そして何故粕人がマユリが出世させたくない以外の理由で、二十席以上の地位にいないのかが分かる話です。
シンギュラリティ(Singularity)。
英語で「特異点」の意味する言葉である。「人工知能(AI)」が人類の知能を超える転換点(技術的特異点)、またはそれにより人間の生活に大きな変化が起こるという概念を意味する。
とある人工知能・研究の世界的権威の科学者は著書で、2045年には人間の脳とAIの能力が逆転するシンギュラリティに到達すると提唱している。
それによって多くの人がAIに仕事を奪われ、収入だけではなく社会的地位や人材的価値などを消失してしまうのではないかという不安が問題視されつつある。
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本物以上に成果を黙々と上げ続けるKUZUを、技術開発局の局員達は不安そうに見ていた。
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「阿近さんはあの
「どう思うとは?」
つきだしを口に運ぶ阿近に、壺府リンは不安そうに答える。
「あのロボットは葛原さん以上によく働きます。いずれ僕たちが用済みになるのでは?」
「そんなことか」
そんな不満を一蹴するかのように阿近はフッと笑う。
「確かにあの葛原は普段の葛原以上によく働く。しかし俺達と葛原では局長と付き合ってきた年数が違う。俺達より葛原が局長に重宝される日はない。心配するな」
そう言って阿近はそれでも心配する壺府リンをよそに酒をグイッと飲み干した。
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翌日 技術開発局。
涅マユリは苛立っていた。特に理由はない。ただ意味もなく苛立っていた。それゆえに局員達はどうすればいいかわからず距離をとることしかできなかった。
そんな時だった。
「……」
マユリの机にKUZUが無言でラベンダーが入った花瓶をさりげなく置いた。摘みたてのラベンダーの香りが、苛立っていたマユリの鼻腔を優しくくすぐり気分を落ち着かせる。
それだけではない。KUZUはほのかに温められたティーカップに、上品で華やかな香りを放つジャスミンティーをスッと差し出した。
ティーカップから漂うジャスミンの香りを楽しみながら、マユリはちょうどいい温かさのジャスミンティーを飲み干した。
「素晴らしい! 実に素晴らしいヨ!!」
「モッタイナイ御言葉デス」
満面の笑みで称賛の言葉を送るマユリに、年季の入った執事のようにスマートに頭を下げるKUZU。
「……!?」
付き合いの長い自分達ですらどう対処すればいいかわからなかったマユリの苛立ちを瞬時に落ち着かせたKUZUの行動に、阿近をはじめとする他の局員達は青ざめていた。自分達の地位が平隊士である
翌日。
技術開発局のとある一室で、
前話の『葛原粕人。終わりなき終わりの始まり』でいくつかご意見を頂いたので加筆修正しました。
確かにあの話はマユリらしくないな、と反省しています。またああいったご意見をいただけると幸いです。そしてご意見をして下さいました方々にこの場を借りてお礼申し上げます。