天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


新章第三十五話 粕人は忘年会用の希少食材を調達するようです

 12月31日 技術開発局

「ふう、葛原はよくやってくれた」

 部下である葛原(くずはら)粕人(かすと)が100人規模の忘年会を行うことができる店を確保したという報告に阿近(あこん)安堵(あんど)した。

 阿近は今夜行われる忘年会のメニューを見る。そこには普段食べられない豪華な料理がズラリと書かれていた。

「よし、これなら隊員はもちろん局長も満足することだろう」

「やあ、阿近」

「あ、これは局長。おはようございます」

 上司である(くろつち)マユリに声をかけられた阿近は振り返り挨拶を返す。

「ところで阿近。今日の忘年会は大丈夫かネ?」

「えぇ、葛は……いえ、俺達が数年前から予約をしないといけないといけない有名店、風雪(ふうせつ)(えん)を何とか予約することができました」

(葛原……お前が店を確保したのに自分達の手柄にしてしまう俺達を許してくれ……)

 正直にマユリがクズと(ののし)る粕人が店を確保したと知れば激怒することを察した阿近は、一抹の罪悪感を感じつつマユリに今日の店と予約ができたことを報告した。

「そうかそうか、風雪宴か。それはいい店を予約したものだヨ!」

 阿近の報告にマユリはウンウンと首を縦に振る。

「風雪宴は料理の腕はさることながら出す食材も素晴らしいからネ。ブランド和牛のサーロインにも匹敵する脂のノリと旨みがある牙羅々(がらら)(わに)を始めとする、私でもそう味わえない食材をこれでもかというぐらい提供するからネ。うん、楽しみだ!」

 そう言ってマユリは以前風雪宴を訪れた時に食べた料理を説明し終えると阿近の前から嬉しそうに立ち去った。

 対する阿近は

 

「……が、牙羅々鰐だと……ッ!?」

 

 固まったいた。

 牙羅々鰐。

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)に生息する危険生物の一種である。

 危険生物にはその危険度合いを示す指標として尸魂界(ソウル・ソサエティ)危険(きけん)指数(しすう)というものが用いられている。ちなみに尸魂界危険指数1は経験豊富な手練れの死神が10人必要な程度とされている。

 牙羅々鰐の尸魂界危険指数は5。直径76mmの鉄筋を割箸のようにへし折る筋力を持ち、手練れの死神が50人いてやっと仕留めることが出来るか否かという危険生物だった。

 その他にもマユリはその牙羅々鰐を超える四本腕を持つ尸魂界危険指数9のゴリラ、斗呂流(とろる)恨愚(こんぐ)が集団で暮らす地域に生える、25メートルプールの水に果汁をたった1滴たらすだけでプールの水全てが芳醇なジュースに変わるほどの高い果汁濃度を持つ果実の七色(しちしょく)()

 あらゆる部位の良いところを凝縮した肉・財宝(ざいほう)(しし)を持つ二つの鼻を持つ象の仲間で、体長が約1500m、体高が1000m、体重が5000万tある超巨大マンモス・理狩(りがる)万毛須(まんもす)

 マユリが食べた料理はかつて一握りの上級貴族しか口にできなかった幻のコーン・美々(びび)玉蜀黍(とうもろこし)

 あらゆる食材のエキスが混ざり合い、一口でも飲めばあまりの美味さに顔が緩んでしまうスープ、世紀(せいき)(しる)

 その他にも獲得が困難な食材ばかりで、隊長級でない限り捕獲はおろか倒すことすら出来ない危険生物や危険な場所に足を踏み込まなければ得られない食材ばかりだった。

 当然というべきか。今夜の忘年会で出される料理には一番獲得が容易と思われる牙羅々鰐すらなかった。

 手練れの死神が束になっても勝てない凶悪な食材を狩り、かつそれらを的確に調理できる人材は尸魂界には一人もいなかった。

 

 ただ一人を除いて。

 

