そのままの君が好き。   作:花道

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♯13 散髪。

 

 

 

 決意は未だ硬くない。

 でも決めた。

 もう決めたことだ。

 伸び切った髪の毛を一つに束ね、陽乃は今日街へ行く。

 服装は変わらず黒で統一。

 長いまつげに縁取られた大きな瞳で陽乃はスマートフォンの画面とにらめっこ。

 イヤホンから届けられる世界的白人ラッパーの最新作を聴きながら、もう一度看板を確認する。

 目的地は決まっている。

 店の前に陽乃は立つ。

 ドアノブを回し陽乃は店内へ。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

  そのままの君が好き。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 二週間の間は基本なにも起きずに平和な時間だった。

 

 

 きっかけと言えばきっかけかもしれない。

 「陽乃ちゃん少し髪の毛切ろっか」と店長に言われてしまったら、従うしかない。陽乃の基本的なバイト内容は接客だが、簡単な調理だったら、手伝ったりもする。その際に髪の毛が長すぎるのは問題らしい。腰あたりまである髪の毛を一つに束ねているので、料理に入る可能性は低いがそれでも少し長すぎるらしい。厨房の人間ならもちろんヘアネットをつけたりするが、陽乃の仕事内容は基本接客。だから支給されてない。

 陽乃自身ももうそろそろ髪の毛が切りたかったからちょうど良いきっかけができたと思い、店長の話を快諾。

 翌日には近くの美容院を調べ、予約し、現在に至る。

 店の前で陽乃は音楽を止めてイヤホンを外す。

 『いろは唄』。美容院とは思えない店名だが、正真正銘美容院である。

 ズボンのポケットにスマートフォンとイヤホンを入れながら、店内へ入店。

 シャンプーの香りが充満している。

 女性店員が「いらっしゃいませー」と言う。それに続くようにほかの店員達も言う。

 店内は別にこれといって特に特徴があるわけでもなく、どこにでもある美容院だ。陽乃はスタッフに散髪と告げると空いてた椅子に案内される。

 

「綺麗な黒髪ですね」

 

 一回も染めた事はないので、綺麗なのはそのせいかもしれない。

 

「ありがとうございます」

 

 取り敢えずお礼を言う陽乃。

 

「どのような髪型にされますか?」

「肩あたりまで切ろうかと思っているんですが」

「そうですか」

 

 そう言ってスタッフはペラペラと雑誌をめくる。

 

「このような感じですか?」

 

 スタッフが見せてくれたのは以前の陽乃の髪型に近いものだった。こういう髪型がなんて言うのがは解らないが、取り敢えず理想の髪型に早速出会えた。

 

「じゃあこれでお願いします」

「わかりました。では髪の毛を濡らしますのでこちらにどうぞ」

「はい」

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 

 

 散髪を終えて、新しくなった髪型。

 新しい自分で夕暮れの街を歩く。

 早く貴方に逢いたくて少し早足で歩く。

 貴方の驚いた顔が見たいから。

 

 

 

 少し買いすぎてしまった。

 今日も寒いから、今夜は鍋でも食べようかと思い、色々と吟味しているうちに結局全て買ってしまった。

 現時刻を確認。18時過ぎ。この時間だとまだ比企谷は帰ってきていないが、夕食の準備をしているうちに帰ってくるだろう。

 陽乃はスマートフォンを取り出し、LINEを一通送る。

 

 

 陽乃

 『今日は鍋だよ。』

 

 

 口元に笑みを浮かべながら信号待ち。

 

 

 ーーー♪

 LINEが帰ってきた。

 

 

 比企谷

 『分かりました。もうすぐ帰ります。』

 

 

 絵文字はない。

 そっけない会話だが、これが二人のやり取り。

 それだけで十分だ。

 最後にもう一度、陽乃はLINEを送る。

 

 

 陽乃

 『うん、待ってるね。』

 

 

 とーーー。

 

 

  ♯13 散髪

 

 

 2人で鍋を食べる。

 少し火照った体。

 食事の時も会話はほとんどない。

 でも、それでも良い。

 彼が美味しそうに食べてくれているから。

 それだけで、幸せだから。

 

 


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