ネギまに美遊兄と美遊を放り込んでみるだけの話(仮)   作:かにかまちゃーはん

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『学園生徒のみなさん。こちらは生活指導委員会です。今週は遅刻者ゼロ週間。始業ベルまで10分を切りました。急ぎましょう。今週遅刻した人には当委員会よりイエローカードが進呈されます。くれぐれも余裕を持った登校を……』

 

 お兄ちゃんに見送られてから少しして、通学中。

 

「やばいやばいー!今日は早く行かなきゃいけなかったのに!」

 

 そんなことを横で喚く赤毛を見ながら、私は通学路を全力疾走していた。

 いつもならもう少し余裕を持った登校をしているはずなのだけど、今朝はこの二人が少し遅れてしまったのもあって急がなければいけなくなっている。……理由はそれだけではないけれど。

 まあ、遅れそうになっているという事実は置いておいて、とりあえず。

 

「口を閉じて足を動かして」

「ひーん、美遊が怖いー!」

「やー、今日も美遊はいつも通りやなぁ」

 

 私が言った言葉に対する反応がひどい。

 というか、これは私がいつも怖いということだろうか。ほわほわした喋り方で言われたその言葉にちょっと納得がいかない。

 そう思いあえてむっとした顔をしてそれを言った黒髪の少女--私の友達である近衛木乃香を睨むと、木乃香はほにゃっとした笑顔で「なにー?」なんて言っている。待ちなさい、可愛らしく首を傾げても私は騙されない。……騙されないけどやっぱり可愛い。

 そんな私たちのやり取りを知ってか知らずか、横でまだ赤毛の少女--もう一人の友達である神楽坂明日菜が「むきー!」と喚いている。

 

「そもそも!なんで学園長の孫ってだけで木乃香が新しい先生を迎えに行かなきゃいけないのよ!」

「やースマンスマン」

「木乃香が謝る事じゃないでしょ」

 

 さっき置いておいたもう一つの理由がこれ。

 普段ならこのくらいの時間でもまあ間に合わなくは無いのだけど、今日は新任の教師が来るから早く来て欲しい、と学園長に言われていたのだ。

 生徒にさせるかとも思うけど、まあ学園長の無茶振りはいつものことだ。お兄ちゃんもあの人には中々手を焼いているらしいとは聞いている。

 個人的には愉快な人だとは思うけど、たまにこうして変なお願い事をするのはちょっと面倒くさい。

 

「でも、この時期に新任の先生なんて珍しい。どんな人なんだろう」

 

 ふと思ったことをポツリと呟く。

 今は新年明けてすぐの冬だ。新任の教師が来るなら普通は進級の時期、つまり春だろう。それをわざわざこの時期に来るなんていうのはなかなか珍しいと思う。

 そんな私の呟きに、明日菜が疲れたようにため息をつく。

 

「学園長の友人ならどーせそいつもじじいに決まってるじゃん」

「まあそれは……そうかも」

 

 明日菜の言葉に頷く。

 確かに、知り合いと言うのなら年齢層の幅も広がるだろうが友人と言うということはそれなりに親しいだろうし、それなら年齢が近いというのはおかしくないだろう。

 しかし横で走る木乃香は「そうかなー?」と言って首を捻っている。

 

「木乃香、何か知ってるの?」

「いやまあ知らんけど」

「って知らんのかい!」

 

 あっけらかんと言った木乃香にずっこける明日菜。うん、今日も二人は中々にコメディチックだ。

 そんなずっこけた明日菜をスルーしつつ、木乃香は「えっとなー」なんて言いながらいつの間にやら鞄から取り出した雑誌をパラパラとめくりそれを私たちに差し出す。

 

「ほら、ここ。今日は運命の出会いありやって」

「マジで!?」

 

 そう言って木乃香の指差した先には確かに「運命の出会いあり」と書いてある。彼女が新任の教師が年寄りではないのではと思った理由はそれか。

 木乃香は占いが非常に好きで、占い研究会に属しているし自分でも色々な占いをすることもある。的中率は……まあ普通の占いくらいといったところだけど。

 ともかくその記事に食いついた明日菜に、木乃香はひょいと雑誌を戻しさらに続ける。

 

「しかもー……あ、あった。好きな人の名前を10回言って『ワン』と鳴くと効果ありやって」

「高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生、ワン!」

「……まさかノータイムで、しかも本当にやるとは思わんかったわ」

「明日菜は高畑先生の事となると割となんでもするから」

「せやなぁ」

「……ってちょっと、からかったの!?」

「ややわそんなまさか。あ、ところでもう一個、逆立ちして開脚の上全力疾走50mして『ニャー』と鳴くっていうのが……」

「やらないからね!?」

「……やらないの?」

「なんで美遊もそんな期待した目でこっちを見るの!?」

 

 そんな風に騒ぎながら走っていると、そのうちに校舎が見えて来る。新任の先生は--どうやらまだ来ていないようだ。

 よかった、間に合った--そう思った瞬間、横から明日菜とは別の赤毛の人物が走って来ており--

 

「あのー……あなた、失恋の相が出てますよ」

 

 --そんなことをのたまった。

 その言葉に、私と明日菜が固まる。

 失恋。

 失恋と言っただろうか。

 ちょっと私にはわからない言葉だ……と思ったけれど、よく見るとそれを言った対象は私ではないらしい。見ているのがこちらではない。

 それに気づいて安心したのか、私にも相手を観察する余裕が生まれる。よく見ると相手は赤毛の少年であり……年は、10歳になるかならないかくらいだろうか。日本人ではなく西欧系の……イギリスとか、あの辺りの人の顔立ちをしている。おそらくは小等部の生徒か、そうでなければ観光客か何かか……どちらにせよ、女子中等部の校舎には似つかわしくない子だ。

