月に至る2番目の歌   作:きりしら

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閲覧ありがとうございます。
拙く短い文章ではありますが何卒よろしくお願いします。


第1話 世界最後のステージ、革命への一歩

QUEENS of MUSIC会場

 

 

「うろたえるな!」

 

 

世界の歌姫と称されしマリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 

彼女が発した世界への宣戦布告は、会場だけでなく世界を混乱に陥れるには十分だった。

 

更に歌姫マリア本人による、オーディエンス達への退去命令が発せられたことに、行動の意図がまるで掴めない。

 

 

会場は、混乱を極めていた。

 

 

 

 

「人質とされた観客たちの退去は順調です」

 

 

『分かった、後は…』

 

 

「翼さんですね、それは僕の方で何とかします。」

 

 

特異災害対策機動部二課所属のエージェント緒川 慎次は、同じく特異災害対策機動部二課の司令官である風鳴 弦十郎との通話を終え廊下を駆ける。

 

 

避難が遅れているオーディエンスを発見、保護することは勿論の事

ステージで今なおマリアと対峙する歌姫、風鳴 翼の手助けを行うために。

 

 

会場は前世界同時配信のさなか。

 

世界中の視線という檻に囚われている翼を開放することが出来れば、状況は打開できる。

 

そう考える緒川の視線には、会場の階段を駆け上がる二人の少女の姿が見えた。

 

 

「あれは…」

 

 

逃げ遅れた観客の子供かもしれない。

 

そう考えると緒川は、二人を追うように階段を駆け上がった。

 

 

 

 

 

「(やっべー!あいつこっちに来るデスよ!)」

 

 

「(大丈夫だよ切ちゃん、いざとなったら…)」

 

 

「(おっはぁ!調ってば、穏やかに考えられないタイプデスかぁ!)」

 

 

そこにいるのは二人、否。

 

三人の少女の姿、立って話す金髪と黒髪の少女と、柱に寄りかかるようにして眠る赤毛の少女だ。

 

切ちゃんと呼ばれた金髪の少女は慌てて調を窘めた。

 

黒髪の少女 調はいたって穏やかであり、その目からは嘘か真か判断が付きにくく、

赤髪の少女は体育座りのまま寝息をたてており、その表情は読めない。

 

 

その三人のもとへ緒川が駆け寄った。

 

 

「怪我をされましたか?ここは危険です、早く非難を!」

 

 

自然と蹲っているように見える赤髪の少女に目が行き、呼びかける。

 

 

 

「じーっ」

 

 

調はそんな緒川を観察、あるいは隙を探るように見続けている。

 

 

「あ、あぁっ!

ええとデスね、この娘が急にトイレー!とかって言いだしちゃってデスね!

アハハ…参ったデスよぉ」

 

 

「じーっ」

 

 

たどたどしく不自然な言い訳ではあるが、背後にいて緒川を見つめる調と赤髪少女を隠すように頭をかく少女。

 

 

「そ、そうですか、じゃあ用事を済ませたら非常口までお連れしましょう」

 

 

「心配無用デスよ!

 ここいらでちゃちゃっと済ませちゃいますから大丈夫デスよ!」

 

 

金髪の少女は必死さ故か、連れ合いの廊下放尿宣言をする。

 

突然の狂言に唖然とする黒髪の少女は、口を開くも、責めるように隣の少女を見つめる。

 

 

「分かりました…。

 でも、気を付けてくださいね。」。

 

 

緒川は少女たちの気迫に疑問を覚えつつ、再び廊下を駆けて行った。

 

 

「ああ、はいデス~!

 えへへ…はぁーっ…なんとかやり過ごしたデスかね…。」

 

 

「じぃぃーっ」

 

 

言葉にするほど見つめ続ける。

今なら視線で穴を開けられそうだ。

 

 

「どうしたデスか、調?」

 

 

「私、こんな所で済ませたりしない」

 

 

「さいデスか…。

 まったく、調とアーニャを守るのは私の役目とはいえ、毎度こんなんじゃ身体が持たないデスよ?

