鬼塚(おにづか)静気(しずき)に新型ウイルスの詳細な情報を入手できるスパイと特効薬を作る助手を探してほしいと頼んだ。

 その後四番隊平隊士、仏宇野(ふつうの)段士(だんし)は現世に赴き某研究所などから情報を入手。そして一ヶ月の連続勤務後に三日間の休暇予定だった十二番隊二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)は急に『新薬を作る浦原喜助を手伝う』ことを思い出す(・・・・)

 その後仏宇野が入手した情報を元に粕人と共に、星十字騎士団(シュテルンリッター)の一人で毒の変質に適応する能力を持つアスキン・ナックルヴァールの能力を参考に、様々な形に変異する新型ウイルスにも対応できる新薬を開発。開発した新薬は瞬く間に全世界に配布。一ヶ月後には新型ウイルスの終息宣言が出された。

 

 

 

 ちなみに新型ウイルスを撲滅させることに意識が向きすぎて、配当金全てを開発費と新薬に使ってしまったことに浦原喜助が気づくのはもう少し後である。

 にした。

 

 

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「おや、黒崎サン。どうしたんですか?」

「あ、浦原さん」

 クロサキ医院の前を通りかかった喜助は、缶コーヒーを片手に空を眺めていた黒崎(くろさき)一護(いちご)に声をかける。

 一護は飲みかけの缶コーヒーをグイッと飲み干して喜助の方へ振り返る。

「ほんの少し前まで新型ウイルスで世界が大パニックになってたじゃないですか。もちろんクロサキ医院(うちの病院)も。それがあっという間に新薬が開発されて一気に終息したじゃないですか。……医者や警察は暇な方が良いわけですけど、あの時との落差にちょっと体がついていってなくて……本当に新薬を作ってくれた人に感謝ですよ」

「本当ですねぇ」

 そう言って一護は微笑む。それを見て喜助も微笑む。

 粕人達と共に新薬を作った喜助だったが匿名で新薬の情報と製品を世界に配付したため、当人達以外にこの事を知っている者はいない。そしてそれは喜助と目の前で話している一護も。

「それじゃあ黒崎サン。何かあったら浦原商店(うち)に遊びに来てください」

「ありがとう、浦原さん」

 家へと入る一護、道交(みちか)う人々が新型ウイルスがなかったかのような日常を過ごしている姿に、喜助は表情を変える自分の顔を見られないよう足早に浦原商店へと(きびす)を返した。

 

 




皆様いかがお過ごしでしょうか?

2021年もあと一時間とちょっとで終わります。数か月も投稿できなかったのは本当に申し訳なくおもいます。
今後も読んでいただけると幸いです。

それではよいお年を。

追記。
新章第三十三話十番隊編 仕事の鬼、松本乱菊の後に『新章第三十三話十番隊編 松本乱菊、墓参りに行く』を投稿しました。
ご迷惑をおかけすることをお許しください。

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