インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

65 / 75
大人の覚悟

ガコンッ!ガンッ!

 

「さて、これで最後かな」

 

アリーナに立つ黄金のIS。乗り込んでいるのは、一年一組の副担任、津上翔一。

 

「ステラちゃんや一夏達が戦っている時、俺は何も出来なかった。でも、次は」

 

ステラ達が命懸けで戦った臨海学校の二日目。彼は学園長からの依頼で、倉持技研へと赴いていた。

依頼の内容は、篠ノ之 束の機体のデータが取りたい、という物だった。そこの所長が、束の旧友だったこともあり、その依頼は承諾されたのだが、その間に、あの事件は起こってしまった。その事を聞き、データの解析を途中で中止して駆けつけた翔一だったが、着いた頃には、戦いは既に終わっていた。

 

「まぁ、次が無いのが一番だけどね」

 

翔一はそう言って、訓練を再開した。

 

「津上、先生…」

 

それを、ピットから眺める千冬。彼女は彼の名を呟きながら、拳を握った。

 

「何も出来なかったのは、私も同じ………いや、近くにいた分、私の方が愚かだ。津上先生は、偶々間に合わなかったんだ。それだけ、なんだ…」

 

千冬は、その場に座り込み、涙を流した。

 

「何が、ブリュンヒルデだ……何が世界最強だ………私なんて、ただ、友に恵まれていただけなのに……」

 

誰にも、その声は届かない。訓練を続ける翔一にも、千冬の言った、友人にも。

 

 

「……ちーちゃん」

 

ただ一人、偶然IS学園にステラの様子を見に訪れていた束を覗いて。

 

 

…………………………

 

 

「トリガー、オン」

 

そして、IS学園から遠く離れた、紛争地域。そこにもまた、同じ痛みを分かつ物が、戦っていた。

 

「スコーピオン!」

 

蓮はエネルギーの刃を形成し、黒いISを切り裂く。

 

「ここまでの数の無人機。アイツは何の為にこんな事を?」

 

蓮は呟きながら、背後から迫る無人機にスコーピオンを突き刺す。

 

「よぉ、久しぶりだな。蓮」

 

その時、頭上から声が聞こえた。

 

「っ?!」

 

蓮にとってそれは、久しく聞いていなかった声。もう一度聞きたいと願っていた声。

そして、もう二度と、聞く事が無かったはずの声。

その声に釣られ上を向くと、そこには一機のISが赤い粒子を放出しながら浮遊していた。

 

「その、声、どうして?」

 

「なんだよ。俺が生きてんのがそんなに不満か?」

 

そのISは、ゆっくりと蓮の前に降り立った。

 

「お前の旦那が、生きてんだぜ?」

 

目の前に降り立ったのは、弾や蘭、そして蓮と同じ赤髪の男。メガネをかけ、髪を後ろで纏めたその姿は、蓮が見知った”五反田 純”そのものだった。

 

「どうして………どうして純が生きているの?!デストロに、殺されたんじゃ?!」

 

「さて、なんでだろう、な!」

 

そう言って純は、大剣とも呼べる程大きなブレードを振り下ろした。

 

「ッ?!」ダッ!

 

蓮は瞬時にそれを躱し、戦闘態勢に入る。

 

「ひっでぇなー。お前、自分の旦那に武器向けるなよ」

 

「先に仕掛けたのはあなたでしょ?!」

 

蓮は叫びながらも、冷静に考えていた。

 

(もしあれが、本物の純だったとして、私と戦う理由は何?洗脳されている?でも、あの純が、大人しく洗脳なんて受ける?)

 

蓮の疑問は尽きない。だが、蓮の思考を他所に、純は面白そうに蓮を見る。

 

「相変わらずだな、蓮」

 

「どういう意味?」

 

純の言葉の意味が分からずに、蓮は困惑する。

 

「昔からお前は表情を作るのが上手かったよな。それを見抜けるのは、あの時物理研究部にいたメンバーくらいか」

 

純は懐かしそうに言った。

 

「…………貴方を相手に、偽るのも無駄ね」

 

そう言って蓮は、その顔を一気に冷徹なものへと変えた。

 

「あなたは、本物の純?それとも、あの子達の様な作られた人間?答えなさい」

 

蓮が掌を純に向けると、そこに黄緑色のキューブが現れ、それは四つに分かれ、更に小さく分かれて宙に浮く。

 

「オイオイ。旦那に対して脅しとは……相変わらずやる事一つ一つが鬼畜だな」

 

純は尚も余裕を崩さず、蓮に対してライフルを向ける。

 

「お前が動けなくなる方法は知ってんだよ」

 

純はそう言って、蓮に向けていたライフルを自らのこめかみに押し当てた。

 

「っ?!」

 

蓮はその行動に動揺し、戦闘から意識が逸れた。

その瞬間を、純は見逃さなかった。

 

「悪ぃな、蓮」

 

純はその言葉を呟くと、ライフルを蓮に向け、エネルギー弾を放った。

 

ドカァァァァンッ!

 

「キャアァァァッ?!」

 

爆炎が上がり、当たりが煙に包まれる。

 

「…さてと、帰るか」

 

純はそう言って、雨雲がかかり始めた空へと消える。

 

「………純っ!」

 

そこから10メートル程離れた場所に、蓮は横たわっていた。

純の放ったエネルギー弾は、蓮に直撃した訳では無い。

蓮は先程掌に出現させていたエネルギーを全てぶつけ、目の前で威力を相殺したのだった。

だが、結果的にそれは二つのエネルギーの衝突という結果に変わっただけであり、蓮は相応のダメージを負っていた。

 

「……私は………私はァッ!」

 

蓮の叫びは、誰の元へも届くことは無かった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。