 アーニャは寝てますし…いつから寝てるんデスかこの娘…」

 

金髪の少女、切歌はがっくりとうなだれ、調の言葉に反応する。

 

またすぐそばでうなされ始めた赤髪の少女を視界に入れてそっと呟いた。

 

 

「いつもありがと、切ちゃん」

 

 

「いいってことデスよ調。

 それじゃあ、アーニャを起こしてこっちも行くとしますデスかね!」

 

 

「うん」

 

 

どこかへにゃっとしたガッツポーズを決め、少女たちはうなされる眠り姫を揺らすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「アーニャ、起きるデスよ」

「起きてアーニャ、そろそろ作戦開始」

 

肩を揺さぶられて、目が覚めた。

 

目の前には調(お姉ちゃん)切歌(お姉ちゃん)の顔がある。

いつの間に寝てしまったのか思い出せない、今日は大事な日だというのに。

 

 

「んん…分かった、切歌」

 

 

少し寝てスッキリした身体を反らして大きく伸びをする。

小さく漏れた欠伸で少し、涙がこぼれた。

 

 

「はい、アーニャの分のリンカーデス。

 うなされてたみたいデスけど、大丈夫デスか?」

 

 

切歌が私を気遣いながら、リンカーの入った注射器を渡してくれた。

 

緑色の薬液が入ったそれを受け取ると、指を引っかけてくるくる回し弄ぶ。

 

あなたに優しいをテーマにしたこのリンカー、ウェルが言うには日本の装者の実験データを使用したから精度が向上、昔よりも当社比負担が軽くなっているらしい。

当社比って何だろう。

 

 

「んー、よく分かんない夢だった…と思う。多分大丈夫、ありがとう切歌。」

 

 

「無理はしないようにするデスよ?

 アーニャは病み上がりなんデスから」

 

 

「うん、切歌のためにも私頑張るよ」

 

 

「デデデ…伝わってないデス…」

「アーニャが空回りしないように見ておかないと…」

 

 

心配してくれた切歌に感謝の気持ちを込めてガッツポーズ。

 

二人とも何故そんなに微妙な表情をするのか。

 

そんな目で見られると恥ずかしくなってしまう。

 

 

「んん、それで調、私は何をすればいいんだっけ」

 

 

「私と切ちゃんが前に出てマリアの援護、アーニャはエスクラピウスで私たちの支援の手筈。

 歌は一番負担の大きいマリアに合わせて。

 それとこれはマムからの預かりもの、外しちゃだめだよ?」

 

 

ちょっと照れくさくなって向き直ると、調は少し考えてからそう言った。

そして調からブレスレットを受け取って腕に付ける。

 

どうやら私は切り札のようで、敵の眼前に出てはいけないらしい。

 

 

「うん、分かった。私頑張るね」

 

気合は大事、日本にはコトダマとかいうものがあるらしい。

言葉にすれば一層やる気が出るものですよと、ナスターシャが教えてくれた。

 

調と話が終わると、時間を確認していた切歌が急かす様に声を上げる。

 

 

「二人とも準備はいいデスか?

 それじゃあ…出撃デス!」

 

 

切歌の号令で、私たちは革命の一歩を踏みしめる。

 

マリアの言っていた最後のステージ、終わりの名(フィーネ)を背負った宣戦布告。

 

私はアン。アン・セルゲイヴナ・トルスタヤ。

 

たとえこの道が過ちだとしても、私の往く道に奇跡があると願って。

 

 

Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)

 

 

Various shul shagana tron(純真は突き立つ牙となり)

 

 

Lie feel asclepius zizzl(繰り返す痛みで空を掴む)

 

 

さぁ、世界最後のステージの幕を開けよう。




2017/10/25 1話及び2話を合併。
2018/01/29 100文字程度文章追加。

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