インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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少し時期を飛ばします


赤き瞳 Third Especial

「なぁ皆、文化祭の事なんだけど…」

 

教室の教壇に立つ一夏は、真剣な目でクラスの全員を見た。

 

事の始まりは、前日の昼に遡る。

 

 

…………………………

 

 

「なーんか、最近パッとしないわね」

 

いつもの屋上で昼食を取る一夏達。

 

だがそこに、ステラとラウラの姿だけがなかった。

 

その中で、唐突に鈴が気の抜けた声で言った。

 

「………ステラが、居ないからかもな」

 

今日、一夏達の間では会話の途中に妙な間が空くことが多かった。

いつもならば、その間はステラが答えたり、繋いだりしていたのだが、そのステラが今、この場に居なかった。

 

「ステラ今、何してるんだろうな」

 

誰もが気にしているが、口には出来ないその言葉を、弾が呆気なくこぼす。

それを聞いた一夏は、弁当と箸をそっと置いて、その場の全員を見た。

 

「なぁ、皆はステラの事、どう思う?」

 

その言葉に、全員が一夏を睨む。

 

特に、ステラと最も深い友情で結ばれた鈴は、詰め寄る勢いで一夏の胸ぐらを掴んだ。

 

「それどういう意味よ!まさかアンタ、ステラの事嫌いなわけ?!」

 

「んな訳ねぇだろ!俺はアイツの家族なんだぞ!」

 

誰もが、ステラの事を信じていたい。だが、それでもあの光景を、あの出来事を無かったことには出来ない。

 

故に、その疑心を刺激した一夏に対して、鈴は感情の限界を迎えていた。

 

「じゃあ何よ今の!家族とか言って、実はアンタが一番ステラの事を邪魔だって思ってんじゃないの?!

そういえばアンタ、初めての戦闘でステラを切ったんだってね。それも本当はわざとなんじゃないの?」

 

「はぁ?!ふざけんなよ!誰がそんな事!」

 

一夏はたまらずに鈴を突き飛ばす。そしてそのまま、シートの上に広げてあった弁当を散らしてしまった。

 

「…………本性が出たわね。所詮アンタは気に入らないものはそうやって傷付けて、消えて無くなればいいって思ってんじゃないの?!」

 

「違う、俺はそんな事!」

 

激昴する二人はいつしか、周りの誰もその目に映ってはいなかった。

 

「だいたいアンタはいつもいつも!」

 

「なんだよ!」

 

「いい加減にしろ!」

 

その時、二人の腕を何者かが捻りあげた。

 

「お前達は、そんな醜い姿をステラに見せるつもりなのか?なら、私はアイツの友として、お前達を全力で、殴ってでも止めるぞ」

 

二人の腕を掴むのは、箒の力強い腕だった。

そしてその表情は、一夏が小さな時に見ていたものとも、IS学園で再開してから見ていたものとも違う、酷く険しいものであった。

 

「……わりぃ」

 

「ごめん。私も、冷静じゃなかった…」

 

箒の言葉に、一夏と鈴は頭を冷ました。

それを確認すると、箒は手を離して座り込む。

 

「いや、いいさ。お前達が冷静さを欠くのも分かる。ステラは自身が言った通り、私達の一番星だったんだ。それが無くなれば不安になるのは当然だ」

 

「ステラは、どうしてこんなに辛い世界に生まれちゃったんだろう………」

 

何処か気の抜けた声で語る箒。

それに続く様に、簪が暗く言葉を零す。

 

そして、その言葉に数馬とシャルロットが僅かに反応を見せるが、その事に、誰もが気付かなかった。

 

「お前ら何うだうだ考えてんだ。答えはシンプルだろ」

 

唐突に弾が、そう言って自分の端末の画面を見せる。

 

「俺達が、この笑顔を取り戻すんだろ。

アイツが落ち込む暇もない程に、笑われてやるんだろ」

 

そこに写っていたのは、夏祭り前に一夏の家の前で撮った集合写真だ。

 

そしてそれを見た一夏達は、何処か決意の漲った様な瞳で立ち上がる。

 

「そうだ!俺達がステラの心を元に戻してやるんだよ!」

 

「だがどうするんだ。

今のステラの心は、そう簡単に癒せるものでは無いぞ」

 

ここで数馬が、冷静にそう問いかける。

しかし、これはステラが憎くて言っている訳では無い。

誰かが冷静にならなければ、いずれはまた先程の一夏と鈴の二の舞となる。それだけは、防がなければならなかった。

 

「………文化祭、なんてどう?」

 

控えめに言った簪に、一気に視線が集まった。

 

「そうよ!文化祭よ!」

 

「そうだ!それならステラだってきっと楽しめる!」

 

鈴が立ち上がり言うと同時に、一夏もそれに賛同する。

 

「そうなったら、今も部屋でずっとズル休みしてるラウラも出てきてくれるよね!」

 

そこにシャルロットが乗っかった事により、この会話は更に加速し、そして次々と案を出していった。

 

「しかし、本当に大丈夫なのか?」

 

唯一、不安そうに呟く箒を除いて。

 

 

…………………………

 

 

そして話は冒頭へと戻る。

 

「なぁ皆、文化祭の事なんだけど。

 

皆も知っての通り、今ステラはずっと学園に来ていない」

 

一夏の言葉に、クラス全体の雰囲気が暗くなる。

それは一夏も予想していた事だ。だから一夏はその空気を砕く様に叫んだ。

 

「いつまでもうだうだしてても仕方ないだろ!」

 

いつもと違う一夏の声に、クラスのほとんどが呆気にとられた。

 

「今ステラは心に傷を負ってる。それは簡単に治せるものじゃないけど、それでも俺が、俺達がステラの心の傷を少しでも軽くしてやれないのかって、ずっと考えてた。

 

けど、俺一人じゃ思い付く事には限界があるし、数馬や弾だけでもダメなんだ。

 

だから頼む。俺に、力を貸してくれないか?

