天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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今回は台詞ばっかです(^-^;


新章第三十八話 護廷十三隊対抗リレー本番

 技術開発局 食堂

 大型のモニターがある食堂で、(くろつち)マユリは他の局員達と共に護廷十三隊対抗リレーの中継を見ていた。テレビには競馬のスターティングゲートに似た場所で、スタートの合図を待つ各隊員の顔が映し出される。

 マユリの後ろで隊員達が「頑張れよ」、「スタートが肝心だぞ」など声を漏らしながら固唾(かたず)を呑む。

『さあ始まりました護廷十三隊対抗リレー。場所はこの日のために用意された現世の競馬場を思わせる数千メートル芝が存在感を示す大会場。この大会の結末を自分の目で見ようと多くの隊員達が見守ります。実況は三番隊、穴島(あなしま)阿保(あお)がお送りします』

 

 パーン

 

『開始のピストルと共にゲートが開き各隊員が一斉にスタートしました。先頭を走るのは大方の予想通り大本命の二番隊。その後ろに十一番隊、3番手に七番隊が続きます。最下位はこれまた大方の予想通り四番隊。二番隊副隊長を務める大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)の妹の第一走者、大前田(おおまえだ)希代(まれよ)は一歩目で大転倒。今立ち上がりスタートします。

 3位の七番隊の後ろには五番隊、5位に十番隊、意外にも四番隊と最下位争いをすると思われていた十二番隊が6位につけております。

 さて先頭集団に視線を戻しましょう。最初にバトン渡したのは二番隊。その後を追うように十一番隊が次の走者にバトンを渡す。その他の各隊員も次々と次の走者にバトン渡していきます。先頭を走るのは二番隊。2番手には依然として十一番隊。3位だった七番隊は六番隊に抜かれて4位に後退。6位に入った十二番隊は一つ順を上げて5位で次のバトンに渡します。

 第3走者にバトンが渡り先頭は二番隊。2位は十一番隊。5位に入った十二番隊がここで六番隊と七番隊を追い越して3位に上がる。……おぉと、ここで後方で大きく動きが出た!』

 会場で見守る観衆のざわめきと共に実況の穴島の声が大きくなる。

『四番隊だ! 四番隊第3走者一葉(いちよう)音芽(おとめ)、前を走る各隊員の距離を詰めてどんどん順位をあげていく! みるみるうちに順位を上げて今4位の六番隊を追い抜いた! 

 そして先頭を走る二番隊、最後の走者の大前田希千代にバトンが渡る! その次に十一番隊の斑目(まだらめ)一角(いっかく)、少し遅れて3位に順位を上げた十二番隊の第3走者の阿近(あこん)、アンカー葛原(くずはら)粕人(かすと)にバトンを渡した! 葛原粕人、持っているバトンが『実はダイナマイトでゴールしないと爆発する』というギャグ補正がかかったかのような必死の形相で前方を走る二人の距離をどんどん縮めていく。

 そして数秒遅れて四番隊第3走者の一葉音芽、アンカーの仏宇野(ふつうの)段士(だんし)にバトンを渡し燃え尽きたかのように崩れ落ちる。バトンを受け取った仏宇野段士、激走する葛原粕人を上回る速さで猛追。

 先頭は二番隊、大前田希千代! 2番手は十一番隊、斑目一角! 先頭争いする両副隊長を葛原粕人と仏宇野段士が追いかける!』

 この時。誰もが予想だにしていなかった思わぬアクシデントが起こる。

『おおっと!? 先頭を走る大前田希千代、まさかの転倒!! そのすぐ後ろにいた斑目一角も巻き込まれる!! 二人の真後ろまで迫りつつあった葛原粕人、ハードル走者のように華麗に飛び越えて今トップに躍り出た!! 立ち上がろうとする大前田希千代と斑目一角を仏宇野段士が容赦なく踏みつける!! それに(なら)うように後ろにいた各隊員も同じように踏みつけていく。先頭を争っていた二番隊と十一番隊がここでまさかの最下位に転落!!』

 本命、大本命のまさかの最下位転落に会場から「嘘だろ……」という落胆と「ふざけんじゃねぇ!!」と様々な怒声が巻き起こる。

 そんな観客の動向を尻目に先頭争いをする粕人と仏宇野の二人はゴールを目指して全力疾走する。その姿に実況のアナウンサーの声に熱が入る。

『前に誰もいなくなった芝を走る葛原粕人! ジリジリと距離を縮めていく仏宇野段士! 勝つのは科学の十二番隊か!? 医療の四番隊か!? 互いの意地がぶつかり合う!! 逃げる葛原粕人! 追う仏宇野段士! 葛原粕人!! 仏宇野段士!! 勝つのはどっちだ!?』

 必死に逃げる粕人に一切の感情を見せない暗殺者のように迫る仏宇野。その様子をマユリの後ろで見ていた隊員達が「葛原……」、「葛原二十席!」と必死に祈る。

『残り100m! ……50m! ……10m! 先にゴールテープを切ったのは……十二番隊、葛原粕人だぁぁぁっっっ!!』

 優勝が確定したのを知り、大量の汗を流しながら右手を上げてガッツポーズをする粕人。そんな親友を肩で息をしながら冷徹な暗殺者から親友の激走を祝福する笑顔を見せる仏宇野。マユリの後ろで十二番隊の優勝に抱き合い、歓喜の涙を流す局員達。そして

 

「クズめ……やってくれたな!!」

 

 画面に映る粕人を憤怒(ふんぬ)の表情で睨み付けるマユリの懐からは『1位二番隊、2位十一番隊』に膨大な金額が賭けられた馬券が地面に落ちた。

 




この小説を書くために YouTube で競馬の色々な実況動画を何度も見ました。

『新章第三十六話 粕人は忘年会で舞を披露をするようです~ 眠八號の母?(くろつち)夢夜(ゆめよ)登場~』でお菓子、料理、ダンス、舞踊などに全力を注ぐ人たちの凄さと恐ろしさを感じた私ですが、実況の人が傾ける情熱・『職人芸』ともいえる仕事への姿勢にも尊敬の念を抱かずにはいられませんでした。と同時に自身の小説技術の未熟さを感じさせられました。

命を賭ける仕事ぶりは他の職種でも刺激を受けます。本当にこの小説を書いてよかったとほっとしています。

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