天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


隠密機動第四分隊・裏見隊に所属する月光は技術開発局に忍び込むようです

 

 二番隊隊舎。砕蜂(ソイフォン)の私室。

「う~ん、と。何でしょうか、砕蜂隊長」

 呼び出された男は上司の前にも関わらず、くだけた態度で尋ねる。

月光(げっこう)。お前を呼んだのは他でもない」

 呼び出した部下に礼儀など期待していない女上司は早々に話を切り出す。

「貴様には十二番隊第二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)を再び調べてもらう」

「えええぇ……」

 月光と呼ばれた男はあからさまに嫌そうな顔で上司を見る。

「葛原は隊長が気にするような男じゃないですって……それに十二番隊なら松永が――」

 数秒後。

「か、畏まりました砕蜂隊長ッ!!」

 あと一撃同じところを突かれれば絶命する蜂紋華を全身に刻まされた男は、先ほどまでとは打って変わって見事な敬礼をすると逃げるようにその場を後にした。

 

 翌日。

「ったく。めちゃくちゃすぎるだろう。技術開発局(ここ)の防衛装置は」

 四番隊平隊士、佛宇野(ふつうの)段士(だんし)は防衛システムを作動させないよう細心の注意を払いながら、限られた者しか入れない技術開発局内部に侵入していた。その動きは補給や治療を専門とする四番隊らしからぬ静かで素早く正確なものだった。

「さてと」

 佛宇野は周囲に誰もいないことを確認すると斬魄刀に手をかけた。

「“見る者を(だま)せ”、写絵(うつしえ)!!」

 

 

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「うぅ!忙しい忙しい!!」

 大量の荷物を持った粕人は右へ左へと駆けまわっていた。

「とりあえずこのやることメモに順序を書いておいたから『どれからしよう!?』というパニックはないけど……こんなにやることがあると大変だよ!……あぁ、誰か変わってくれないかな!!」

 目をグルグルと回しながら愚痴る粕人。

「だったら僕が代わりしようか?」

「え?……ッ!?」

 声のする方に振り返った粕人は大きく目を見開いた。そこには自分と同じ姿をした人物が立っていたからだ。

「誰だお前、は…………――――」

 そう粕人が聞く前に。本物の粕人が使えない瞬歩で素早く背後に回った粕人?は粕人の首元に何かを打ち込んだ。

 

 バダンッ!!

 

 糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちる粕人。

「さてと」

 地面に倒れた粕人を近くにあった用具室に隠した粕人?はやることメモを拾いすぐさま行動に移した。

阿近(あこん)さん、次の実験に使う道具持ってきました!」

鵯州(ひよす)さん、頼まれていた資料をお持ちしました!」

采絵(とるえ)さん、例の被験体がいる場所が特定できました!」

壷倉(つぼくら)さん、頼まれていたお菓子買ってきました!」

 こうして粕人?はやることメモに書かれた事柄を次々とこなしていく。本物の葛原粕人のように接し、本物の葛原粕人のように的確に仕事を終わらす粕人?に、誰もが本物の葛原粕人だと疑わなかった。

「さてと、今度は情報を集めるとするか」

 ポツリと呟いた粕人?は周囲に怪しまれないように葛原粕人(自分自身)に対する情報を集めていく。

「よし、こんなものかな」

 新たに追加された仕事も無事こなし、葛原粕人(自分自身)に対する情報を集めた粕人?が本物の葛原粕人が眠る用具室に向かおうとした時だった。

「おい、葛原。局長がお前を呼んでいたぞ」

「え……僕、何か悪いこと……しましたかね?……阿近さん」

 本物の葛原粕人と同じ反応に、阿近は目の前にいる粕人?を本物の葛原粕人だと思い続ける。

「わからないが。さっさと行った方がいいと思うぞ」

「……ですよね。じゃあ、行ってきます」

 背中を丸めて(くろつち)マユリの待つ部屋に行く粕人?を、阿近を始めとする技術開発局の面々はいつものように可哀そうに見つめていた。

 

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 数分後。

 粕人?はマユリの私室に来ていた。

「あ、あの……涅隊長。阿近さんから隊長が僕を呼んでいる聞いて来たのですが、一体何のご用でしょうか?」

「……」

 マユリは何も言わず粕人?に牛乳瓶を差し出す。

「え、っと。涅隊長……これは?」

 本物の葛原粕人と同じように、粕人?は恐る恐る尋ねる。

「何だ、クズ。お前は私の部屋に来たらいつも牛乳を飲んでいたじゃないかネ」

(いや!葛原(あいつ)がそんなことするわけないだろう!)