 

いや、力を貸してくれ」

 

一夏は深く頭を下げる。そこに恥などありはしない。

 

「何言ってるの織斑君。そんなの当たり前じゃん!」

 

清香が机を叩きながら立ち上がる。

 

「私達だって、いつも織斑君やステラちゃんの後ろにいるだけじゃない!」

 

「そうだよ!今度は私達がステラちゃんの星になろうよ!」

 

「別におりむーが言わなくても、きっとこうなってたよぉ」

 

同調する声。

どんどんと増えていく声に、一夏はふと、目頭が熱くなるのを感じた。

 

「皆、ありがとう!」

 

そしてそれから、クラスのほぼ全員が進んで意見を出し、次々と候補が上がって行くが、逆に多すぎて決めあぐねていた。

 

「教室をゲーセン化、カフェ、レストラン、お化け屋敷……数も種類も多すぎて、こりゃちょっと迷うな…」

 

一夏は困った様に呟く。

尚、背後ではそれぞれの意見のいい所を出し合ってそれぞれの客観視し評価するという工程を行っているのだが、それでもまだ決まらない。

 

「ったくよ。お前らまどろっこしいんだよ」

 

ふと、弾がそう言って頭をかいた。

 

「お前ら馬鹿か?

 

アイツを笑顔にしてぇんなら、まず俺達が笑っているべきだろ。

 

少なくともそんな思い詰めた表情じゃアイツが笑える訳ねぇだろ」

 

そう言われて、クラス中がそれぞれ顔を見合わせた。

 

「アイツは、誰かが笑ってると、別に自分は楽しくもねぇのに笑ってやがるんだ。

誰かが笑っていられるなら、それで自分は満足だってな」

 

呆れた様な声で、弾はそう言った。

 

「アイツはそんだけアホなんだよ。だから俺達が笑っていられりゃ、必然的にアイツも笑顔になんだろ」

 

その言葉に、クラスの生徒全員が少し笑った。

 

「確かに、ステラちゃんなら有り得るね」

 

「そうだよ。いつも誰かの為に頑張って、自分の事は後回し…。

だから、ステラちゃんの事は私達がやってあげなきゃね」

 

「全く、世話が焼けますわね」

 

苦笑混じりのその声に釣られて、一夏も自然と笑みが零れた。

 

「だよな。確かにそうだ。

 

まず俺達が楽しまないと始まらないよな!」

 

そこからは話は順調に、という程は進まなかったが、それでも先の様な何処か影を孕んだものでは無くなっていた。

 

「それじゃあ、俺達の企画はメイド執事喫茶で決まりだな」

 

「「「「「異議なし!」」」」」

 

クラスほぼ全員より放たれたその言葉に、一夏は満足そうに提出用のプリントに書き込んでいく。

 

だがそこで一人、手を挙げる者がいた。

 

「ちょっといいかな?」

 

シャルロットだ。

そして、それを見た数馬が目を見開く。

 

「シャルロット、まさか」

 

「安心して。その事じゃないよ」

 

少なくともこの教室内では、二人しか知りえぬ事。

その会話に、微かに聞こえた数人が反応するが、シャルロットは聞く暇を与えぬ様に語り出す。

 

「確かにそれだけでもステラは楽しめると思う。

けど僕はそれだけじゃなくて、ステラを元気づける為になにかしたいんだ」

 

シャルロットの声が、誰もの心に響く。

 

「その為に、僕、やってみたい事があるんだ」

 

シャルロットがある映像をタブレットに映し出す。

 

「こんなの、どうかな?」

 

それはある学校の文化祭の映像だ。

 

そこには、演劇やバンド演奏を行う生徒達が映されていた。

 

「こんな風に、ステージで何かできないかな?

これならきっと、ステラももっと楽しめると思うんだけど…」

 

後半になるにつれて声が小さくなるシャルロット。

僅かな緊張と共に、その頭の中の言葉を整理する。

 

「皆も、ステラが別の星から来たって事は知ってるよね」

 

全員が首を縦に振るのを確認して、シャルロットは言葉を続ける。

 

「ステラが今までやって来た事や、言ってきた言葉を、歌にしてみるのはどうかな?

それと、前にギンギラから聞いたステラのお父さんの話も織り交ぜて。それなら僕達も楽しめるし、きっとステラも楽しめると思うんだ」

 

必死に訴えかけるシャルロット。

それを聞いて一番に反応したのはセシリアだ。

 

「素晴らしい提案ですわ!それなら、ステラさんもきっと笑顔になってくれますわ!」

 

その声に釣られて、次々と賛同する声が上がる。

 

「うん!それがいいと思う!」

 

「メイド執事喫茶に歌。忙しくなりそうだな」

 

「しゃーねーな。これが一番面白そうだ。乗っかるぜ」

 

「お前がやるなら、俺が支えるのが道理だ。無論協力するぞ」

 

「数馬、それに皆、ありがとう!」

 

シャルロットが笑い、誰もがやる気に満ち溢れていた。

 

もしかしたら起こるかもしれない悲劇を見ない様に。


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