そのままの君が好き。   作:花道

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♯7 もう一歩。

 

 

 

 暖かな気候。

 秋空。

 あなたの隣を歩く。

 途中、信号に捕まり、立ち止まる。

 伸ばされた髪の毛を見つめる。

 個人的にはどっちでもよかった。

 ただ、少しだけ気になった。

 ロングかショートかどっちが好きなのかを。

 変わらず髪の毛を見つめる。

 伸ばしていると面倒くさいことも確かに多い。

 この髪型が似合っているのかも、少し不安になる。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

  そのままの君が好き。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 空を見上げていると、どこまでも青空が続いている。

 陽乃の隣には比企谷八幡か並んで歩いている。

 今日は陽乃の住んでいたマンションの解約と必要な物を取りに行った帰り道。MAXコーヒー片手に歩く比企谷とブラックコーヒー片手の陽乃。こうやって歩いていると、カップルみたいに間違えられるのてはないか、と淡い期待を抱いてしまう。

 黒の靴に黒のパンツ、黒のシャツと陽乃が着る服は黒系が多くなった。隣を歩く比企谷八幡の方も、似たような服を着ている。

 

 あれから一週間。

 

 アルバイトも決まった。

 いよいよ本格的に二人で住む準備も佳境に入ってきた。陽乃のアルバイトは小さなカフェ。時給、距離、店の雰囲気などもなかなか悪くない。

 面接時に初老の店長がその場で採用してくれたのはよかった。

 必要な書類も全て提出した。

 おかげで明日からにでも働けそうだ。

 突然、風が吹く。

 目を閉じる。

 髪の毛か激しく揺れる。

 乱れた髪の毛を整える。

 そこで、ふ思う。

 「髪の毛伸びたな」と。

 途中で揃える事もなく、ただ自然に伸ばし続けて二年あまり。改めて、伸びたことを実感する。

 街並みは陽乃が生まれた時からあまり変わらない。

 だけど、陽乃は変化した。セミロングだった髪の毛を伸ばした。着る服も黒系が多くなった。母親と喧嘩して家を出た。望んだ未来は訪れなかった。

 それでも。

 それなりには幸せな日々だったと陽乃は思いたかった。

 自身の夢を棄てて、父の仕事を継ぐ。その決まったレールを走り続けた。

 

 

 後悔は無い。

 

 

 隣を見上げる。

 あの時よりも君は大きくなった。声も少し低くなった。

 彼の隣にいると、不思議と祖父のことを思い出す。

 性格もなにも似つかないのに、煙草も吸わないのに、将棋も指さないのに、お酒も飲まないのに、羊羹も食べないのに、あの人を思い出す。

 陽乃の大切な人。

 ずっと憧れ続けた人、その背を追いかけて、導かれ、夢を見つけ、今日まで生きてきた。

 よく怒られた。よく拳骨を落とされた。

 それなのに大好きだった。

 道の端で意味もないのに、左手を空へ伸ばす。

 あの人へ届きもしないのに、ただこの手を伸ばす。

 無意味な行動だとは陽乃も理解している。

 比企谷八幡はただその行動を見つめていた。

 

 

 ーーーおじいちゃん。わたしね、好きな人ができたよ。

 

 

 まだ、伸ばしている。

 

 

 ーーーでもね、その代わりに夢をなくしたの。

 

 

 瞼を下ろす。

 

 

 ーーーだけどね、また、その夢を目指してみようと思うの。

 

 

 ようやく、腕を下ろす。

 

 

 ーーーだから、まだもうちょっとだけ見守っていてほしい。

 

 

 

 

 ーーーおじいちゃん。

 

 

 

 

 

  06.23

 

 

 

 

 

  ♯7 もう一歩。

 

 

 

 

 


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