天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

165 / 192
新章第三十三話二番隊編 激突!砕蜂(夜一バカ) VS 鬼塚静気(喜助バカ)後編

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 目にも留まらぬ速さで上下左右に動く砕蜂(ソイフォン)に、右手に普通の刀にしか見えない斬魄刀・記呪筆(きじゅひつ)を持ったギョロリとした大きな目が特徴の女性、鬼塚(おにづか)静気(しずき)は肩で息をしながら高速で動く砕蜂を目で追っていた。彼女の体には次に同じ箇所を攻撃されれば命を落とす死の紋章、蜂紋華(ほうもんか)が両肩、背中、両手の甲に刻まれていた。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

 一方の砕蜂も息を切らしていた。得意の足を使って翻弄している相手は隠密機動随一の格闘術を持つ部下。不用意に間合いに入れば致命傷になりかねない傷を負わされる。実際、砕蜂の服は触れられていないのにもかかわらず、至るところに静気の鋭い手刀によって起きた真空の刃の跡が残っていた。

 そして何より砕蜂が警戒するのは静気の斬魄刀の能力だった。その能力を知るゆえに、砕蜂は慎重にならざる得なかった。

「……ウッ!」

 速さを上乗せした砕蜂の蹴りが静気に命中する。何とかガードをする静気だが蹴りの威力に負けて片膝をつく。

「死ね、静気!!」

 バランスを崩した静気の背後に回ると、砕蜂は蜂紋華が刻まれた背中に雀蜂を突き刺した。

「かかったわね」

「しまったッ!?」

 笑う静気の言葉に砕蜂は気づく。背中の蜂紋華がまだ刺していないはずの左足に移動したのだ。背中には再び刺せば命を落とす蜂紋華が新たに刻まれる。

「記呪筆第壱画、傷移呪(しょういじゅ)!」

 静気の右太ももには刀身が青くなった記呪筆が刺されていた。

 傷移呪。文字通り刺した対象者の傷を移動させる呪い。主な方法は全身に与えた傷を脳や心臓などに移動させて致命傷を与えたり、重傷な箇所を全体に分散させることで危機的状況を脱する。

 砕蜂が別々につけた蜂紋華を移動させて弐撃必殺を完成させる。

 トドメとなる弐撃目が外されたことに一瞬動揺する砕蜂。その隙を静気は見逃さなかった。

「記呪筆第弐画、与着呪(よちゃくじゅ)!」

 静気は躊躇することなく赤くなった刀身を自らの胸に刺した。

「!!」

 赤い刀身はその先にいた砕蜂を貫く。

(しまった!)

 静気の能力を知る砕蜂は反射的に間合いを取る。刺された箇所からは血は流れていない。

「ふふふ」

 意味深な笑いを浮かべながら静気は刀を引き抜く。貫いたはずの胸から血は一滴も流れていない。

「静気! 貴様、私に……うぐっ!?」

 なんの呪いを掛けた!? そう問う前に異変が起こる。

 纏っている服が突然、鉄に変わったかのようにずっしりと重く感じたのだ。その重みに砕蜂はその場に跪く。

「与着呪。自らの肉体を通して相手に呪いをかける。与える呪いは様々だけど、今回は貴女の強みである脚を奪わせてもらったわ。どう、思った以上に動けないでしょ? その代わり……」

 

 ブシューーーッ!! 

 

 全身から鯨の潮吹きのように血が流れ出す。噴出する血を見ながら静気は苦笑いを浮かべる。

「与えた呪いに比例して傷を負うわけだけど……。さすがは隠密機動総司令官を務める女。封じる代償はとんでもなく大きかったみたいね……さっさとケリをつけさせてもらうわよ!!」

 ニィッと笑みを浮かべ、血が噴出する我が身を無視して静気は駆けた。

「……クッ!」

 避けようとする砕蜂。しかし万全の状態からほど遠い静気の攻撃を回避するのが精一杯なほど身体は思うように動かなくなっていた。

 先ほどまでは回避すると同時に反撃していたほどの機動力を見せていた砕蜂の身体に静気の攻撃の痕跡が出来始める。

「ハァハァ、くそッ!!」

 本来の自分ならば悠々対処出来る、呪いの反動で負傷した静気の斬撃と手刀が自身を掠めるという事実。それに対応できなくした呪いに苦虫を潰したような顔で砕蜂は避け続けるしかなかった。

 

 ====================================================

 

 背中まである波状の髪が水平になるほど駆ける、胸元があと少しずれれば隠すべき所が露出してしまうほどはだけさせた妖艶な女性、隠密機動第四分隊裏見隊副分隊長、月読(つくよみ)は砕蜂と静気が戦っている場所へと向かっていた。

