インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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真夏の特訓 -越えようとする者-

「お前ら。用とはなんだ?」

 

第二アリーナの中心で、千冬が一夏と弾、そして数馬に問う。その左右に、束と蓮を連れて。

 

「もっと、強くなりたい。手に入れた力を、もっと上手く扱えるように。だから、俺達三人に訓練を付けて欲しいんだ!」

 

その言葉に、千冬は分かっていた様に順番に三人の目を見た。

 

「……私達の予測では、夏休み明け頃にデストロは大規模な攻撃を行う筈だ。それまでに、お前達が強くなれる保障は無い。だからお前達を鍛えるより、代表候補生を鍛えた方が遥かに効率的。これは私達で出した結論だ」

 

「けど!」

 

千冬の言葉に弾は、感情を露にした。しかしそれを蓮が制止した。

 

「私達は、デストロを倒す為に尽くせる手は全て尽くす。今、その手の中にあなた達三人は含まれて居ないわ。だから私達に、切り札となりえると判断しうる力を示せたら、その時は検討してあげる」

 

「ごめんね皆。でも私達はこれ以上、何一つだって失うわけにはいかないんだ」

 

千冬達の言葉を聞き、一夏達は冷静さを取り戻した。

 

(((そうだ。戦うのは、俺だけじゃないんだ…………)))

 

一夏達の思考が交差し、その感情を一番に示したのは、一夏だった。

 

「分かってるつもりだった。けど、今やっと分かったよ。それでも俺は、やっぱり強くなりたい。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の時みたいに、なりたくないんだ」

 

その言葉に、千冬は頷いた。

 

「ならテストだ。今からお前達にはある一人と戦って貰う。そいつに勝てない様ならお前に戦力価値は無い」

 

千冬はそう言いながらインカムで誰かに連絡をとった。

 

「分かりました。けど、俺達は三人だ。それに対して一人では不公平ではないんですか?」

 

数馬は少し不満げにそう言った。その言葉に反応したのは、千冬達ではなかった。

 

「何言ってんの?私が三人に負ける訳無いじゃん」

 

その言葉とともに、アリーナに青い閃光が舞い降りた。

 

「………ステラか」

 

数馬は納得した様にその名を呼んだ。

 

光が弾けると、そこには白銀の鎧を纏ったステラが浮遊していた。

 

「そう。千冬さんに頼まれてね。今日はラウラとデートだから、さっさと終わらせちゃうけど、いいよね?答えは聞いてないよ」

 

『マスター。集合に間に合う為には、一時間が限度です』

 

「分かってるって」

 

その言葉に、弾が怒りを露にした。

 

「へぇ。俺達はデート以下ってか」

 

しかし、その表情は笑っていた。怒りを闘志に変換し、心を燃やす燃料にしたのだ。

 

「それでは、制限時間は三十分だ。その間にステラを倒せたなら、お前達を認めてやる」

 

「分かってる……白式!」

 

「フィリップ!」

 

「エクシア!」

 

いつの間にかアナウンス室に移動していた千冬の言葉に、三人はそれぞれのISを展開した。そして武器を展開して構えると、にやりと笑うステラを見た。

 

「来なよ。負けてあげる気はないけどね!」

 

その声とともに、三人が同時にステラに攻撃を仕掛けた。

 

「ハアァァ!」

 

「動きが直線的だよ!それじゃあ私すら倒せないよ!」

 

一夏の攻撃を避けながら、ステラはそう言った。そしておまけと言わんばかりに、鳩尾を殴って一夏を壁まで吹き飛ばした。

 

「オラァァ!」

 

「弾も変わらない!少しは考えて動いて!」

 

ひたすら斬りかかる弾にイラつき、蹴り飛ばそうとするステラ。その時、視界の端から黄色の光弾が迫るのを確認して急速でその場を離脱した。

 

「へぇ、やるじゃん。最初の一夏の動きから釣りだったとはね」

 

「俺達だって、いつまでもお前に頼ってる訳にはいかないんだよ」

 

数馬がそういうのと同時に、数馬の背後から黄色の光弾がさらに放たれた。

 

「っ?!」

 

ステラはそれに気が付き、避けながらもそれらを撃ち落していった。

 

(一度放って、それをコントロールして放つタイミングを遅らせた?フィリップの演算能力、凄い)

 

「まぁ、その攻撃ならもう見切ったんだけど、ね!」

 

ディスティニーソードを展開し、腰を捻って全ての光弾を打ち消す。その過程の中で、ステラは次の動きを考えていた。

 

(この間に動かない二人が不気味だ。あからさまに次の攻撃への備え……いや、これも釣りだ。読みが正しければ次は)

