インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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後悔の中で

「……………………ステラ」

 

銀色の髪が、風に揺られる。

ベッドで未だ眠り続けている最愛の人の頬に、白い掌がそっと、まるで陶器を扱うかの如く優しく触れる。

 

篠ノ之神社で起こった事件。市街地でのIS同士の戦闘。

当然その情報はネットを通じて世界中に広まった。

またその戦闘の当事者の殆どがIS学園の生徒である事も、世間を賑わせた。

いくら情報規制をしても、一度出てしまった情報は消えないのだ。

 

しかし、その中で唯一隠されたのは、デストロ・デマイドの存在と、ステラの暴走の事だった。

この事がもし一般人に広まれば、ステラは必ず非難の的になるだろう。いや、なっても仕方ない様な事をしたのだから当然だ。

だが、何も知らない者達の心無い言葉で、この無垢な少女の心を、砕いてしまっていいのか。

いい訳が無いと、ラウラは唇を噛み締めた。

 

「ラウラ、そろそろ帰らないと……」

 

考え込むラウラに、シャルロットが語りかけた。

 

「……私はどうすれば良かったのだろうな。あの時、容赦せずにクロエと名乗った彼女を殺せばよかったのだろうか……

いや、きっとそれではステラの心を壊してしまうか。

 

では、デストロという男を殺せばよかったのだろうか?

……無理だな。私と奴では力の差があり過ぎる」

 

ラウラは自問自答を繰り返す。

ここ数日、シャルロットが何度も見た光景だ。

 

「私は結局、誰も守る事は、出来ないのか……」

 

「ラウラ………」

 

諦めた様に俯くラウラに、シャルロットはかける言葉が見つからなかった。

 

「ただステラを傷付くのを、黙って見ていた。

教官が打ちのめされるのを、黙って見ていた。

一般人ですら立ち向かい戦っていたのに、私はただ見ているだけだった」

 

ラウラの声が、虚しく病室に染み渡る。

シャルロットはそっと肩に手を置くが、そこで初めて、ラウラの体が小さく震えている事に気が付いた。

 

「何故なんだ。

何故ステラばかり辛い目に遭うんだ?こいつばかり不公平では無いか…」

 

未だ瞳を閉じたままのステラの頬を、ラウラは再び優しく撫でる。

 

「弱さは悪、か………」

 

「ラウラ?」

 

自虐する様に笑うラウラ。

シャルロットは、その鋭く冷たい視線に、体が凍りついたと錯覚する程に、動けなかった。

 

「デストロという男、何処かで見た事が思っていたのだ。だが、今はっきりと思い出したよ」

 

まるで、学園に来た頃のラウラの様だと、シャルロットは感じていた。

男子であると偽り、悟られる事が無いようにと周りを観察していた時にいつも感じていた、あの感覚だと。

 

「奴は私のヴォーダン・オージェの手術をした男だ。

きっと、VTシステムも奴が仕込んだのだろう」

 

淡々と語るラウラに、シャルロットの心は追いついてはいなかった。

 

「奴は何をしようとしている……。

今までの状況を見るに、恐らく教官や篠ノ之 束と浅からぬ因縁がある筈だ。それが一体何なのか………」

 

ラウラは瞬きを忘れた様に、ただ黒く染った空を睨んでいた。

 

「……IS学園の無人機襲撃。篠ノ之 束がそれを行う理由が思い当たらない。ステラを大事に思っている以上、そのステラが危険に見舞われる様な真似はしないはず……。

しかし、デストロ・デマイドが行っているとすれば、全てが繋がる。

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の一件も奴が関わっているとすれば合点がいくが、何故態々そんな面倒な手段をとる必要があるんだ?」

 

思考の渦に囚われるラウラを、シャルロットはただ不安気に見守ることしか出来なかった。

 

そこにふと、ガラガラと扉の開く音が聞こえた。

その音にシャルロットは振り返り、ラウラは意識を現実に戻した。

 

「なんだ。まだいたのか」

 

そこに立っていたのは、腕に包帯を巻いた数馬だった。

 

「数馬、怪我は大丈夫なの?」

 

「大丈夫も何も俺はただ腕に切り傷があるだけだ。

逆に入院させられている事に驚いているくらいだ」

 

シャルロットの問いかけに、数馬は苦笑しながら応えた。

 

「数馬、お前は今回の件をどう思う?

いや、今回だけでなく今まで奴が……デストロ・デマイドが関与していると思われる事件全てに対してだ」

 

「」

 

ラウラの問いかけに、数馬は聞かれると分かっていたかの様に、ノートパソコンを取り出し、病室の脇にある机で画面を開く。

 

「これは俺の親父のものだ。家にあったのを祭りの前に回収した」

 

「そう言えば確かに、そんな事を言ってたね。けど、それがどうしたの?」

 

シャルロットは開かれたディスプレイを覗き込むが、そこに書かれていた文章に、目を見開いた。

 

「こ、これって、どういうこと?!」

 

「っ!見せろ!」

 

ラウラはそれに飛びつき、ディスプレイを見た。

 

「…………なん、だと?」

 

そして膝から崩れ落ち、愕然としていた。

 

「恐らく、奴もステラと同じ星から来たのだろうな。奴のISがギンギラに似ていたのもそのせいか」

 

「そ、そんなことより!これが本当なら、ステラは………」

 

数馬はパソコンを閉じ、拡張領域にしまいながら頭を抱えた。

 

「あぁ、そうだ」

 

そして、未だ起きぬ友を眺め、言葉を漏らした。

 

「アイツは、作られた人間って、事になる………」

 

深い闇夜とラウラの心に、数馬の言葉が闇を落とした。


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