天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

110 / 192
この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

阿散井苺花が使う斬魄刀とその能力は筆先文十郎が想像して作ったものです。阿散井苺花の斬魄刀がすでにあるという情報がありましたら教えていただけると幸いです。

朽木ルキアを阿散井ルキアとしていますが、仕事中は『朽木』、それ以外は『阿散井』と分けているので間違いではありません。なので安心して読んでくださると嬉しいです。


新章第九話 粕人、眠八號と阿散井苺花の護衛をする後編

 待ち合わせ場所に向かうと、そこには髪の赤い愛らしい顔の少女が上機嫌に鼻歌を歌っていた。

「あ!眠ちゃん、待ってた……よ」

 (ねむり)八號(はちごう)に気がつき、声をかけた少女が眠八號の隣にいる粕人を見て表情を一変させる。

「あんた、誰?」

 不機嫌な態度を隠そうともせず、赤い髪の少女、阿散井(あばらい)苺花(いちか)は尋ねる。

「僕ですか?僕は十二番隊第二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)と申します。貴女が阿散井苺花さんですね?貴女のことは眠さんから――」

「ねぇ、眠ちゃん。なんでこの人がついてきてるの?」

 苺花の無礼な態度に気にする様子もなく挨拶をする粕人を無視し、少女は粕人の隣にいる黒髪の少女に尋ねる。

「マユリ様が子どもだけだといけないと言ってクズさんを付き添いに連れて行くように言ったんです!」

 元気な声で質問に答える眠八號に苺花は「まあいいや、じゃあさっさと行こう」と眠八號の手を取って歩き出した。

「……」

(う~ん。年頃の女の子は難しいなぁ……)

 他所の隊とはいえ上官に当たる粕人に挨拶するどころか徹底的に無視をする苺花に、粕人は特に感情を荒立てることなく、三歩離れた距離を保ちながら二人の少女の後をついていった。

 

 

 

 一時間後。

「ねえ眠ちゃん。見て見てぇ!」

「わぁっ!すごい綺麗です!」

 苺花が連れて来た場所。そこは森の奥にある泉だった。泉の水がよほど澄んでいるのか、泉は周りの風景を上下反転にして周りの風景を映し出している。

 はしゃぐ二人を見て粕人は微笑む。

(眠さんはともかく、何だかんだ言って苺花さんも子供だな)

「おい、おっさん。何ジロジロ見てんだよ!」

 粕人の視線に気づいた苺花が睨み付ける。

「これは失礼しました」

(う~ん、嫌われてるな……)

 粕人は軽く頭を下げると近くの木の裏に隠れた。

「ねぇねぇ眠ちゃん。ちょっと手を入れてみて。すっごい冷たいよ!」

「あ!本当です!」

 木にもたれ、楽しそうにする二人の声を聞きながら、上を見上げる。

「綺麗な空だ。それに空気も美味しい。最近火山ガスが噴出する所とか空気がメチャクチャ薄い高山とかばっかだったからな。こうして美味しい空気を吸いながら割れる空を見るのもまた格別…………ッ!!??」

 粕人は勢いよく立ち上がり割れる空に視線を外すことなく懐から苦無を取り出す。

 苺花も気づいたのだろう。眠八號の手を引いて泉から出ると刀を抜いた。

 割れた空の奥からスッと白いワンピース風の服に緑色の髪を腰まで伸ばした、口元を露出させた骸骨の仮面を被った少女が現れた。

 

 破面(アランカル)ッ!!

 

 粕人と苺花の心の声が一致した。

「……」

 緑髪の破面は音もなく三人の視線から消えると近くの木の枝に座った。

「あんた、誰よ!?」

 自分達を見下ろす少女破面に声を荒げる苺花。

 その問いに答えることなく、緑髪の破面は刀を抜きながら小さな声で呟いた。

息吹(いぶ)け、大樹王女(プランタプリンセサ)