 

「シャラァァァ!」

 

ステラが思考を巡らせている刹那、赤い閃光が視界に入り込み、それと同時に覇気を孕んだ咆哮が響いた。

 

「っ!」

 

ステラはそれを紙一重で避けながらも、更に思考を巡らせた。

 

(やっぱり。てことは次は当然)

 

「ウオォォォォォ!」

 

ステラの想像通りに、一夏が零落白夜を発動させて斬りかかる。

 

「二人とも、単純!」

 

ステラはそれすらもかわし、手元に小さなエネルギー弾を作り出して、一夏の背中に撃ち込んだ。

 

「グアァ!くっそ!」

 

一夏は感情を露にし、零落白夜の能力を完全開放する。しかし、それを見たステラは、表情を曇らせた。

 

「私、一夏には期待してた」

 

ステラはふと、そんな言葉を漏らした。

 

「は?何の事だよ!」

 

だが当然、一夏にはその言葉の意味が理解できなかった。

 

「もう忘れたの?クラス代表決定戦で、私を斬ったこと」

 

「っ?!」

 

言葉の意味に気が付き、一夏の脳裏に記憶がフラッシュバックする。

 

「私は覚えてるよ。凄く痛かった」

 

ステラは一夏を睨みながらそう言った。

 

「そんなの、今関係ないだろ!」

 

「あるよ。この先もし、デストロ以外と戦う事になって、それがもし有人機の場合、一夏は斬れるの?生きてるんだよ?」

 

「っ?!」

 

ステラから放たれた冷たい一言に、一夏は動きを止めた。

 

「隙だらけ!」

 

その一瞬を突いて、ステラは一気に間合いを詰めた。そして、ディスティニーソードの切っ先を一夏に目の前に突き立てた。

 

「お前、卑怯だぞ!」

 

そう言いながら、一夏は雪片弐型を振り抜く。だがステラは、その攻撃をいとも簡単に避けた。そしてそのまま、話を続けた。

 

「卑怯?戦場では真面目に戦う人間から死んでいくんだよ。実際に、私は見た。昨日馬鹿話で盛り上がった友達が、ミサイルの爆発に巻き込まれて、全身が丸焦げになって、苦しい苦しいって呻きながらもがき苦しむ様を!一夏に、そんなものを見る覚悟があるの?!」

 

涙を流すステラの言葉が、一夏の心に突き刺さる。

 

「一夏!集中しろ!」

 

その時、緑色の風の様な粒子を纏ったエネルギーの弾丸が、ステラと一夏との間を割った。

 

「邪魔しないでよ、数馬」

 

ステラは、低い声で唸るように言った。

 

「弁舌戦とは、お前らしくないな」

 

数馬はそんなステラに、いつもの様に語りかける。

 

「そうだね。でも、デストロはこうする。あなた達が、それに引っかかる様なら、対デストロ戦には連れて行けない」

 

その言葉に、全員が苦虫を噛んだ様な表情になる。

 

「私は、あの人に勝たなきゃいけない。絶対に。そこに足手纏いになるような人がいるのは、正直言って邪魔なの。この意味、分かるよね?」

 

「分かってる。だからこそ俺達は、強くなりてぇんだろうが!」

 

弾が、トランザムを発動して斬りかかる。

 

「っ?!」

 

(動きが変わった!)

 

今までの直線的な刺突や斬撃ではなく、ステラの周りを高速で回るだけの動き。

 

「っ!そうか!」

 

数馬は弾の行動の意味に気が付いたのか、風の力を乗せた弾丸をステラの周りの地面に撃ち込んだ。そして弾はその銃撃で発生した瓦礫を蹴って、更に早く、そして不規則に飛ぶ。瓦礫が崩れては数馬がそれを補充する。その繰り返しの中で、ステラは苛立ち、構えた。

 

(ピンボールアタック………こんなの意味は!)

 

「いい加減にしなよ!」

 

そして、地面と平行に衝撃波を放つ。それは瓦礫を吹き飛ばし、足場を失った弾は勢い余って地面を転がる。

 

「そんな事に何の意味が!『マスター!上です!』っ?!」

 

その時、ギンギラの声が響く。それと同時に響く警告音。その正体は

 

「ウオラァァァァァ!」

 

零落白夜を発動させて斬りかかる、一夏だった。

 

「シールド!」

 

ステラはシールドにシフトし、機体性能を防御に全て振り、エネルギーシールドを展開した。しかし、それは数馬と弾の立てた計画の内だった。

 

「ファング!」

 

数馬の声と同時に、ギンギラの装甲を、何かが切り裂いた。

 

「これ、数馬の「こっちもいるんだよ!」えっ?!」

 

そこには、エクシアに積まれていない筈の荷電粒子砲を構える弾の姿があった。

 

「消し飛べ有象無象!ギャラクシー!キャノン!」

 

弾の言葉に、ステラは驚き半分呆れ半分で叫んだ。

 

「それは別のシリーズでしょうが!」

 

しかしステラは、一夏の零落白夜を防ぐのに殆どのエネルギーを使っている。つまり、この攻撃を防げない。それが、弾と数馬の作戦だった。狙い通り、ステラはシールドを使えない。ギンギラの補助でも、この出力は防ぎきれない。

 

そのはずだった。

 

バァァァァァァァァァァァンッ!

