天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


新章第二十二話 葛原粕人は猿になるようです

 

 (くろつち)マユリは自室でとある大ヒット漫画を読んでいた。

「うむ、この七つの珠を集めると願いが叶うという漫画は実にすばらしい。その中でも宇宙の帝王と名乗る男は面白い。まるで自分ではないかという錯覚を覚えるヨ。そして主人公の種族の能力、特に満月を見れば変身し戦闘能力が向上するのは面白い。ぜひとも再現したいものだ」

 その後マユリは研究室に戻ると何かを作り始めた。

 

 

 三日後。

「ん?」

 葛原(くずはら)粕人(かすと)はお尻に違和感を覚えた。

「何だ?何かお尻がムズムズ――」

 ビリッ!

「え……!?」

 お尻を見て、粕人は言葉を失う。そこには服を破って尻尾(しっぽ)が生えていた。

「何で尻尾が?……あっ!!」

 昨日のことを粕人は思い出す。

 粕人が「あぁ、疲れたな」とポツリと漏らすとマユリが「それは大変だ。すぐに注射を打つとしよう」と有無を言わさず得体の知らない薬液を注射したのだ。その後は何もなかったため特に気にしていなかったのだが。

「クズ」

 粕人は振り返る。そこには尻尾を生やす原因となった張本人が。

「涅隊ちょ――」

「急いで金剛石よりも固いと言われる鬼哭石(きこくせき)を100㎏ほど採ってこい」

「い、いや。隊長!それよりも――」

 この尻尾はどういうことですか!?と粕人は言えなかった。何故ならば喉元には抜かれた疋殺(あしそぎ)地蔵(じぞう)が突きつけられていたからだ。

「私は今すぐにでも研究に取り掛かりたいんだ。これ以上私の貴重な時間を浪費させたら……どうなるか分かるよな?」

「は、はい。今すぐ行ってきます……」

 静かで、それでいて重いマユリの口調に粕人は従うしか選択肢はなかった。

 

 

 その日の夜。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 鬼哭石が取れる山奥の砕石場で、血まみれの粕人は絶体絶命の危機に陥っていた。採取中に(ホロウ)の一団と遭遇したのだ。

「どうしたのぉ、死神?お前の力はこんなものなのぁ?」

 耳に鏡のようなイヤリングにアフロヘアで髭を生やしたマッチョの下級大虚、プリ・ズマーはガラガラとした耳障りな声で侮蔑する。

「くっ!」

 悔しさに粕人は歯を喰いしばる。

 顔の上半分を虚特有の仮面で隠し、お姉言葉で話す目の前の敵に翻弄された。

 砕石場に着いて数分後。粕人は前触れもなく幾百の虚に包囲された。突然の虚の出現に粕人は虚を突かれつつも応戦。無我夢中で苦無や針、薬品などの武器を使用するも虚達の身体をすり抜けるだけ。

 この時粕人は初めて気がついた。突然現れた幾百の虚が幻だということに。

 粕人が幽世(かくりよ)閉門(へいもん)以外の武器を失い、種明かしとばかりに能力を解いたプリ・ズマーが現れた時には、幻ではない本物の虚達が包囲網を完成させていた。

 退路を断たれ遠距離攻撃が可能な武器を全て失った粕人は前後左右上と五方向から来る遠距離攻撃に反撃することが出来ず回避し続けるしかなかった。

 虚の猛攻に遂に粕人は倒れた。夜中に遠い山道を歩いた疲労に戦闘の疲労、負傷による痛みに粕人の身体が耐えられなくなった。

 そんな虫の息の粕人を見てニタニタとしながらじわじわと包囲網を狭める虚達。

「ここまでか……」

 死を覚悟した粕人はふと空を見上げた。欠けた部分が一つもない真円の月が地上を照らしていた。

「あの満月が、僕の最後に見る光景か。最期だからか、すごく綺麗に見えるよ……ッ!?」

 その時だった。

 

 ドクンッ!

 

 身体の奥底で鼓動が鳴る。一回だけではない。鼓動は大きく、間隔を狭めてなり続ける。

 粕人の目が鮮血のように赤く染まると身体が見る見るうちに服を破くほど膨張。全身を黒い体毛が覆い始める。

「ウウウウウウゥゥゥゥゥゥッッッ……………………」

 呻き声を漏らす口からは犬歯が伸び、顔は凶暴なヒヒのような野獣へと変わり始める。

「!?全員、奴を攻撃しろ!!殺せ!!」

 プリ・ズマーが命令する。しかしそれは遅かった。なぜならば風前の灯火(ともしび)だった葛原粕人(死神)(またた)く間に巨大な猿へと変貌を遂げていたからだ。

 巨大な猿は目下にいる虚達を見てニヤリと笑う。

 その笑みが一人の死神を虚の一団がなぶり殺しにするという図式が崩れ、巨猿となった死神が虚の一団を皆殺しにするという図式を成り立たせた瞬間だった。

 

 グオオオオオオォォォォォォッッッ!!

 

 咆哮をあげた死神猿は足元にいた虚を蹴飛ばし、踏みつぶす。我を失った虚達が殺戮を始めた巨猿に向けて攻撃する。だがそんな攻撃も巨猿には蚊に刺された程度にしか感じないのか空を飛ぶ虚は叩き落とされ、地面にいる虚は次々と踏み殺されていく。

「く、クソォ!殺されて、殺されてなるものですかぁっ!!」

 プリ・ズマーは再び能力を解放する。最初に見せた虚の十倍、幾千の虚の軍勢を。

「さぁ、これで恐怖しなさ――」

 それが幻を見せる能力を持つ下級大虚、プリ・ズマーの最期の言葉だった。最期に見た彼の光景。それは口から光線のようなものを四方八方に吐き出し破壊していく巨猿。その光線が自分の方向に吐き出された姿だった。

 

 

 グルルルルルル

 

 理性を失った巨猿粕人は周囲をぐるりと見渡す。自分の周りにいた虚は消滅し、周囲にいるのは自分しかいない。

 遠くに目を凝らす。そこには点のような無数の灯り、流魂街(るこんがい)が見えた。

 ニヤリ。

 自分が“弱き者を守る存在”だと忘れてしまった巨猿粕人は流魂街を破壊しようと光が灯る方向へ歩き出した。

 

 

 翌日の瀞霊廷(せいれいてい)通信(つうしん)

『本日未明。巨大な猿のような虚が流魂街近くまで接近。街に侵入しようとしたが十二番隊隊長・涅マユリ率いる技術開発局によって水際で食い止めることに成功。麻酔薬と巨大な猿にも通用する捕獲ネットで身動きが取れなくなった所を涅隊長が巨大な猿の首を狩ったことで事態は収束に向かった。

 その手際の良さは一部始終を見ていた流魂街の住人は口をそろえて『まるでこうなることが最初から分かっていたようだ』と感心した様子で語り、水際で防いでくれた涅隊長と技術開発局に惜しみない賛辞を送った』

 

 


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