 刀を抜き終えると同時に彼女の身体に絡まるように何本もの緑色の蔦が現れる。

「……」

 木の幹に手を触れ、少女が仮面の奥で小さく笑う。次の瞬間、彼女の触れた木の根が、まるで触手のように粕人達の方へ向かってきたのだ。

「クッ!」

 数ある斬魄刀の中で一、二位の切れ味の悪さを誇る幽世閉門で、目の前までせまった鋭く尖った太い根を居合斬りする粕人。

(のぼ)れ!青龍丸(せいりゅうまる)!!」

 苺花の斬魄刀・青龍丸の刀身・鍔・柄が澄んだ水を凝縮させたようにうっすらと青い透明色に変わる。

(そめ)太刀(たち)青龍刃(せいりゅうじん)』!」

 振り上げた刀を一気に振り下ろした。

 刀身から紙よりも薄い水の刃が迫りくる根を斬り落とし、その先にいた少女に向かっていく。

「……」

 空に浮かぶ緑髪の破面がさっきまでいた場所を見下ろす。そこには自分が座っていた木とその後ろにあった木が、まるで包丁で切った豆腐のように地面に転がっていた。もしその場にとどまっていれば、刃の通さない強度を誇る『鋼皮(イエロ)』を持ってしても重傷は避けられなかっただろう。

「眠ちゃん、急いで逃げて」

 刀を構えたまま苺花は背後にいる眠八號に促す。

「だ、ダメです!腰が……!」

 少女破面の攻撃に腰を抜かしてしまった眠八號は起き上がることができなくなっていた。

「おい、あんた!眠ちゃんを連れて逃げろ!」

「苺花さん。眠さんを連れて逃げて下さい!」

「「んッ!?」」

 二人の声が重なり、二人が同じ言葉を言い放つ。二人はわかっていた。目の前の敵が眠八號を庇いながらでは戦うことが出来ない相手だと。

「苺花さん!ここは僕が引き受けます。だから――」

「こうなったのも私の責任だ!私がこいつを倒す!!あんたはさっさと眠ちゃんを連れて逃げろ!!」

「……ッ!」

 赤い髪の少女が譲らないことを悟った粕人は恐怖で固まる黒髪の少女を抱えて駆け出した。

「……」

 背を向けて逃げ去る粕人に拳に霊圧を集めたものをボクシングのジャブのように打ち出した。

 

 虚弾(バラ)

 

 虚閃(セロ)には威力は劣るものの虚閃の二十倍の速さで打つことが出来る攻撃技。

 しかし緑髪の破面の放った虚弾は途中で消滅した。

「あんたの相手は私だ!」

 苺花が青龍刃で虚弾を相殺させたからだ。

 邪魔をした苺花をジッと見ながら、少女破面は真下の木の枝に降り立ち、木の幹に触れた。

 

 ババッ!バババッ!!

 

 地中から再び鋭く尖った太い根が苺花に襲い掛かる。しかも今度は一本ではなく数本が様々な角度から押し寄せてくる。

「青龍刃!」

 赤い髪の少女は間合いを取りながら迫りくる根を全て斬り落としていく。

「……」

 緑髪の少女が霊力のこもった手で幹を撫でる。するとさきほど斬られた箇所から再び鋭く尖った根が現れ、再び苺花に襲い掛かる。

「クソッ、青龍刃!」

 苦虫を潰したような顔で再び襲い掛かる根を斬り落としていく苺花。

 苺花が根を斬り落としては少女破面が根を復元させて再び襲い掛からせる。

 そんなことが数分行われる。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 苺花は肩で息をしていた。汗で髪が張り付き、疲れて目の前の景色がぼやけ、今にも倒れそうなほどに

 疲労がたまり刀を構えるだけでも重労働なほどに。

 そして。薄い青色の半透明の刀は普段から持ち歩いている斬魄刀と同じくらいまで戻っていた。

 青龍刃は予め溜めていた水を使い攻撃や防御に使用する。その水がゼロに近いほど枯渇した状態では彼女に勝ち目がなかった。

 それでも赤い髪の少女は刀を構える。

「……」

 そんな苺花を見ながら、少女破面は地面に降りると霊圧が溜まった掌を地面に当てた。すると先ほど以上の木の根が現れ、苺花を囲むように出現する。

 戦う意志に満ちた顔が絶望に変わる。そんな顔を肴に、少女破面は地面から手を離し立ち上がると、先ほどまで地面に触れていた手を下に下ろした。

 それが合図だったのだろう。十数本の根が同時に苺花に向かって襲い掛かった。

 

 ブシャアッ!!

