そのままの君が好き。   作:花道

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♯5 少しだけ雨が止んだ気がした。

 

 

 

 出逢うはずじゃなかった出逢い。

 暖かい食卓。

 子供のように泣いた。

 甘いコーヒー。

 優しい君。

 生きようとする意志が溢れてくる。

 ありがとう。

 少し、雨が止んだ気がした。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

  そのままの君が好き。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 MAXコーヒーをテーブルの上に置く。

 比企谷はお風呂に入っている。

 改めて比企谷の部屋を見渡すとギターが数本並べられていた。

 音楽を始めたのだろうか?

 そう言えば趣味は人間観察だとか言っていたから、新しい趣味を見つけたのかもしれない。それが音楽になるなんて思ってなかったが。

 陽乃の趣味はふらっと旅行に出かけることだった。

 最近は色々ありすぎてそんな事をしている暇はなかった。

 落ち着いたら、またどこかに行きたい。

 

 

 ーーーそう言えばわたしって男の子の家に入るの初めてな気がする。

 

 

 ボッと陽乃の顔が真っ赤に染まる。

 

 

 ーーーえ? じゃあわたしは初めてであんな大胆なことしたの?

 

 

 ブシュー、と陽乃の顔から煙が上がった気がした。

 ほっぺたを左手で引っ張る。

 痛い。現実だ。夢じゃない。

 後ろのベッドに頭を預ける。

 背中まで伸びきった髪の毛を左手でいじる。

 枝毛がある。

 ガチャとドアが開く。

 髪の毛を拭きながら、比企谷が入ってくる。

 陽乃の前を通り過ぎて、冷蔵庫から麦茶を取り出して、コップに注いで飲む。

 コップ片手に比企谷は陽乃の隣に座る。

 そして尋ねる。

 

「これからどうするんですか?」

 

 これからの事を。陽乃の事を。

 

「……、」

 

 正直に言えば、もう一人になりたくなかった。

 ここにいたい。それが本音だった。

 でも、ここにいたら迷惑をかけてしまう。

 だから、

 

「出て行くよ。比企谷君もその方がいいでしょ?」

 

 最後に思い出をくれたから、出て行く覚悟はできてる。

 比企谷の顔を見て、忘れたはずの笑顔を精一杯を浮かべる。

 

「明日には出て行くから。今日は本当にありがとう」

 

 感謝の言葉を述べて、陽乃は余っていたMAXコーヒーを飲み干した。

 やっぱりすごく甘い。

 

「俺は別に」

 

 比企谷はバスタオルを肩から外し、右手で握る。

 

「陽乃さんがここにいたかったらいてもいいですよ?」

「え?」

 

 予想外の言葉に陽乃は眼を少し見開いた。

 

「そんなボロボロの陽乃さんを出て行かせるほど、俺は悪魔になったつもりはないので」

 

 また、泣きそうになった。

 

「ただ、働いてもらいますけど。さすがに二人を賄えるだけの甲斐性はまだないので……それでもいいんなら、ですけど」

「……」

「どうします?」

 

 

「わたしは……ここに、いたい」

 

 

 

 

 ♯5 少しだけ、雨が止んだ気がした。

 

 

 

 

 

 プロローグ 雨は降り続けている。

 

 

  終

 

 

 次章

 第一章 もう一歩、もう一度、もう一歩。

 

 

  始

 

 

 

 

 


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