インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~ 作:鉄血のブリュンヒルデ
「これは、ISの宇宙空間稼働シュミレーション?
これをそーくん……いや、デストロはなんで私に?」
ディスプレイを睨む束の目の下には、濃い隈が刻まれていた。
これだけで、束がここ数日まともに睡眠をとっていない事を悟るには十分すぎる程だ。
「ふーっ。少し休憩しよっと………。
クーちゃん、ちょっとコーヒーを…………」
束の呼び掛けは、虚しく虚空に溶けていく。
「そっか。クーちゃんはいないんだ……」
そう。束は今、このラボにただ一人で住んでいた。
もっと外の世界を見て欲しくてステラを千冬に預けた。だが、それは結果としてステラを深く傷付け、その心の闇を暴走という形で表してしまった。
そして、クロエのステラへの愛を歪ませてしまった。
「私のせいだ………私が、スーちゃんとクーちゃんを苦しめたんだ……」
普段ならここで、ステラやクロエの慰めで心を保つ事が出来た束は、その二人の声が無いだけで、ただの少女の様に泣く事しか出来なかった。
止むことのない涙と嗚咽。
壊れてしまった束の心の壁は、そこから溢れる感情を抑える事が出来なかった。
〈束、そこにいる?〉
そこに響いたのは、束にとって、久しく聞いていなかった親友の声だった。
「……え?恵美ちゃん?」
〈そうよ。久しぶり〉
まるで昨日話したばかりの様に答える声。
「今までどこにいたの?!心配してたんだよ?!」
束に恵美と呼ばれたその声の持ち主は、その大声を無視して続けた。
〈そんな事より、荘吉からデータは受け取った?〉
「……知ってるの?」
恵美の言葉に違和感を感じた束は、なるべく冷静に問う。
〈そりゃ知ってるわよ。だって私も作るの協力したもん〉
束が最も恐れていた言葉が、あっけらかんと放たれる。
あまりに温度差がありすぎる会話。
例えばこれが中学の頃ならこの後は笑顔で終わっていただろう。だが、今は暫定的とは言え敵対状態にある2人には、笑顔を向ける程今は余裕が無い。主に束には。
「どうして?!デストロは、そーくんとじゅんくんを殺したんだよ?!」
〈いいじゃない。今は生きてるし〉
「あのねぇ?!私はそういう事を言ってるんじゃ!…………今は?」
恵美の言葉に、束はまたも違和感を感じた。
それも先程よりも圧倒的な程に。
〈あら、口が滑った〉
「ねえ、今のどういう意味?!答えて恵美ちゃん!」
ようやく答えにたどり着く足がかりを見つけた。
その事実に、束は自然の声が大きくなる。
〈私が言えるのはただ一つ。切り札はもう既にあなた達が持っているわ〉
「切り札?今そんな話はしてない!ちゃんと答えてよ!」
ブツッ
束の声は誰に届くことも無く、ただ部屋にひびくのみだった。
「………どうすればいいの?」
そしてその悲しみも、誰かに届く事は無かった。
さて、皆さん覚えていらっしゃるでしょうか。
多分名前出したのは、本編前の三社参りの時と、千冬の過去編の二回だけですが笑