 

「「「っ?!」」」

 

ギンギラから、膨大な量の光が発せられる。その光はやがて小さくなり、ステラの背後にあるウイングユニットの元で形が整い、翼となった。

 

「福音戦で得た、新たな力か」

 

「そう。この翼は、触れたエネルギーを自分の物にする力がある。弾のエネルギー、貰ったよ」

 

ステラはイタズラが成功した子供の様に笑う。しかし、三人の心中は穏やかではなかった。

 

「今の、防ぐかよ…」

 

「まずいぞ。俺達は殆どの攻撃にエネルギーを必要とする武器を使用している。明らかに不利だ」

 

その会話を聞きながら、アナウンス室にいる千冬は呟いた。

 

「さぁ、どうする?ガキ共」

 

一夏は、ステラの光の翼を睨む。

 

(エネルギーを吸収するなら、俺の零落白夜のエネルギーも吸収されちまうって事か?でも、零落白夜はエネルギーを斬れる……でも、ギンギラにはサーマルエナジーを乗せた零落白夜じゃないと通じない……あぁもう!)

 

「考えるのはやめだ!今はとりあえず、やってみるっきゃねぇ!」

 

「っ?!待て一夏!」

 

一夏はスラスターを全開にし、ステラに突っ込む。

 

(自爆覚悟の特攻?いや!違う!)

 

「行くぜステラ!お前に貰った力で、お前に勝つ!」

 

そう言って一夏は、精神を研ぎ澄ませ、体の底に眠る力を、呼び覚ます。

 

「金色白夜!」

 

雪片弐型から、黄金の光が放たれる。その光はシールドエネルギーではなく、サーマルエナジーによるものだった。

 

「っ!完全に、使いこなしてる?!」

 

『マスター!あの刃に触れれば、光の翼も崩壊します!』

 

ギンギラの言葉を聞きながら、ステラは考えた。

 

(この土壇場でモノにした………これなら、もしかしたら……)

 

「でも!結局エネルギーの消費が激しいのは変わらない!このまま逃げ切れば、私の!「「俺達も、いるんだよぉぉぉぉ!」」うぇ?!」

 

その時既に、ステラに逃げ道は無かった。

 

(こりゃ、一本とられたよ…)

 

決着は、ステラの思考と同時だった。

 

 

…………………………

 

 

「本当にごめん!」

 

「「「え?」」」

 

ピットに戻ると、ステラは先程の態度から一変させて、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「千冬さんに、三人に実力の差を見せ付け、尚且つ心を揺さぶりながら戦えって言われて、あんな事を…」

 

「そっか、全部本心じゃなかったのか……」

 

一夏は安心した様にそう言った。

 

「あ、痛かったっていうのは本当だから!反省してよね!」

 

「うっ…」

 

そんな会話をしていると、千冬がピットへと入ってきた。そして入るなり、ステラに声をかけた。

 

「ほう。ではデートの約束は嘘だったのか?」

 

「え?……あぁぁぁ!やばい!あと三十分!どうしよ!今から部屋に戻ってシャワー浴びて着替えてメイクして…あぁぁ!時間足りない!急がなきゃ!それじゃあまた後でぇぇぇぇ!」

 

ステラは、あたふたとしながらピットを飛び出して行った。取り残された一夏達は、ただ唖然としていた。

 

「さて、お前達」

 

その時、千冬が真面目な声で、三人に声をかけた。

 

「試験は合格だ。明日から我々が鍛えてやろう」

 

「本当か?!千冬姉!」

 

一夏が千冬に詰め寄る。

 

「織斑せんせ…いや、夏休みだからいいか……あぁ、本当だ」

 

その言葉に、弾はガッツポーズをとり、数馬は帽子を傾けて、息をついた。

 

「それでは、今日の所は解散だ。明日のために休んでおけ!」

 

「「「はい!」」」

 

三人は、揃って部屋へと戻っていった。明日から始まる訓練に、それぞれの思いを馳せながら。


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