天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


涅マユリの悪夢 下剋上編

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」

 200名以上の隊員が見守るなか、(くろつち)マユリは部下である葛原(くずはら)粕人(かすと)に追い込まれていた。

 マユリの卍解金色(こんじき)足削(あしぞき)地蔵(じぞう)はマユリがかつて開発した物質縮小装置を粕人が拡大機能も追加した物質拡縮装置によって、粕人自身が大きく、金色足削地蔵が小さくされた上で踏み潰された。天と地ほどの差がある霊力も粕人が作った霊封輪(れいふうりん)という腕輪を無理やり装着させられた瞬間、平隊員以下まで減少させられた。

 ほかにも様々な手で自らがクズと(さげす)む男に攻撃を仕掛けたが、それら全てを自分が開発した発明品を改良した秘密道具によって無効化されていった。

「……ば、バカな。……この技術開発局局長兼十二番隊隊長、涅マユリが……」

 打つ手を全て封じられ立ち上がる意思を持てないほど混乱、心身ともに限界に達して地面に倒れるマユリ。そんな上司をニタニタと笑いながら粕人は斬魄刀、幽世(かくりよ)閉門(へいもん)

「うりゃあっ!」

 という掛け声とともにマユリの右手に突き刺した。

 

 ウギャアアアアアアァァァァァァッッッ!!?? 

 

 悲痛な叫び声をあげて地を()い、もがく上司に粕人は腰を下ろす。

「涅隊長、僕の名前を言ってみてください」

「……く、クズ!」

 マユリはクズと呼んでいた男の顔に唾を吐いた。その唾をハンカチで(ぬぐ)うと粕人は笑顔で尋ねる。

「どうやら聞こえていなかったようですね。ではもう一度聞きます。()マユリ(・・・)、もう一度僕の名前を言ってみろ」

「く、クズ!!」

「なにぃ? ……クズだとぉぉぉ!!」

 粕人はマユリの右手に突き刺していた幽世閉門をグリグリと(えぐ)った。

 

 ヒギャアアアアアアアァァァァァァッッッ!!!! 

 

 広がる傷口にドクドクと流れる血が大地を赤黒く染める。

 全ての手を打ち砕かれ、流れていく血液と比例するように絶望と心身の痛みが広がっていく。

「もう一度聞く。涅、僕の名前を言うんだ」

 静かで、それでいて情一つない冷酷な言葉が鋭利なナイフとなって弱り果てたマユリの心を突き刺した。

「……く、く、く……葛原……」

 そして遂にマユリは

 

 葛原隊長ぉぉぉぉぉぉっっっ!! 

 

 自身も含め、絶対に言わないと思われた敗北宣言を口にした。

「ふふふ、そうだ!」

 涙と鼻水まみれの前隊長(・・・)を見て、粕人は嬉しそうに笑いながら幽世閉門を引き抜く。

「だが殺しはしない。廃人となって一生僕を恐れるんだ!!」

 粕人は部下(・・)になった阿近(あこん)らに後処理を任せると笑いながらその場を後にした。

 

 後日

 車椅子に乗せられたマユリは、四番隊の重症患者が治療を行う病棟に向かわれていた。

「…………」

 (よだれ)を垂らし焦点の合わない顔で車椅子に押される包帯まみれのマユリに、かつて十二番隊及び技術開発局で絶大な権力を誇示していた男の面影は残されていなかった。そんなマユリを粕人の先輩だった青鹿(あおが)大前田(おおまえだ)希代(まれよ)が見ていた。

「青鹿さん。涅前隊長は治らないのでしょうか?」

 後輩の言葉に悲しげに首を振る。

「下に見ていたあの葛原……いや、葛原隊長に手も足もでないほどやられたショックもあるだろうが、葛原隊長が何らかの方法で涅前隊長の脳神経をズタズタしたみたいだ。虎徹(こてつ)隊長と副隊長、阿近副隊長が手の尽くしたのだが……治らなかった。あの葛原隊長があそこまでするなんて……」

 人一倍優しい、後輩だった男の信じられない行動に嘆くように呟く。

「私も信じられません。あの葛原二十席……いえ。葛原隊長が……」

 密かに尊敬していた腰の低い男の凶行が信じられないといわんばかりに、希代は精神異常者が突然暴れても大丈夫なように頑丈に設計された病棟へ車椅子で押されていくマユリを見た。

 

 ギィィ

 

 重い扉がゆっくりと開き

 

 バタンッ! 

