天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

190 / 192
仏宇野はチャリティーバザーに出品する物を集めるようです

「……う~む」

 四番隊副隊長、虎徹(こてつ)清音(きよね)は頭を悩ましていた。

 一ヶ月前に行われた隊首会議で未だ爪痕を残す10年前の霊王護神大戦の復興案。その資金を集めるため四番隊隊長である実の姉、虎徹(こてつ)勇音(いさね)の提案によりチャリティーバザーを開催することになったのだが、その商品が今一つ集まらなかった。

「う~ん、どうしたものか。ん? またか……」

 遠くから聞こえてくる騒動の音に清音は大きくため息をついた。

 四番隊恒例となっている騒動の発生源。それは

「ゆ、許せ! お願いだから!!」

「覗き3000回目を繰り返し何を許せというの? このクソ亭主が!!」

 のぞきの常習犯にして四番隊の問題児、仏宇野段士が妻であり上官である一葉(いちよう)音芽(おとめ)を筆頭に怒り狂う女性陣に捕まり命乞いをする声だった。

「覚悟はいいわね。このバカ亭主」

 音芽は斬魄刀に手をかけた。その時だった。

「!!」

 清音にある名案が浮かんだ。

「待って、皆! 私に仏宇野を預けて!!」

「こ、虎徹副隊長!?」

 何かを言おうとした音芽に清音は「私に考えがあるの」と制止すると土下座する仏宇野の首根っこを掴み副隊長室へと連れて行った。

 清音の説明に腕を組んだ仏宇野は「なるほど」と頷いた。

「つまり俺が護廷十三隊の中で四番隊を一番にするほどの寄付金とバザーの品を集めれば?」

「覗き3000回されて怒り狂う女性隊員達を説得してあげるわ」

 その時だった。

「すみません、虎徹副隊長。少々お時間を頂きたいのですが……」

 ノックをして現れたのは四番隊第三席・山田(やまだ)花太郎(はなたろう)だった。

「虎徹副隊長。山田三席をお借りします」

 そう言うと仏宇野は「え? ええっ!?」と状況が理解できていない花太郎を連れて副隊長室を後にした。

 

 ====================================================

 

 1時間後。二人は葛原粕人の部屋を訪れていた。

「仏宇野……それに山田三席。どうしたんですか?」

 親友とかつての上官の突然の訪問に粕人は不思議そうに来訪した二人を見る。

「葛原」

 そんな粕人に仏宇野はニヤリと笑う。

「つかぬ事聞くが。お前はバザーに何を寄付したんだ?」

「え? 尸魂界(ソウル・ソサエティ)の銘酒お試しセットだけど?」

「ほうぉ、そうかそうか!」

 そう言ってから仏宇野は続ける。

「実は我が隊ではバザーへの品物がちょっと不足していてね。お前にちょっと協力してもらおうと思ってね。ほらお前には俺に借りがあるだろう?」

「……」

 粕人は黙る。仏宇野の言う借りが先日の賭けで獲得したお金だと察したからだ。

 その際粕人は半々にしようと提案したが、粕人が多額のお金を必要としていることに気づいていた仏宇野は「お前がいなければこの金はなかったんだし、差額分はいずれ何かあった時に返してくれればいい」ということでその場を収めた経緯があった。

「仏宇野」

 考えること数秒。粕人は口を開く。

「その借りに関してはいずれ払わせてもらう。もちろん利子をつけて。それなら文句はないだろう? それになんで僕が別の隊に寄付をしないといけないんだ?」

「ほぉ、別の隊ねぇ」

 親友の予想外の返答に戸惑いつつも、瞬時に切り替えた仏宇野は粕人との距離を一気に詰める。

「お前は元々四番隊だったよな?」

「それがどうした?」

「そして卯ノ花隊長には面倒を見てもらった。それも大恩人と言うくらいに」

「だ、だからどうした……それとこれとは関係ないだろ……」

 冷や汗を流す粕人に仏宇野は粕人の心を追い詰める言葉を放つ。

「つまりお前は卯ノ花隊長に大きな恩がありながら『関係ない』と言うんだ? 返しても返しきれないほどの恩があるかつて隊が困っているのにも関わらず協力しないんだ? へぇ、そうなんだ?」

「……ッ!!」

 その言葉に粕人は青ざめ、先ほど以上に冷や汗をかきながらガタガタと震える。

「そうかそうか。葛原粕人という男はそんなにも薄情で他の部隊に異動したら恩義を忘れる畜生(ちくしょう)だったのかぁ。卯ノ花隊長の墓前にそう伝えておこう。行きましょう、山田三席」

「ま、待て!」

 粕人は慌てて仏宇野の服を掴む。

「待て?」

「いえ、待ってください……」

 振り返る仏宇野に粕人は腰を低くさせる。

「じ、実はかつて恩義のある四番隊のためにとっておきのを用意していたんだ。だから、ね?」

 粕人は畳をひっくり返し自分専用の倉庫に通じる地下通路へと二人を案内した。

 案内されるや否や、仏宇野は粕人が見繕った物に目をくれず、粕人がコツコツ集めてきた年齢指定のコレクションに注目。「それはダメだ!!」と止めようとする粕人を卯ノ花烈の名前を出して黙らせると、いつの間にか外に手配していた隊士達とともに根こそぎ持ち出した。

「はは、ははは! ぼくの、ぼくのコレクションが! ぼくが、ながねん……たがくの、おかね……ぜんぶ、ぜんぶ……なくなった…………ふふふ、ふはははっ!! あひゃひゃひゃっっっ!!!!」

「く、葛原二十席……」

 足を棒にして集めてきたコレクションを失い、壊れた笑い声をあげる粕人の後ろ姿に同情を向ける花太郎に対し

「さて、次に行きましょう。山田三席」

 親友の大事な物を奪ったという罪悪感を微塵も見せず、仏宇野は次なる獲物へと向かった。

 その後、仏宇野は阿近(あこん)を始めとする十二番隊及び技術開発局の人間から得意の話術で強引に奪い取り、日付が変わる頃には用意した台車数台分の品々が積まれていた。

「ふう。これでお仕置きは避けられたな」

 仕事を終えてご機嫌な様子で綜合救護詰所に現れた仏宇野は知らなかった。

 仏宇野を身柄を確保するために十二番隊の戦車部隊及び航空部隊が迫りつつあったことを。

 それを察知して地下水路から逃げようとした仏宇野を

「ジュルリ。待っていろよ、妖刀(ようとう)殲滅丸(せんめつまる)。もうちょっとで仏宇野段士(ゴミやろう)の血をたらふく吸わせてやるからなぁ!!」

 地下水路を知り尽くした元四番隊にして妖刀殲滅丸と死守天装を装備した親友、葛原粕人率いる本隊が待ち構えていたことを。




どうでもいいけど。技術開発局の面々よ。戦車と戦闘機持ち出すなよ……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。