 

 肉を貫き血が飛び散る音。しかしそれは苺花の身体から洩れたものではなかった。

「な、なんで……」

 苺花の前には眠八號と共に逃げた男、葛原粕人が立っていた。その背には数本の根が刺さっている。

 眠八號を安全な場所に移した後、粕人は急ぎ苺花の元に戻ってきたのだ。左右後ろから苺花に襲い掛かっていた根は持っていた苦無や針、毒薬で潰したが正面まで手が回らなかった。

 このままでは苺花の身体に当たると思った粕人は迷うことなく彼女の前に立ち、自分の身体を盾に苺花を貫くはずの根を受け止めた。そして粕人は目の前で驚く少女をさらに驚かす行動に打って出る。

 

 グサッ!

 

「え?――」

 苺花の斬魄刀、青龍丸を自身の身体に突き刺したのだ。粕人の血を吸い、見る見るうちに赤くなる青龍丸。

「やれ!阿散井苺花!!」

 青龍丸が赤く染め上ったのを見届けると粕人は刀を抜き目の前の少女の名を叫び、地面に倒れ込んだ。

 粕人の言っている意味を即座に理解した苺花は自分が見下した男に助けられた自分への怒りや、男の行動を無駄にするわけにはいかないという使命感など様々な感情が入り混じった涙を浮かべながら

 

裏初(うらぞめ)の太刀、赤龍刃(せきりゅうじん)!!」

 

 刀を振り下ろした。

 攻撃する手段を失ったと油断した緑髪の破面は避けることも防御することも出来ず、赤黒い刃を正面から喰らってしまった。

 真っ二つに斬られた少女破面。その少女破面に付着した赤い血はみるみる内に緑髪の少女の身体を溶かしていき、ついには最初からいなかったかのように真っ二つに斬られた身体は消滅した。

 真っ白な顔で何かを口に放りこむ粕人を心配しながら苺花は尋ねる。

「なんで、なんで私を庇った上にあんな無茶な真似を!葛原二十席!?」

 涙を流しながらあんた呼ばわりしていた男の名前を呼ぶ苺花。そんな少女の頭を、粕人は優しく撫でながら言った。

「僕の任務は、眠さんと苺花さんの護衛、ですから……」

 飲みこんだ丸薬で多少回復したものの立っているのも難しい状態の粕人だったが、そんなことを露にも出さず目の前の少女に心配かけまいと優しい笑みを浮かべた。

 

 

 

 数時間後。

「ウッ……――――」

 無事眠八號と苺花を連れて帰った粕人は綺麗に折りたたまれたままの布団の上に倒れ込んだ。

 

 

 

「お、おい。どうした苺花!?」

 部屋でくつろいでいた六番隊副隊長、阿散井恋次は突然自分の胸に飛び込み噛み殺せていない声で泣き始めた愛娘にうろたえながら尋ねる。親にも泣いた姿を見せないからだ。

「……ううぅ、十二番隊の……葛原二十席に。……キズ――」

 

 をつけてしまった。

 

 そう呟く前に恋次は愛娘を優しく自分から離し、立ちあがる。

 怒りに燃える顔は自身の髪にも負けないほど赤く染め上っていた。

「おぉ、恋次。顔を真っ赤にさせてどうしたのだ?」

 愛娘が夫の部屋にいると聞いた苺花の母親、阿散井(あばらい)ルキアが部屋を出ようとする恋次に声をかける。

「すまないルキア。苺花を頼む。俺はこれから苺花をキズモノにしてくれた葛原って男をたたっ斬ってくる!!」

「え、ちょっと待て!待つんだ恋次!!」

 止めようとする妻の声も聞かず、恋次は飛び出していった。

 

 

 

 数分後。

 未だ部屋で横たわる粕人の部屋からこの世の物とは思えない断末魔の悲鳴が十二番隊隊舎に木霊した。

 




青龍丸(せいりゅうまる)
筆先分十郎版阿散井苺花の持つ水系の斬魄刀。始解をすると刃も柄も鍔も青い半透明に変わる。蓄えていた水が枯渇すると普通の斬魄刀に戻る。補充すれば再度可能。
初の太刀、青龍刃は粕人の居合い斬りを上回る威力を持つ。
血で青龍丸を満たした場合、赤龍丸に変わり裏初の太刀、赤龍刃は青龍刃に斬った対象物を溶かす効果が付属される。

ベルデ・アルアッワーム
粕人達の前に姿を現した緑色の髪をした少女姿の下級大虚の破面。植物を操る能力を持つ。無口で名前を名乗るように言われても告げることはなかった。
帰刃は『息吹(いぶ)け、大樹王女(プランタプリンセサ)
名前の由来はスペイン語で緑とスペインで活躍した植物学者イブン・アルアッワームから。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。