 

 と閉まると

 

 ヒィッ! ……嫌だ! お願いだ! 助けてくれ!! ……許してくれええええええぇぇぇぇぇぇっっっ!!!! 

 

 扉の向こうで、全てを奪った元部下(葛原粕人)の幻影を見て発狂したマユリの絶叫が響いた。

 

 

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「ヒィッ! ……嫌だ! お願いだ! 助けてくれ!! ……許してくれええええええぇぇぇぇぇぇっっっ!!!! …………ハッ!?」

 目を覚ましたマユリはバッと布団から起きる。周囲を見渡すと、そこは普段通りの自分の部屋だった。

「ゆ、夢か……」

 全身から吹き出る嫌な汗を拭い、軽く深呼吸をすると気持ちが少し和らいだ。

(よくよく考えてみればあのクズは私を超えるような作品を作るはずがない)

 完全に落ち着きを取り戻したマユリは朝食と着替えを済まして技術開発局へと向かった。

 

 

 =======================================

 

 

 涅隊長、見てください!! 

 

 自分の研究室に入るのを見計らったかのように自らがクズと呼ぶ男が紅潮した顔でマユリの元を訪れた。

「私は忙しいんだ! 今すぐ出て行くかさっさと説明して去れ!!」

「はい!!」

 よほど紹介したいのか邪険に言うマユリに気づく様子もなく四次元袋から様々なものを取り出した。

「涅隊長にお見せしたいのはまずこれ、霊封輪。隊長が更木(ざらき)隊長に作った眼帯と比べて少し能力をしますが、眼帯と違い複数取り付けることが出来ます。更にこれを両腕に複数装着すると理論上は更木隊長すらも平隊士レベルまでに霊力を抑えることが可能です」

「……ッ!?」

 部下が見せた霊封輪とその説明を受けたマユリは身体をビクンと震わせた。

 クズと呼ぶ部下が持つ道具は昨夜見た悪夢と酷似していたからだ。

「それで次はこれ!」

 そんなマユリの心情など知らず、再び四次元袋から道具を取り出す。

「以前隊長が作られた物質縮小装置に拡大機能を追加した機械、物質拡縮装置です。その名の通り縮小だけでなく拡大も出来る優れものです!」

 粕人は次々とかつてマユリが作った発明品をグレードアップした改良品を紹介していく。楽しそうに説明する粕人は気づいていなかった。改良品を紹介するたびにマユリの顔が険しくなっていることに。

「……なるほど。クズにしてはなかなかやるじゃないかネ」

「あ、ありがとうございます!!」

 まったくと言っていいほど褒めることのない上司の言葉に、粕人は地面に頭をぶつけるのではと思うほど頭を下げた。

「ん? クズ。肩にゴミがついているぞ。取ってやろうじゃないかネ」

「あ、ありがとうございます涅隊長……え?」

 グサッ! 

「グフゥ!?」

 胸を貫く衝撃と胸から生える斬魄刀、そして斬魄刀から(つた)う血と吐血した大量の血が地面に飛び散る様子に、頭を下げた状態の粕人は何が起こったのか理解できずにいた。

「く、涅隊長? ……グハッ、グフッ、ウガッ!!」

 マユリは自らの愛刀、疋殺地蔵を引き抜くと地面に崩れ落ちた粕人に向けて何度も何度も突き刺していく。

(……く、涅……隊長ぉ……な、なぜ…………?)

 薄れていく意識の中、粕人は尊敬する上司の突然の行動に理解出来ず困惑したまま

「──────」

 絶命した。

 

 

 

 その後粕人の改良品は何者かの手によって闇に葬られた。

 




戦隊に詳しい方なら悪夢の部分を見て「ん?」と思ったでしょう。
その疑問、あってます。元ネタは鳥人戦隊ジェットマンの『帝王トランザの栄光』です。
廃人となったトランザ役の広瀬裕氏の演技はいい意味でドン引きです(実際当回のシナリオを見た出演者たちは絶句したとか)。

気になった方はレンタルで見られるか『帝王トランザの栄光』を調べてみてください。

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