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 数分後。

「阿近さん。それはふざけていますか? ふざけていますよね? ふざけてなければそんなこと言えるはずないですよね?」

 凶悪な食材を狩る強さとどんな食材をも調理する腕を持つ料理人。その二つを兼ね備えた男 、葛原粕人は真っ赤に充血した目を大きく見開きながら頭を下げる阿近に嫌みを言っていた。

 昨日。阿近達に先月に上司である涅マユリに頼まれた忘年会の予約を押しつけられ粕人は現世で十年以上にも匹敵する、命を懸けたギャンブルの末に大金を得てその金でマユリが満足する店の予約を取り付けた。

 そのまま休む間もなく通常業務をしている。

 尻ぬぐいをさせられた上にそれ以上の無茶苦茶なことを頼まれる。嫌味一つ言わずに引き受ける者は普通に考えて皆無だった。

(そりゃあそうだよな……昨日取れるはずのない忘年会で使う店の予約を押しつけられ、涅マユリ(上司)の望む数々の貴重な食材を忘年会が始まる数時間で確保してこいと言われれば誰だってキレるよな)

「……すまない、本当にすまないと思っている」

 阿近は頭を下げる。

「でも今日の忘年会、局長は期待しているんだ!」

「え?」

 その一言に粕人が驚きのあまり固まった。

「え?」

 そんな部下の反応に阿近が固まる。

「隊長が……涅隊長が期待していると? ……この僕に?」

 大恩人と慕う四番隊前隊長・卯ノ花(うのはな)(れつ)と同じほど、粕人はマユリを尊敬していた。たとえ「クズ」と(さげず)むまれ、奴隷未満の扱いをされようとも。

 

 その上司が自分に期待している。

 

 粕人は喜びで身体を震わせた。

「あ、いや……。葛原……」

 誤解を解こうとした阿近だったが、強権を振るうマユリの下で働いてきた阿近の頭脳がそれを止める。

(待て。もしここで「お前に期待している」のではなく「忘年会に期待している」と言い直したらどうなる? 葛原(こいつ)はこの難題をキッパリと断るだろう。そして誤解する発言をしたとして俺を殺しにかかりかねない!!)

 誤解を解く。それはマユリの機嫌を大きく損ね、目の前の部下に殺される可能性が高いことを意味した。

(それに今の葛原なら局長の期待に応えようと120%の力を発揮してこの難題を成し遂げる!!)

 阿近は腹を決めた。

「あぁ。『クズならば出来るはずだヨ』と局長は仰っていた。だから葛原、この通り……頼む!!」

 阿近は全力で目の前の部下に頭を下げた。

「わかりました。阿近さん、任せて下さい!! この葛原粕人、命を懸けてでも隊長の期待に応えてみせます!!」

 粕人は直立不動で敬礼をし、自分がやるはずだった仕事を他の局員にしてもらえるように阿近に頼むとすぐに技術開発局を出発した。

 涅マユリが開発した空間(くうかん)移動(いどう)(とびら)を始めとする秘密道具を使い、粕人は次々と食材を確保。途中虞瑠眼(ぐるめ)(かい)と名乗る世界中の食材を牛耳ろうと企む闇組織と交戦。隊長級に相当する虞瑠眼界の強者との死闘の末、何とか彼らを退け食材を手に入れた粕人は風雪宴に直行。料理人の頂点が集う風雪宴の料理人達が言葉を失うほどの無駄のない早業で忘年会の料理を作り終えた。

 

「お、終わった……──」

 

 最後の料理を作り終えると、42.195㎞を全力疾走したのに匹敵するほど疲労した粕人はそう言い残し、息絶えた。

 数分後。生き返った粕人は自身が作った料理に満足するのだった。

 

 

 

 阿近に頼まれたことも、マユリが自分を期待しているという阿近の嘘も忘れて。




なんだろう。この島袋光年先生の『トリコ』に登場していそうな食材&危険生物は……。
そしてそんな食材を最強・最恐・最狂の猛者が集う美食會のような連中と争った末に退け、本職以上の料理の腕を披露する。それも数時間で。
秘密道具を駆使したとはいえ、人間じゃねぇ……。

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