 だけどまあ、それはいい。とりあえずは置いておこう。今重要なのはそれじゃない。

 今重要なのは--

 

「いきなり失恋とかなんだとこのガキャー!」

 

 --こっちだ。

 いきなり失恋の相が出ているなんて言われて激昂している明日菜を宥めないといけない。放っておくと何をするかわからないし。

 というわけで早速明日菜を止めるべく彼女の肩に手を置く。当然文句があるであろう彼女は私の方を振り返り……

 

「ちょっと美遊、止めない--ぴえっ」

 

 ……なぜか私の顔を見た瞬間泣きそうな顔になった。

 なんでだろう、私はこの上なく穏やかな顔をしているはずだ。

 そう思い木乃香の方もチラッと見てみると、彼女も青ざめた顔をしている。その顔に浮かぶのは、恐怖。……どういうことだろう。

 しかし、あまりそのことばかりを気にしていても仕方ないだろう。それよりもこの少年にきちんと礼儀を教えてあげなければ。

 

「あの、少しいい?」

「ぴゃいっ!?」

 

 少年の肩に手を置く。

 こちらを見たその少年は何故かとても怯えた目をしているが、何か勘違いをしているのだろう。私はこんなにも穏やかに微笑んでいるのだ、さぞ優しそうに見えるに違いない。

 しかし、注意すべきことはきちんと注意してあげなければいけない。

 だから、私は。

 

「女の子に」

「ひゃ、ひゃい」

「失恋とかいったら--駄目」

 

 ニッコリと優しく笑い、そう言った。

 その言葉に、少年はガクガクガクと壊れた人形のように激しく首を縦に振る。どうやら言いたいことをわかってもらえたらしい。

 満足して手を離すと、止まっていた時間が動き出したかのように、少年とそれから後ろの二人がへなへなとへたり込む。はて、どうしてこの三人は突然腰を抜かしたのだろうか。

 首を捻って三人を眺める私と、腰を抜かしながらも怯えたように私を見る三人。

 そんな、傍目から見たらよく分からない光景の中。

 

「おーい、ネギ君!……ネギ君、それから木乃香君に明日菜君、大丈夫かーい……?」

 

 窓から身を乗り出して、どこか困惑したように声をかけてきた高畑先生が、なんだか印象的だった。

 

 

 

 

 

 

「えー、というわけで、この子が新しい先生のネギ・スプリングフィールド君じゃ」

「え、えっと、よろしくお願いします」

 

 所変わって学園長室。

 さきほどの少年--ネギ君と一緒にここに来てすぐ、そんな風に紹介された。

 さらに学園長は、明日菜が横で「えーっ!?」と驚いているのを無視して、

 

「ちなみに2-Aの担任になってもらうからそのつもりでの」

 

 と、そう続けた。

 その言葉に木乃香は「ほんまかー」なんてほわほわした感想を言ってて、明日菜の方は……

 

「はーーーーー!!?!!?!??!?」

 

 なんて叫んでいる。

 すぐ隣で叫ばれるとちょっと耳が痛い。が、まあ気持ちは分からなくはない。

 明日菜は現担任の高畑先生に恋しているのだから担任が変わるなんていう話は受け入れがたいだろう。……担任に恋とかちょっとマズイなーとは思うけれどそこはまあ、私もちょっと人のことは言いにくいので何も言わない。

 とりあえずそんな感じで「子供が先生なんておかしいじゃないですか!?」とか「なんでよりによってうちの担任なんですか!?」と言って喚いている明日菜をスルーしながら、学園長はネギ君……ネギ先生に教師になるにあたりの心構えや予定なんかの話をしている。それはまあ胆力がすごいなとは思いはするけど必要なことだし、いい。

 ……いいんだけれど、やっぱりこの歳の子供が先生なんていうのはどうなんだろう。修行がどうとか聞こえてきたからなにかの事情はあるんだろうけど……

 そう思いながら学園長を見ていると、おお、と手を叩き、そうじゃそうじゃなんて言いながら、

 

「このか、アスナちゃん、美遊ちゃん。しばらくネギ君をお前たちの部屋に泊めてもらえんかの」

 

 --学園町は、さらなる爆弾の投下を敢行した。

 木乃香は即答で「この子かわええし、ええよ」なんて言っているけど明日菜は案の定「ガキは嫌いなのよ!」なんて言いながら嫌そうな顔をしている。

 さらに、明日菜の文句はそこでは終わらず学園長に詰め寄った。

 

「そもそもなんで私たちがそんなことしなきゃいけないんですか!」

「いやー、ネギ君の住むところがまだ決まってなくてのー」

「だからって、なんで私たちの部屋に!」

「そこはほれ」

 

 詰め寄る明日菜と、それを受け流す学園長。その会話を見ていたら、突然学園長は私を指差した。何事かと見ると、したり顔で私を見ながら学園長はおもむろに口を開く。

 

「美遊ちゃんが部屋にほとんどおらんせいでお前たちの部屋は三人部屋なのにほぼ二人部屋みたいになっとるじゃろ。それならそこにネギ君を放り込んでも良いかなと思ったんじゃが」

 

 その言葉に。

 ギン!と言わんばかりに目を吊り上げた明日菜と、あらあらーと相変わらずほにゃっとした顔の木乃香が私の方を見る。

 ……うん、なにが言いたいかはわかったから。ごめん。

 そうして目を吊り上げた明日菜がこちらに迫ってくるのを見つつ。

 私は、思いっきり目を逸らした。


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