インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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終わりの始まり
赤き瞳 First Episode


「さて。皆おはよう。夏休みは楽しめたか?」

 

千冬は、いつも通りの声でそう問うが、クラスからは返事はなく、暗く淀んだ空気が空間を支配していた。

 

「……恐らくこの場の全員が知っているだろうが、私も教師として説明する義務があるのでな。

 

数日前、市街地でIS同士での戦闘が行われた事は、皆知っているな?」

 

千冬はそれから、戦闘について大まかに語った。

無論、学園の生徒や自分自身が関わったとは一言も口にはせずに。

 

「織斑、先生………」

 

誰もが黙り込んでいる中、相川 清香が遠慮気味に手を挙げた。

 

「どうした相川」

 

それに対し千冬は、またもいつもと変わらぬ様子で返す。

清香は僅かに怯んだが、それでも聞くと言わんばかりに震えながらもその声を振り絞った。

 

「……全て、話してくれませんか?」

 

突然の言葉に、千冬は少し驚くが、清香はなおも続ける。

 

「ネットでは、織斑君達が戦っている動画が出回っています。調べてみたけどフェイク動画でも無かったですし………。

それに、ステラさんが急に休学なんて、おかしいじゃないですか!」

 

前のめりになりつつ、清香はそう叫んだ。

そして千冬は教室を見渡す。クラスのほとんどが、同じ顔をしていた。

 

「はぁ………私から言えるのは一つだけだ」

 

「なんでもいいんです!聞かせて下さい!」

 

必死な顔に千冬は折れたのか、ため息を零しながら言った。

 

「私は、何も言えない」

 

「…………え?」

 

想定していたどの言葉よりも、重く鋭く、教室にいる全ての人間を等しく射抜く様な声色に、清香は押し黙った。

 

そしてその言葉通り、誰もが理解した。

 

「聡明な諸君ならば分かるはずだ。

私は"何も言えない"んだ」

 

 

千冬の口から、そして当事者達から、答えを得る事は出来ないのだと。

 

「…分かり、ました」

 

清香は静かに席につき、千冬はそれを見届けて手を叩いた。

 

「さて、朝礼は終わりだ。各々一時間目の準備を忘れぬ様に」

 

千冬の言葉を聞きつつも、誰もその場を動こうとは、しないのであった。

 

 

…………………………

 

 

「……はぁ」

 

閑散とした砂浜に、銀髪の少女は寝そべっていた。

 

その名はステラ。ここ地球においては異星人であり、今世界で起こっている混乱の中心で心の闇と直面し、目の前の海に溶けて消えてしまいたいと願うほどに、彼女は憔悴しきっていた。

 

「私は、一体誰なんだろう」

 

普通の人間であれば、まず口にしない言葉。己が存在を疑い、自分が自分であるという確証を、見失ってしまっていた。

 

「今の私と、赤目の私…」

 

認めたくなかった。認めるのが怖かった。自分の中の闇を、いつまでも気付かないままでいたかった。

 

そんな少女の願いは、つい先日、ある男によって砕かれた。

 

名はデストロ・デマイド。ISの開発に携わった一人であり、束をも上回る頭脳と身体能力を持つ、正しく天才だ。

しかし、その頭脳は束の夢を汚し、多くの命を奪った。

 

白と黒、光と闇。正しく対極に立つ二人だ。

 

いや、もしかしたら自分もあちら側では無いのか、等と考えていたその時、ふとステラの顔に影が差し込んだ。

 

「どうしたんだいお嬢さん。そんな所に居たら、少し強い波が来たら攫われてしまうよ」

 

「え?」

 

影の正体は、帽子を被った男だった。

 

「まるで、今の君の心の様だな」

 

「っ?!」

 

突如放たれた言葉に、ステラは飛び起き身構えた。

 

自分を知っている人間はそう居ない。それなのにこの男はまるで今現在の自分の状況を知っているかのような口ぶりだ。

 

「俺の名前は御手洗 荘吉。会議で名前くらいは聞いた事があるだろう」

 

「数馬の、お父さん。亡くなってたはずなのに、突然数馬の前に現れて襲撃した、デストロの仲間」

 

ステラは知りうる情報を並べ、整理する。

荘吉はその様を眺めながら少し笑った。

 

「奴の仲間、か」

 

その言葉に、ステラは顔を顰めた。この人は何を言っているのか、と。

 

「まぁ、そう思われても仕方ないな。

俺は奴と共に行動し、君達を攻撃したのだからな」

 

自嘲する様に語る荘吉は、ステラの隣に腰を下ろした。

 

「………何故、あなたは彼と共に?」

 

怒りを曝け出したい。感情のままに動きたい。

だが今のステラには、少し前まで出来ていたそれが、また暴走に繋がるのではないかと、怖くて仕方がなかった。

 

「俺達の目的を語る事は出来ない。

したとしても千冬が信じないだろうしな」

 

「……それでも知りたいです。あんな事をしてまで、あの人は何をしようとしているんですか?」

 

なおも食い下がるステラに、荘吉は帽子を抑えながら苦笑した。

 

「知らなくてもいい事も、世の中にはあるんだよ」

 

優しく諭す様に、肩に手を当ててそう言った荘吉に、ステラは激昴した。

 

「誤魔化さないで!教えて下さいよ!」

 

そして手を振り払い、立ち上がった。

目が少し、赤く染る。

 

「ギンギラ!」

 

そして自らの相棒の名を叫ぶ。

だが、応える声は無い。

 

「整備中、だろ?

君の無茶な戦い方に巻き込んだんだ。そうなっても仕方がない」

 

ステラの首元に、ゴーグルは無い。

先日の戦闘でその体を酷使した事が原因で、ギンギラの体は様々な部分で不具合が出ていたのだ。

 

その事実が、ステラの心を再び砕き、その心は再び冷えきってしまった。

 

「では君の無茶に免じて、一つヒントをあげよう」

 

そう言って荘吉はISのコアの様な物を一つ投げた。

 

「その中のデータを束に見せろ。そうすれば戦いは加速するだろうな」

 

「っ?!どうして……どうして戦う必要があるの?!私達が戦う事に、一体何の意味があるの?!」

 

ステラの叫びを背に受けながら、荘吉は立ち去る。

しかしふと立ち止まると、振り返り呟いた。

 

「全てはベリアルをこの星に呼び寄せる為だ」

 

そして今度こそ立ち止まらずに、その姿を消すのであった。


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