天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

前回の『番外編 砕蜂が再びマユリの保管庫に忍び込んだようです。』の後日談になります。



番外編 四楓院夜一が某漫画に登場するノートに似たノートを使うようです

「今日こそ、今日こそは!」

涅マユリにクズと呼ばれている男は夜一の肢体を一目でも見ようと少しずつ露天風呂に近づいていた。

いつもは男を邪魔する砕蜂(ソイフォン)は外せない任務でこの場にはいない。絶好のチャンスだった。

遮蔽物(しゃへいぶつ)から遮蔽物へと素早く移動し、仕掛けられた罠を作動させないよう気をつけながら、男は目標地点である露天風呂へと着実に近づいていく。そして。

(「おおぉ」)

男は感嘆の声を漏らす。

まだ遠めでかつ立ち上る湯気ではっきりとは見えないが、今まで見ようとして見ることができなかった褐色の後姿が見えた。

(「よしっ!」)

男はもっと見たいという欲望を抑えつつ、一歩、また一歩と着実に目標へと近づいていく。

と、褐色の美女がふと立ち上がる。

(お、もしかして!?)

自然と鼻血が出ていることにも気づかず、男は喉をゴクリと鳴らして目標の動きを見つめる。

そして、褐色の美女が男の方へ振り返った。

(ついに!ついに魅惑のバディーが!!)

だが男の願いは打ち砕かれた。

「ぎゃあああぁぁぁっっ!?――ッ!!」

叫び声をあげた後、男はすぐさま口を(ふさ)ぐ。

振り返った褐色の美女の顔はへのへのもへ字で、乳首や局部には『見せられないよ』と書かれた紙が貼られていたからだ。

「お主。ここで何をしている?」

「――ッ!?」

男は一言も発することが出来なかった。何故ならば肢体を覗こうとしていた女性がいつの間にか自分の背後に回り首元に苦無を当てていたからだ。

「あ、いや。その……」

男は恐怖に怯えつつも服装を確認する。裸身やバスタオル一枚ではなく普段着だった。

「ん?お主。確か儂の湯浴(ゆあ)みを(のぞ)こうとしていて砕蜂に二度も捕まっていた男じゃな」

(ば、ばれていた!?)

動揺する男をよそに、褐色の美女は続ける。

「さて、お主をどうしようかのぉ。これが偶然迷い込んで覗いてしまったのならこのまま見逃すところじゃが。お主の場合確信犯でしかもこれが三回目じゃからのぉ。ここは死神セクハラ対策本部にお主を引き渡そうか?」

「そ、それだけはご勘弁を!」

男は思わず叫ぶ。男はすでに女性死神協会から目をつけられている。ここで死神セクハラ対策本部に身柄を引き渡されれば、ただでさえ厳しい目を向けられている女性死神の印象はさらに最悪になり、上司であるマユリから何をされるか分からない。

(どうすれば、どうすれば見逃してもらえる……そうだ!)

男はあることを思い出す。

「そうだ、夜一様!僕、夜一様にとって有益な情報を知っています!!」

「有益?」

男の首に苦無を当てたまま、褐色の美女は聞き返す。

「有益?それはどんな情報じゃ?」

「そ、それはですね――」

 

 

深夜。

「う~む、こんなノートがのぉ」

自分の部屋に戻った夜一の手には深緑のノートがあった。

砕蜂同様、男は夜一にマユリがその人物の名前を書くとその通りになるノートの存在を聞かされた。ちなみに男が夜一に有益な情報だと伝えたノートの能力は。

「本当にこのノートに名前を書くだけで祝ってもらえるのかのぉ……」

夜一はノートを見ながら怪しく思う。

男が夜一に有益な情報だと教えたノート。それは『祝われる』ノートだった。

(ノートに名前を書くだけで、そんなことがおこるものじゃろうか?)

しかし、年末に浦原(うらはら)喜助(きすけ)と共に二人寂しく誕生日を祝った悲しい出来事が頭にちらつく。

「まぁ、嘘だったらあの男を死神セクハラ対策本部に告発すればいいだけじゃ」

そう考えた夜一はノートに名前を書いた。

 

 

四楓院(しほういん)夜一(よるいち)

 

 

「よし、これでどうなるかのぉ。楽しみじゃ!」

 

 

翌日。

「よ、夜一さん!た、大変ですよ!!」

「なんじゃ喜助。朝っぱらから?」

「は、早く!早くテレビを見て下さいよ!!」

そう言って浦原はテレビの前に夜一を連れていくと電源を入れる。

『速報です。日本政府は1月1日を夜一記念日と制定することが先ほど決まりました。これに他の国々も同調し世界では夜一フィーバーが発生しております』

テレビの画面が男性アナウンサーから世界で夜一の恰好や写真を持った人々が隊を作って『ヨルイッチ!ヨルイッチ!』と叫びながら行進している姿が映し出されていた。

「な、なんじゃこれは!?」

「それは私の方が聞きたいですよ!!」

二人は思わず顔を見合わせる。

そして異変はテレビの中だけではなくなっていた。

「よ、夜一さん……何か聞こえません?」

「き、喜助もか……」

二人は外に目をやる。

そこには。

「夜一様!どうか御姿を!一目だけでもいいのでその麗しきお姿を御見せ下さい!!」、「夜一様!愛してますぅっ!!」、「俺と、どうか俺と結婚してください!!」

夜一ラブと化した群衆が夜一を称える言葉を叫んでいた。

そして。

「夜一様!あんな奴らの物になる前に、私と祝言をあげましょう!!」

「ややこしい時に来るでないわぁ!」

「ゴフッ!――――」

いつの間にか現れた信頼する女性、砕蜂を手刀で気絶させると夜一は立ち上がる。

「喜助、砕蜂を頼む。儂はある者の所へ行く!」

そう言い残し、夜一は一瞬でその場から姿を消した。

 

 

 

数時間後。

「貴様のせいで現世はとんでもないことになってしもうたぞ!どうしてくれる!?」

男の自室に現れた夜一は男の胸倉を掴み前後に揺らす。

「お、落ち着いて下さい。夜一様……お、おそらくですが……ノートの名前を消せば……元に戻るかと、ウグッ!」

「名前を消せばいいんじゃな!これで元に戻らなかったら貴様を死神セクハラ対策本部に連行するからな!!」

そう言って夜一は男の前から姿を消した。

数時間後。夜一がノートから名前を消すことで、夜一フィーバーは最初からなかったかのように沈黙した。

 

 

 

翌日。

男はマユリの部屋に呼び出された。

「なあ、クズ。私の保管庫からノートが数冊無くなっているのだが、心当たりはないかい?」

「……ッ!」

『心当たりはないかい?』。そう聞いた上司の目はとてつもなく冷たかった。

 

 

 

その後数日間。男の姿を見た者は誰もいなかった。

 

 


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