「これ以上の損害を防がなくては!」

 焦りの色を見せる彼女の後ろから聞き慣れた足音が聞こえた。

「月光か」

 月読はその者の名を呟く。

 月光。反乱・危険分子の捜索・発見を主任務とする裏見隊の一人で、四番隊平隊士の顔を持つ部下であり一人息子。

「ふう」

 隣で駆ける息子が小さくため息をつく。その顔には「何で俺がこんなことを」という不満と「自分達が行かなくては」という覚悟が滲んでいた。

「急ぐぞ」

 そう言って月読は月光と共に目的の場所へ駆けた。

 

 ====================================================

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 呪いによって重く感じる身体で動き続けた結果、肩で息をする砕蜂の服は大量の汗と血でびっとりと張り付いていた。

「フゥ……フゥ……フゥ……」

 対する静気は砕蜂の脚を封じる呪いの反動によって生じた傷による流血で意識が朦朧(もうろう)となっていた。

 砕蜂の静気。二人は少し離れた場所にいるお互いを見据える。

 

 次の攻撃で全てが決まる。

 

 残された体力と経験が導きだした答えだった。

「喰らうがいい! ……卍解、『雀蜂(じゃくほう)雷公鞭(らいこうべん)』!!」

 砕蜂の右腕に照準器のついた巨大な砲台が装備される遠距離ミサイル砲が姿を現す。

「記呪筆第参画、刻命呪(こくめいじゅ)!!」

 静気は黒くなった刀身を自らの身体に突き刺す。

 刻命呪。文字通り自らの命を消費する代償に対象者の身体能力を増大させる呪い。

 その呪いの力によって静気は出血死寸前とは思えない速さで駆け出した。

 狙いを定める砕蜂。全神経を射たれる前に息の根を止めようとする静気。

 轟音と共に発射される砲弾。

(あと一歩、遅かった!)

 静気は自らの敗北、そして死を覚悟した。その時だった。

「空間移動扉!!」

 何者かが天井からドラ○もんの○り抜けフープに酷似した通り抜け輪っかで侵入すると、某国民的アニメの青色の猫型ロボットがお腹辺りに着けていそうな四次元袋からピンク色の片開きの戸を取り出した。

 砲弾は開かれた扉の中へと消えていく。

 突然現れた者は、驚きと事態把握で一瞬動きを止めた静気の背後に回り込んで羽交い締めにする。

「砕蜂隊長! 鬼塚分隊長! 落ち着いて下さい!!」

 ドラ○もんの名刀電光○と滅却師の乱装天傀(らんそうてんがい)に酷似した装備を身に(まと)った葛原(くずはら)粕人(かすと)が叫ぶ。その時だった。

 

「卍解、『全色(ぜんしょく)塗潰(ぬりつぶし)写絵(うつしえ)』!!」

「卍解、『形白二振(かたしろふたふり)』!!」

 

 粕人が作った通り抜け輪っかから斬魄刀を抜いた月光と月読が現れる。月光の持つ写絵は赤錆まみれのボロ刀へと変化し、月読は瞬く間に斬魄刀・形白と同化し月光の写絵へと姿を変えた。

 左右の手に写絵を持った月光は

 

「元に戻れ!」

 

 と叫ぶと同時に砕蜂と静気に向かって写絵を投げた。

「う……──」

「あぁ……──」

 もはや立っているだけで精一杯だった二人は糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

「……」

 二人が気を失ったことを確認した月光は刀を抜く。深々と突き刺さったが、二人の体からは一滴も血は流れなかった。

「え、仏宇野……」

 突然現れた親友になぜここにいるのか、卍解とは何かを問おうとしたが……出来なかった。

 

「え──」

 

 親友の仏宇野段士によって首をはねられたからだ。

 ブシューーーッと頭を失った首から血飛沫があがる。

(仏宇野……どうして?)

 何時ものばか騒ぎをする親友からは想像も出来ない、冷酷無慈悲の表情で自身を見る親友の顔。

 それが粕人が見た最期の光景だった。

 

 ====================================================

 

 一方その頃。

 十二番隊保管庫では隊員達が消火活動を行っていた。

 どんな攻撃にも耐えられるように設計された保管庫だが、突然ワープしてきた雀蜂雷公鞭の砲弾によって保管庫内は瞬く間に火の海と化したのだ。開発局局員総出で懸命に消火活動は繰り広げられるが、火の勢いは収まる気配はない。

「…………」

 今まで集めに集めた研究素材が灰となっていく光景を、(くろつち)マユリは力なく見ているしかなかった。

 

 

 翌日。火が完全に消え去った保管庫には、燃え尽きた灰と瓦礫が残されただけだった。

 

 

 




長かった……二番隊編は本当に長かった……。次は十番隊をする予定。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。