天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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新章第三十三話十番隊編 松本乱菊、墓参りに行く

 (ひがし)流魂街(ルコンがい)六十二地区、花枯(かがらし)

「……ギン」

 人の目から離れた『市丸(いちまる)ギン』と彫られたみすぼらしい墓の前に、松本(まつもと)乱菊(らんぎく)は腰を下ろし手を合わせていた。

 藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)(ふところ)に入り内側から藍染を討つ。その目的を果たすためとはいえ、藍染と共に反乱を起こし尸魂界(ソウル・ソサエティ)に多大な被害を与えた市丸ギンの行いは到底許されるものではなかった。反逆者となった市丸ギンの墓を瀞霊廷内(せいれいていない)に作ることは許されず、また身寄りもいないこともあり彼の墓を質素であり、墓を訪れる者は乱菊を除き全くと言っていいほどいなかった。

 乱菊が時々ポツリと「……ギン」と呼ぶだけの寂しい時間が過ぎる中、乱菊に近づく一つの影がいた。

「あ、松本副隊ちょ……」

 影は言いかけた言葉を止める。手を合わせる乱菊の姿を見たからだ。

「……ギン」

 小さく、それでいてはっきりと呟く乱菊の独り言に全てを(さっ)した影は、(おもむ)ろに自身の斬魄刀(ざんぱくとう)に手を置いた。

卍解(ばんかい)――」

 

 

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「……ギン」

「呼んだ? 乱菊」

「え? 」

 バッと声のする方へ振り返った乱菊は、驚愕(きょうがく)する。

 そこに立っていたのは最後に会った時の姿の市丸ギンその人だったからだ。

「どうしたん、乱菊? 」

「ギン! アンタ、どこで何やってたのよ!? 」

 涙を流しながら懐に飛び込むと胸をドンドンと叩く。

「い、痛いがな。乱菊」

「バカ、バカバカバカ……」

 涙を流しながら胸を叩く。言いたいことは山ほどある。しかしいざ言おうとすると言葉が出なかった。そんな乱菊にギンは申し訳なさそうに言った。

「乱菊、悪いんだけど……もう行かんとアカンねん」

「な、なんで」

「これ以上こっちにいたら()の命が危ないから」

「彼? 彼って――」

 乱菊が言い終わる前に

「乱菊、またな」

 ギンは煙のようにその場から消えた。最初からいなったかと思うほどに。

「ギン」

 乱菊は呆れたように笑う。さきほどまでいた男の名を呼ぶ声に、悲しみはなかった。

「……相変わらず自分勝手な男よね」

 言葉とは裏腹に明るく微笑む乱菊が隊舎に戻ると

「おい、葛原(くずはら)。しっかりしろ!! 」

「えっ? 」

 上司である十番隊隊長、日番谷(ひつがや)冬獅郎(とうしろう)の焦る声に乱菊は慌てて部屋を(のぞ)く。

 そこには

「葛原三席!? 」、「しっかりして下さい!! 」、「誰か、四番隊に連絡を!! 」

「……ぁ……ぅ…………」

 骨と皮になるほど干からびた十番隊第三席、葛原(くずはら)粕人(かすと)の姿があった。




幽世開門(かくりよかいもん)
死んでも生者と死者との世界を行き来する門が閉じているため復活する??の卍解。尸魂界とは違う世界に行った者を呼び戻すことが出来る。使用者と呼び出す者の能力があまりにもかけ離れている場合、長時間の使用は使用者が死亡する危険がある(死んだ時に死者への門が開いているため)。また復活するかの決定権は復活する側にあるため復活する者が望まなければ呼び戻すことは出来ない。

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