インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~ 作:鉄血のブリュンヒルデ
ガコンッ!ガンッ!
「さて、これで最後かな」
アリーナに立つ黄金のIS。乗り込んでいるのは、一年一組の副担任、津上翔一。
「ステラちゃんや一夏達が戦っている時、俺は何も出来なかった。でも、次は」
ステラ達が命懸けで戦った臨海学校の二日目。彼は学園長からの依頼で、倉持技研へと赴いていた。
依頼の内容は、篠ノ之 束の機体のデータが取りたい、という物だった。そこの所長が、束の旧友だったこともあり、その依頼は承諾されたのだが、その間に、あの事件は起こってしまった。その事を聞き、データの解析を途中で中止して駆けつけた翔一だったが、着いた頃には、戦いは既に終わっていた。
「まぁ、次が無いのが一番だけどね」
翔一はそう言って、訓練を再開した。
「津上、先生…」
それを、ピットから眺める千冬。彼女は彼の名を呟きながら、拳を握った。
「何も出来なかったのは、私も同じ………いや、近くにいた分、私の方が愚かだ。津上先生は、偶々間に合わなかったんだ。それだけ、なんだ…」
千冬は、その場に座り込み、涙を流した。
「何が、ブリュンヒルデだ……何が世界最強だ………私なんて、ただ、友に恵まれていただけなのに……」
誰にも、その声は届かない。訓練を続ける翔一にも、千冬の言った、友人にも。
「……ちーちゃん」
ただ一人、偶然IS学園にステラの様子を見に訪れていた束を覗いて。
…………………………
「トリガー、オン」
そして、IS学園から遠く離れた、紛争地域。そこにもまた、同じ痛みを分かつ物が、戦っていた。
「スコーピオン!」
蓮はエネルギーの刃を形成し、黒いISを切り裂く。
「ここまでの数の無人機。アイツは何の為にこんな事を?」
蓮は呟きながら、背後から迫る無人機にスコーピオンを突き刺す。
「よぉ、久しぶりだな。蓮」
その時、頭上から声が聞こえた。
「っ?!」
蓮にとってそれは、久しく聞いていなかった声。もう一度聞きたいと願っていた声。
そして、もう二度と、聞く事が無かったはずの声。
その声に釣られ上を向くと、そこには一機のISが赤い粒子を放出しながら浮遊していた。
「その、声、どうして?」
「なんだよ。俺が生きてんのがそんなに不満か?」
そのISは、ゆっくりと蓮の前に降り立った。
「お前の旦那が、生きてんだぜ?」
目の前に降り立ったのは、弾や蘭、そして蓮と同じ赤髪の男。メガネをかけ、髪を後ろで纏めたその姿は、蓮が見知った”五反田 純”そのものだった。
「どうして………どうして純が生きているの?!デストロに、殺されたんじゃ?!」
「さて、なんでだろう、な!」
そう言って純は、大剣とも呼べる程大きなブレードを振り下ろした。
「ッ?!」ダッ!
蓮は瞬時にそれを躱し、戦闘態勢に入る。
「ひっでぇなー。お前、自分の旦那に武器向けるなよ」
「先に仕掛けたのはあなたでしょ?!」
蓮は叫びながらも、冷静に考えていた。
(もしあれが、本物の純だったとして、私と戦う理由は何?洗脳されている?でも、あの純が、大人しく洗脳なんて受ける?)
蓮の疑問は尽きない。だが、蓮の思考を他所に、純は面白そうに蓮を見る。
「相変わらずだな、蓮」
「どういう意味?」
純の言葉の意味が分からずに、蓮は困惑する。
「昔からお前は表情を作るのが上手かったよな。それを見抜けるのは、あの時物理研究部にいたメンバーくらいか」
純は懐かしそうに言った。
「…………貴方を相手に、偽るのも無駄ね」
そう言って蓮は、その顔を一気に冷徹なものへと変えた。
「あなたは、本物の純?それとも、あの子達の様な作られた人間?答えなさい」
蓮が掌を純に向けると、そこに黄緑色のキューブが現れ、それは四つに分かれ、更に小さく分かれて宙に浮く。
「オイオイ。旦那に対して脅しとは……相変わらずやる事一つ一つが鬼畜だな」
純は尚も余裕を崩さず、蓮に対してライフルを向ける。
「お前が動けなくなる方法は知ってんだよ」
純はそう言って、蓮に向けていたライフルを自らのこめかみに押し当てた。
「っ?!」
蓮はその行動に動揺し、戦闘から意識が逸れた。
その瞬間を、純は見逃さなかった。
「悪ぃな、蓮」
純はその言葉を呟くと、ライフルを蓮に向け、エネルギー弾を放った。
ドカァァァァンッ!
「キャアァァァッ?!」
爆炎が上がり、当たりが煙に包まれる。
「…さてと、帰るか」
純はそう言って、雨雲がかかり始めた空へと消える。
「………純っ!」
そこから10メートル程離れた場所に、蓮は横たわっていた。
純の放ったエネルギー弾は、蓮に直撃した訳では無い。
蓮は先程掌に出現させていたエネルギーを全てぶつけ、目の前で威力を相殺したのだった。
だが、結果的にそれは二つのエネルギーの衝突という結果に変わっただけであり、蓮は相応のダメージを負っていた。
「……私は………私はァッ!」
蓮の叫びは、誰の元へも届くことは無かった。