ネギまに美遊兄と美遊を放り込んでみるだけの話(仮)   作:かにかまちゃーはん

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プロローグ

「―――おや?」

 

 

 

 学園都市・麻帆良にある図書館島の最深部。

 

 そこで優雅に夜のティータイムと洒落込んでいた彼はふと、図書館島から少し離れた場所、学園都市の中央にある世界樹の脈動に気づき、端正な顔を僅かにしかめる。

 

 普段よりも遥かに大きい魔力が世界樹から離れたこの空間にまで満ちる。しかし、それは普通ならあり得ない。いや、無いことはないが時期が違う。

 

 これほどまでに世界樹の魔力が満ちるのは三年に一度、麻帆良祭の時のみ。これは彼のいるここ数年変わらぬ周期であり――また、以前見た記録にある限りその前からほぼ変わらぬ周期でもある。

 

 その周期によるならば世界樹の魔力が満ちるのは今年ではないし、そもそも今は麻帆良祭の時期ですらない。では、まさかこの周期に乱れでも起きたのかとそこまで考えていると、いつの間にか先ほどまで高まっていた魔力が霧散しいつもの世界樹に戻っていることに気づく。

 

 

 

「……ふむ?」

 

 

 

 世界樹の魔力が戻ってしまえばいつもと変わらない夜になる。

 

 先ほどの魔力の高まりは気のせいだったのだろうかと思う。が、何かしらの異常があったのかもしれないし、様子を見に行った方が良いのだろうか。

 そう思いながらも、まあいいかと一度置いたカップをまた手に取った瞬間、再度世界樹が脈動する。そうして高まった魔力もすぐに霧散するが、これはやはり気のせいではない。

 

 間を置かず二度、世界樹の魔力が満ちる。そんな異常が、確かに起きたのだ。

 

 

 

「さて、どうしましょうか」

 

 

 

 独りごち、あまり気の進まない様子で彼はカップを置く。

 

 正直面倒だと思わないでもない。が、おそらく異常があったであろう世界樹の中心に最も早く着く事ができるのは彼だろうし、そもそも世界樹に何かあれば困るのも確か。

であるならば、様子を見に行かないと言う選択肢は……いやまあ無くはない。どうせ放っておいてもこの学園都市の魔法先生の誰かが様子を見にいくだろうし。

 

 しかし、そういった理由とは別にこの季節外れの魔力の高まりに興味がない、とは言い切れない。むしろ興味が惹かれる部分も大いにある。

 

 であれば面倒くさいという否定が一に対し、何かあれば困る、興味が惹かれるという肯定が二。

 

 

 

「……仕方ないですねえ。行きますか」

 

 

 

 そう呟いて、彼――すなわち、大戦の英雄が1人であり紅き翼の一員たる男、アルビレオ=イマは立ち上がる。

 

 向かう先は、世界樹の中心。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――どこか遠くに、剣戟が聞こえる。

 

 ふわりとした意識の中、耳元でなく、頭に響くようなその音。

 

 

 

――我、聖杯に願う

 

 

 

 ああ、そう言ったのは誰だったか。

 

 曖昧な感覚の中に、彼の声だけが何度も繰り返される。

 

 

 

――美遊がもう苦しまなくていい世界になりますように

 

 

 

 あの優しい響きが木霊する。

 

 

 

――やさしい人たちに出会って……

 

 

 

 願うような。

 

 

 

――笑いあえる友達を作って……

 

 

 

 祈るような。

 

 

 

――あたたかで、ささやかな――――

 

 大切な誰かを想う、その。

 

 

 

――幸せをつかめますように

 

 

 

――――誰よりも大切な、兄の声。

 

 どこまでも甘やかで柔らかな、暖かい声でそう言った彼は、今なお私のために戦っている。

 

 その剣戟が、私の幸福を願う想いが、いつの日か無意識に兄と私の間に繋いだパス()を通じて伝わってくる。

 

 

 

――しかしいつしか、剣戟が遠くなる。

 

 

 パス()が薄くなる。兄が遠くなる。

 

 ああ、これはきっと、私がこの世界から居なくなろうとしているから。

 

 兄の願いが、私の幸福がこの世界では叶わないと判断した聖杯が、私をこの世界から逃がそうとしているから。

 

 兄を、置き去りにして。

 

 

 

――あたたかで、ささやかな幸せを――

 

 兄の祈り。

 

 私が幸せであって欲しいという願い。

 

 ……それは、

 

 

 

 それは、兄がいなくても叶うものだろうか。

 

 最愛の兄を置き去りにして、私は幸せを感じられるだろうか。

 

 それは――

 

 

 

「……そんなの、私は――!」

 

 

 

 認められない。

 

 認められるわけがない。

 

 私の幸せに、兄は必要不可欠なのだ。

 

 

 だから。

 

 

 

「――我、聖杯に願う」

 

 

 

 兄と同じ言葉から始まるその祈りを。

 

 

 

「私がどこかへ行くのなら――」

 

 

 

 兄と違い、絞り出すような悲痛なその叫びを。

 

 

 

「お兄ちゃんも、一緒に――――!」

 

 

 

 ただの、私の我儘を、叫ぶ。

 

 

 

 瞬間、剣戟が途絶える。

 

 いや、剣戟だけではなく、兄との繋がりも途絶え、元より曖昧だった私自身の意識もまた、闇に飲まれる。

 

 そうして、全てが暗転するその直前。

 

 次に眼が覚める時は、兄がその場に居ますようにと。

 

 そう、祈った。

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 

 世界樹の中心で、かの大戦の英雄が1人であるアルビレオ=イマは、不可思議な魔力を放つ少女と、その少女を守るように折り重なる傷だらけの少年と出会う。

 

 それは、運命の風の吹く少年が麻帆良に訪れる、四年前の話――


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