そのままの君が好き。 作:花道
出逢うはずじゃなかった出逢い。
暖かい食卓。
子供のように泣いた。
甘いコーヒー。
優しい君。
生きようとする意志が溢れてくる。
ありがとう。
少し、雨が止んだ気がした。
ーーーーー
そのままの君が好き。
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MAXコーヒーをテーブルの上に置く。
比企谷はお風呂に入っている。
改めて比企谷の部屋を見渡すとギターが数本並べられていた。
音楽を始めたのだろうか?
そう言えば趣味は人間観察だとか言っていたから、新しい趣味を見つけたのかもしれない。それが音楽になるなんて思ってなかったが。
陽乃の趣味はふらっと旅行に出かけることだった。
最近は色々ありすぎてそんな事をしている暇はなかった。
落ち着いたら、またどこかに行きたい。
ーーーそう言えばわたしって男の子の家に入るの初めてな気がする。
ボッと陽乃の顔が真っ赤に染まる。
ーーーえ? じゃあわたしは初めてであんな大胆なことしたの?
ブシュー、と陽乃の顔から煙が上がった気がした。
ほっぺたを左手で引っ張る。
痛い。現実だ。夢じゃない。
後ろのベッドに頭を預ける。
背中まで伸びきった髪の毛を左手でいじる。
枝毛がある。
ガチャとドアが開く。
髪の毛を拭きながら、比企谷が入ってくる。
陽乃の前を通り過ぎて、冷蔵庫から麦茶を取り出して、コップに注いで飲む。
コップ片手に比企谷は陽乃の隣に座る。
そして尋ねる。
「これからどうするんですか?」
これからの事を。陽乃の事を。
「……、」
正直に言えば、もう一人になりたくなかった。
ここにいたい。それが本音だった。
でも、ここにいたら迷惑をかけてしまう。
だから、
「出て行くよ。比企谷君もその方がいいでしょ?」
最後に思い出をくれたから、出て行く覚悟はできてる。
比企谷の顔を見て、忘れたはずの笑顔を精一杯を浮かべる。
「明日には出て行くから。今日は本当にありがとう」
感謝の言葉を述べて、陽乃は余っていたMAXコーヒーを飲み干した。
やっぱりすごく甘い。
「俺は別に」
比企谷はバスタオルを肩から外し、右手で握る。
「陽乃さんがここにいたかったらいてもいいですよ?」
「え?」
予想外の言葉に陽乃は眼を少し見開いた。
「そんなボロボロの陽乃さんを出て行かせるほど、俺は悪魔になったつもりはないので」
また、泣きそうになった。
「ただ、働いてもらいますけど。さすがに二人を賄えるだけの甲斐性はまだないので……それでもいいんなら、ですけど」
「……」
「どうします?」
「わたしは……ここに、いたい」
♯5 少しだけ、雨が止んだ気がした。
プロローグ 雨は降り続けている。
終
次章
第一章 もう一歩、もう一度、もう一歩。
始