天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


第八話 時空移動装置

(くろつち)マユリにクズ呼ばわりされている男は子どもの時に起きた出来事を夢で見ていた。

『だ、だれか。だれかたすけてよ!』

男は友達と一緒に流魂街から離れた丘で遊んでいた所を3メートルほどの(ホロウ)に襲われたのだ。

『あ!』

幼少期の男は石に(つまづ)き倒れてしまう。振り返るとそこには今まさに自分を殺そうとする虚が。

『……ッ!』

幼少期の男は恐怖で声が出ず、目を瞑ることを忘れていた。

(あ、僕……殺されるんだ!)

子供心ながらそう諦念(ていねん)した、その時。

茂みから一人の男性が現れると虚めがけて

『ウォアァタタタタタタタタッッッ!!』

独特な叫び声を上げながら史上最強といわれる一子相伝の暗殺拳の伝承者風の男性は拳を繰り出した後、虚に背を向けた。

『お前はもう死んでいる』

その直後、虚の肉体は見る見るうちに破壊され、最後は爆発した。

「ハッ!」

そこで男は目を覚ます。

忘れることのできない、誰かを守るということに生きがいと憧れを抱いた忘れることのできない日。そして男には気がかりなことがあった。

自分を助けてくれた男性が虚を倒した後、自分に何かを訴えていたこと。そしてその男性にきちんとお礼が言えなかったこと。

「おじさんに、会いたいな」

男はかみ締めるようにそう言った。

 

 

 

数時間後。マユリの部屋。

男の目の前には何の変哲もない机。そしてその机の最上段の引き出しを開けると何もない空間の中に絨毯のような青い板、その青い板の上に様々な機械が取り付けられた謎の物体があった。

「見ただけで理解できないクズに、この私がわかりやすく説明してやろう。これは時空移動装置。時間と空間を越えて移動する乗り物だ。理論はクズに言ったところで理解できないだろうから詳しくは言う気はないが。起動後は現実空間の虚空にタイムホールと呼ばれる穴が空き、これが時空間と現実空間の出入口となって過去や未来に移動できるという寸法だ」

「……」

「ん?どうしたクズ。ただでさえアホな面をさらにアホにして?」

「素晴らしい!素晴らしいです涅隊長!!誰もが思いつくけど結局は夢物語と諦めてしまうものを息を吐くように実現してしまう天才的技術!まさに神!神の中の神!これぞまさしく人間国宝!涅マユリ!!」 

男は「あぁ、これってドラ○もんのタイム○シンですね」と言うのを忘れるほどの衝撃を受けていた。

初めて心の奥底から賞賛の言葉を述べる男に、マユリは少し後づさりながら「人間ではなく死神だが」と突っ込みを入れる。

「涅隊長、この発明品。まだ誰にも試していないのですよね?」

「あぁ、確かにまだ試してはないが――」

「でしたらこの僕に、この僕に()えある実験第一号にさせてください!」

男の気迫のこもった願いに引いたマユリは「この実験は阿近(あこん)に」と言いかける。

しかし今日の男は違った。

「何故です!実験には失敗はつきもの。阿近さんに何かあったらどうするのです!!どうなるかわからない実験だからこそ僕のようないなくなっても全体に影響しない人間が選ばれるべきでしょう!!涅隊長の実験体にされることが唯一の生きがいである僕が実験第一号にならなくては僕の存在意義はどうなるのです!!さあ、涅隊長、僕を、この僕を!時空移動装置の実験第一号に指名してください!!!」

「わ、わかった!わかったから服から手を離せ!!」

「ありがとうございます!」

願いを聞き入れられた男はマユリの言う通りに服から手を放す。

時空移動装置に乗り込んだ男に、マユリは重要なことを告げる。

「いいかクズ。その時空移動装置は往復分のエネルギーしかない。機械自体はそうでもないのだがその機械を動かすエネルギーが技術開発局の力を持ってしてもわずかしか手に入れられなかったからな。あと過去を変えるようなことはするな。ヘタをすると未来が変わり今の自分が消滅する可能性があるぞ」

「わかりました」

男は教えられた方法で過去への移動を開始した。

自分を助けてくれた男に会うために。

 

 

 