「何を言っているんですか、涅隊長!僕がいつ隊長の部屋に来るたび牛乳を飲みましたか!?」

 粕人?は本物の葛原粕人のように慌てて否定する。

「クズ、お前もしかして体調が悪いんじゃないかネ?これはまずい、すぐさま四番隊に連絡しなくては!」

 そういうとマユリは外部に連絡をしようとする。

「あぁ!そうですそうです!!僕は隊長の部屋に来たら牛乳を飲んでました!!」

 四番隊に連絡をされると困るのか、粕人?は牛乳を一気に飲み干す。

「そうそう。お前を呼びだしたのは他でもない。実は霊子実験施設を拡張しようとおもってネ。お前の意見もとりあえず聞いておきたくてネ」

 そう言ってマユリは『霊子実験施設拡張について』と書かれた資料と牛乳を粕人?に手渡す。

「え……えっと。……隊長。なんで牛乳が?」

 その言葉にマユリは「なんだと?」と粕人?に疑惑の眼を向ける。

「おかしい。いつものクズなら資料を読む際いつも牛乳を飲んでいたではないか。やはり今日のクズはおかしい。急いで四番隊に――」

「いえいえいえ!……そうです!僕は資料を読む時はいつも牛乳を飲んでいました!!」

 そう言うと粕人?は資料を開きながら牛乳に口をつける。飲み干した先から新たな牛乳瓶を手渡されるので粕人?は渡されたはしから牛乳を飲んでいく。

「ゴクゴクゴクッ……ご馳走様でした」

 牛乳を飲みながら資料に目を通した粕人?は自分の意見を言おうとする。その時だった。

「そうだ、クズ。悪いがアレを掃除してくれ」

 そう言ってマユリは部屋の隅に置かれた薄汚れた像を指さした後、雑巾と牛乳を粕人?に手渡した。

「あの……隊長。雑巾はわかりますが、なぜ牛乳――」

「なんだと!?」

 粕人?の発言にマユリは目を大きく見開く。

「クズ。お前は雑巾がけをする時、いつも牛乳を片手に雑巾がけをしていたではないか!……これはおかしい。今すぐにでも四番隊――」

「はいはいはい!そうですそうです!!僕は雑巾がけをする時はいつも牛乳を飲みながら雑巾がけをしていました!!」

 そう言って粕人?は雑巾を片手にゴシゴシと拭きながら牛乳を飲んでいく。資料を読む時と同様、飲み干したさきから新たな牛乳瓶を渡されるので粕人?は飲むしかない。

「ううぅ……隊長……終わりました……」

 汚かった像がピカピカになる頃には、粕人?の腹はタプタプに膨れ上がっていた。

「うむ、ご苦労だった。下がっていいぞ……四番隊平隊士の佛宇野段士(・・・・・)

「はは……何を言っているんですか、涅隊長。僕は十二番隊第二十席、葛原粕人(・・・・)ですよ」

 今にも吐き出しそうになるのを口で抑え、粕人?は部屋を後にする。

「……ば、馬鹿な。俺の、写絵の能力で……葛原に化けていた俺を――――」

 周囲に誰もいないことを確認して十二番隊第二十席、葛原粕人(・・・・)から四番隊平隊士、佛宇野段士(・・・・・)に戻った月光はその場に崩れ落ちた。

 




今回の話は感想を下さった方の中で信頼について書いてくださった方がいまして、その方のコメントに触発されて書いてみました(マユリだけ粕人?が偽者だと最初から気づいていた)。

この場を借りてお礼申し上げます。

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