そのままの君が好き。   作:花道

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今回賛否分かれそうです。


行間 誕生日
行間 2 煙草と翔陽と陽乃。


 

 

 

 煙草に火をつける仕草を、今でも鮮明に覚えている。

 ゆらゆらと揺らめき煙が空へ向かって伸びていき、静かに消えていく。

 吐き出される肺に溜められた煙。

 先端から燃える煙草が徐々に短くなっていく。

 煙草を吸う祖父の横顔をずっと見つめてきた。

 目を閉じて、満足そうに煙を吐き出す。

 子供の頃の陽乃には不思議な光景だった。

 まだ幼い陽乃には当然煙草の良さなんてわからない。

 でも祖父の表情には陽乃が大好きなお菓子を食べている時のような満足感が表れていた。

 灰皿に煙草を軽く叩きつけ、灰を落とす。

 その仕草をずっと見つめてきた。

 忘れることなんてできない大切な思い出。

 

 

 ずっと、いつまでも、この日と変わらず貴方が隣にいると思っていた。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

  そのままの君が好き。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 一人で生きていたならば、こんな気持ちにならなかった。

 貴方の影を追いかけて、今日までなんとか生きてきた。

 決して格好のいい人生じゃなかった。

 偽って、騙して、裏切って、泥臭く生きてきた。

 貴方の影を今でも探してしまう。

 拳骨の痛みを今でも覚えている。

 貴方の残してくれた愛情を今でも感じている。

 

 ーーねぇ、お爺ちゃん。

 ーーわたしね、好きな人がいるの。

 ーー貴方と似つかわしくない光に恋をしているの。

 ーー少しだけまた笑えるようになったよ。

 

 ベランダから空を眺めながら、会話なんてできるはずもないのに、貴方に向けて言葉を紡いでいく。

 手を合わせる。

 雲が流れていく。

 時間が過ぎていく。

 風が頬を優しく撫でていく。

 揺れる髪の毛を正して、もう一度空を見つめる。

 貴方は言った。

 死んでもお前を見守っているよ、と言ってくれた。

 格好悪い姿ばかり見せてきた。

 これからはこだわって生きていく。

 自然に笑えることが、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくてたまらない。

 心は開け放たれた。

 もう閉じられることはない。

 ポケットから貴方がよく吸っていたピースという銘柄の煙草とライターを取り出す。

 普段煙草は吸わないが、今日は特別。

 口に咥え、火をつけ、ふかす。

 もう一度、煙草を吸う。

 咳き込みながら、煙を吐き出す。

 この年になっても煙草の良さは正直わからない。

 でも、今日は特別。

 貴方のことだから、天国でもきっと幸せそうに煙草を吸っていると思う。

 ジジジと煙草が燃えていく。

 先端から煙が伸びていく。

 貴方の真似をする。

 

 ーー『それおいしいの?』

 ーー『ん? 煙草か? そうだな、味を言うのは難しいが、美味いぞ』

 ーー『どんなあじ?』

 ーー『……甘味があるかな。上品な甘味だ』

 

 甘味なんて全然感じない。

 ただ頭がクラクラするだけだ。

 正直美味しさなんて、陽乃には全然わからない。

 でも、貴方は煙草が大好きだった。

 今煙草は苦手だが、貴方の吸っている姿は好きだった。

 

「……」

 

 まだ自分には煙草は似合わない。

 なんだか背伸びをしているみたいだ。

 ても今日だけは特別。

 ……だって。

 

 

「誕生日おめでとう、お爺ちゃん」

 

 

 

 

 

  10.25

 

 

 

 

 

  行間 2 煙草と翔陽と陽乃。

 

 

 


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