幼少期の頃にタイムスリップした男は近くの山に時空移動装置を隠すと辺りを見渡す。

「確か僕が襲われたのはちょうどこの時間帯だったような気がする。急ごう」

男は友達と訪れた丘を目指す。

すると早速男の目の前に友達と一緒に訪れていた自分が虚に襲われていた。クモの子を散らすように逃げていく。

虚は逃げ惑う子ども達から幼少期の男に狙いをつけ、追いかけていく。

男も幼少期の自分と虚を追いかける。

「確かこの辺りで転ぶはず」

男の言う通り、幼少期の男は石に躓いて倒れこむ。

「そろそろだ。そろそろあの男の人が出てくるはず」

「だ、だれか……、だれかたすけてよ!」

幼少期の自分が泣きながら助けを呼ぶ。そんな幼少期の自分を助けたい気持ちを抑えて男は見守る。

「安心しろ、そろそろ。そろそろお前を助けてくれる人が現れる!」

しかし待てども待てども幼少期の自分を救ってくれた救世主は現れない。

虚が大きく口を開けた。頭から食べるつもりだ。

「くそっ!」

いても立ってもいられず、男は隠れていた茂みから飛び出した。

「うわあぁああああぁぁぁぁっっっ!!」

ポカポカポカッ!

男は自分よりもはるかに大きい虚に飛びかかり殴り続ける。まだ四番隊にいた頃は並みの虚しか倒すことができなかった男だったが、十二番隊に配属されてからは幽世閉門(かくりよへいもん)の力で何度も死んでその度に少しだけ強くなって生き返ってきた。今では少し強い程度の虚を素手で倒せるほどまでに成長していた(幽世閉門で斬りつけるよりも素手のほうが与えるダメージが大きいため)。

数分の対決後、断末魔のような声をあげ虚は地面に倒れる。

「よし後はこいつを!」

男は虚の口にマユリ特製の爆弾を放りこむ。

「これでもう死んだはず!」

男の言葉通り、虚は爆発し、霧散した。

「ん?」

男は気づく。

(しまった!僕が助けてどうするんだ!?歴史が、歴史が変わってしまう!!)

「……おじさん、ありがと!」

「あ、いえ……ハッ!」

ここで男はようやく全てを理解した。歴史は変わってなどいない。子どもの頃の自分を救ったのは未来の自分自身ということに。

(しかし幼き頃の記憶とは実にいい加減なものだ)

男は思わず呆れてしまう。

自分が思った男性は筋肉隆々の男性だったが自身の身体は筋肉隆々には程遠い。貧弱というほど貧弱ではないが、だからと言って戦闘を得意とする死神と比べたらはるかに細い体型だ。

「いいか、少年。子ども達だけであまり遠くに行くなよ。子どもが何人いたところで虚を倒せないぞ。むしろ向こうから見たらエサが増えただけなんだから」

「えぇ!なんでぼくたちがホロウをたおそうとしたのをしっているの?」

「何で知っているかって?それは――」

男は未来から来たからだ、と言おうとして言い留まる。もし未来から来たことを教えたら歴史が変わる可能性があると思ったからだ。

「大人になったらわかることだよ」

「そ、そうなんだ!おとなってすげぇ!!」

幼少期の男は感動の眼差しを男に向ける。

男は幼少期の自分の両肩に手を置いて語りかえる。

「いいか、お前の人生はものすごく(涅隊長によって)苦労する。(涅隊長のせいで)何度も死にそうになる。それでも生きていればきっといいことがあるはずだ(まあ涅隊長という地獄から抜け出せていない俺が言えるセリフじゃないが)。強くなるんだぞ!」

あの時のおじさんは自分自身……そしてあの時おじさんが語ったのは今日自らが幼き俺に語った内容だった。

全ての謎が解けた男は満足して元の時代に戻った。

 

 

 

「ん?」

元の時代に戻った男は思った。

「子どもの頃の自分を助けたのは未来の自分だということはわかった。でも本当に幼少期の僕を救ってくれた人が、史上最強といわれる一子相伝の暗殺拳の伝承者風の男性だったら。僕が幼少期の僕を助けたことで消えてしまったって可能性は……ない、よね?」

 

 

 

 

 

 


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