護廷十三隊対抗リレーから数日後。
「……」
先日の護廷十三隊対抗リレーで優勝候補の二番隊兼隠密機動の
「……なんだ、これ?」
粕人は壁に貼られた紙に目を通す。そこには服を脱いで用意しているタオルを巻いて扉を開けるように書かれてあった。
「……」
得体の知れない不安が粕人を襲う。しかし彼にマユリの命令に背くという選択肢はなかった。逆らえば死に匹敵する実験という名の拷問が待っていることが予想できたからだ。
「……よし!」
覚悟を決めた粕人は服をタオルが入っていた藤のカゴに入れると、代わりにタオルを腰に巻いて扉を開けた。
そこには粕人のように小柄な体格なら入れるほどの木の樽があった。中を覗く湯気が上がっていた。
「これは……
ふー! ふー! ふー!
誰かが息を吐く声に粕人は格子窓から外を見る。そこには頭に手ぬぐいを巻いて火吹き竹で五右衛門風呂に空気を送るマユリの姿があった。
「く、涅隊長! 何をしているのですか!?」
粕人は慌てて格子窓から問いかける。
「見てわからないかネ? 風呂を沸かしているんだヨ」
「い、いえ……そこではなくて!」
なんで隊長がそんなことを!?
そう尋ねる前にマユリが答える。
「現世では
「……た、隊長……!!」
粕人の目から滝のように涙が流れ出た。
自分を都合のいい道具としか扱わない上司が風呂を沸かすという重労働を行う。その事実に粕人は心を打たれ嗚咽を漏らす。
「さ、冷めない内に入りたまえヨ」
「……は、はい!」
粕人は目頭を押さえながら五右衛門風呂に浸かる。
「クズ、湯加減はどうかネ?」
「……隊長。いい……湯加減です!」
「そうか」
部下の感激する返答にマユリは笑う、獲物がかかったことに喜ぶ邪悪な笑みを。もし粕人がマユリの笑みを見ていたらすぐに五右衛門風呂から出ていただろう。しかしマユリ自ら沸かした五右衛門風呂を堪能していた粕人はマユリの笑みを見ることはなかった。そして五右衛門風呂からマユリが離れたことも。
数分後。粕人は異変に気付く。お湯が熱くなると同時に粘度が生じ始めていたことに。
「た、隊長! 風呂に何かおかしいのですが? ……隊長、涅隊長!?」
格子窓から外に視線を移した粕人は固まる。そこには小型で強力な送風機が五右衛門風呂に風を送っていた。
五右衛門風呂のお湯は熱湯へと変わり、粘度も小柄な体格に似合わない怪力を持つ粕人を持ってしても脱出不可能にまで高まっていた。
「あぁ! あ、熱い!! 誰か、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
必死に助けを求める粕人。しかしマユリの領域である涅邸で助けが来ることなどあるわけがなく、あっという間に脱水症状で失神した粕人は粘度のあるお湯に顔を突っ込む形で
「────」
絶命した。
「くくく、クズ。お前が悪いんだヨ。お前が余計なことをするからそんなことになるんだヨ」
部下が死んだことを確認するとマユリはハズレ馬券を五右衛門風呂の
「さて、これで仕上げだ」
掘っ立て小屋から離れたマユリはドクロの顔の起爆スイッチを押した。
轟音と共に木っ端微塵に吹き飛ぶ掘っ立て小屋と粕人。あらかじめ用意した全自動消火ロボットが消火したことを確認したマユリは満足そうな笑みを浮かべながらその場を後にした。
後日。
粕人は自身が出したオナラに引火したせいで五右衛門風呂&小屋を破壊したとして、マユリが護廷十三隊対抗リレーで外れた馬券と同額の弁償費を要求された。
「……なんで風呂と急ごしらえの小屋を破壊しただけでこんな額を請求されなければならないのだ!?」
上司の理不尽さに怒りと驚きに身体を震わす粕人。しかし
「逆らえば命を奪われる……やるしかないか!」
自身の斬魄刀・
『新章第三十九。五話 仏宇野段士は金欲しさに親友を脅すようです』に続きます。
実家にあったスーパーファミコンミニでFF6にはまってました(-_-;)
投稿できず申し訳ございません。