インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~ 作:鉄血のブリュンヒルデ
私は、恋をしてしまった。
「よっ、虚」
あの軽薄な態度。本来私が一番苦手とする人の筈。けど、私は彼に惹かれていた。
「おはよう、弾君」
私はなるべく彼にそれを気取られないように気をつけながら答える。一応暗部の一家に仕える者として、その位のポーカーフェイスは身につけている。
「一緒に朝飯食わね?一夏も数馬も誰かと食うみたいでさ」
これは、思ってもみなかった好機。彼を食事に誘う度胸の無かった私としては、彼のこの気楽さが時に羨ましく感じる。
「ええ。私も相手が居なかったので、いいですよ」
「おい、また敬語出てんぞ?」
「何度も言いますけど、これは癖なんです。どうしようもありません」
私は微笑みながらそう言う。
「あっそ。まぁいいや。飯だ飯」
こういう性格だから、肉をよく食べそうだけど、意外にも彼の好物は野菜炒めだったりする。なんでも実家が食堂で、そこの一番の料理が野菜炒めだそう。一度行ってみたいとは言ったものの、彼は帰るのが面倒だと言って連れて行ってはくれない。でも好物の由来が実家の一番人気料理と言うのが、彼が家族を大切に思っているのだな、と感じられる。
「さーてと、今日は何にするかねぇ」
「そういえば、昨日から新メニューで玉子とじ肉うどんと言うのが入ったらしいですよ」
「そうなのか?あ、この鯖味噌ってのも美味そうだな迷うな」
「そうですね。私も迷ってます」
最近この学園では物騒な事が続いている。この前の臨海学校ではアメリカとイスラエルの共同制作の軍事用ISが暴走し、それを止めに入ったのが一年の専用機持ちらしい。ステラちゃんに至っては死に掛けたらしい。
この事で轡木学園長がそれぞれの軍に対して抗議を申し立てたが、責任はどちらの国にも問われないと、IS委員会から判断されたらしい。お嬢様から聞いた所、多額の金銭のやり取りがあったらしい。正直に言うと、私はそんな人達を殴り倒してしまいたいとその日から思っている。
「おい、虚?おーい」
そして、その戦闘の際に、彼を含む男子生徒のISと、ステラちゃんのギンギラさんが
「すみません。少し考え事をしていました」
「なんだ?まだ決まらないのか?」
本当に、彼は鈍感すぎる。少しは気付いてくれてもいいのに。ステラちゃんとラウラちゃんも臨海学校の最終日から付き合ってるらしいし。そういえば、同級生や先輩方にはその光景を複雑な顔で見ている人が多々いた。恐らく彼女達もステラちゃんの事を可愛がっていたから、離れていく様で悲しくなったのかもしれない。
「そうですね。どっちにしましょうか」
でも、決めていないのは事実だから、彼の言葉もある意味間違いではない。
「じゃあ、俺が鯖味噌食うから虚はうどん頼めよ」
「え?」
「そうすりゃ、互いに分ければ両方食えるじゃん」
彼は本当に鈍感だ。そういうのを異性とする場合は好きな相手以外には普通申し出ない。しかし彼にそんな素振りはないし、恐らく彼にとってはこういう事は友達と良くしているから、そのテンションで言っているのだろう。
「分かりました。そうしましょう」
ここで変に断っても、彼に不信がられるだけだ。それに、こういう事を彼としたかったという思いも、無かった訳では無いし………。
「お、あそこ空いてるじゃん」
彼が指差すのは、食堂でも一番見晴らしのいい席だった。普段はあそこは三年生の先輩方が陣取っているのだけれど今日はいない。
「しかし、あそこには予約の札が」
「あ?うお、マジじゃん」
予約してあるなら仕方が無い。そう思い、私が辺りを見回そうとした時、弾君に誰かが話しかけた。
「ちょっとアンタ、そこ私達の席なんだけど?」
「いや、だから座ってねぇじゃん」
何故彼は喧嘩腰で返すのだろう。いや、そういう性格である事は重々理解しているけど。
「男のアンタが何近づいてんのって言ってんの」
なるほど。彼は彼女達がそういう人間だと判断したから喧嘩腰だったんだ。
「貴方、そう言い方は無いんじゃないんですか?」
いくら先輩と言えど、私にも限界の許容量と言うものがある。
「なによ二年の癖に生徒会だからって偉そうに!」
その時、彼女らの内の一番前にいた先輩が私に平手を放ってきた。私は咄嗟に従者として鍛えてきた防衛術を使おうとした。だが、それよりも先に私の幾ら鍛えても細いままの腕よりも二倍はある様な腕がそれを阻んだ。
「俺の大事な奴に手ぇ出そうとしてんじゃねぇよ、クソ尼が」
私は、本気で怒っている彼を初めて見た。今まで怒っているとしても、冗談半分だったりした。けど、今の彼は本気だ。
「な、何よ!アンタ、女の私に手を出して、ただで済むと思ってるの?」
「確かに現代じゃ、女が声を上げて名を示せばそいつはその瞬間から犯罪者扱いになる。女の味方をしとかないと後々面倒になるからと、警察もまともに調べねぇ事もある。けどなぁ、ここはIS学園なんだ。俺もお前も一生徒でしかない。学園長に言えばあそこにある監視カメラの映像で確認も取れるだろうさ」
彼は、こういう時に非常に頭が冴える。いや、普段も真面目じゃないだけで、頭はいいんだ。けど彼はそれを何故か抑えている。しかしこういう時には無意識にそれが無くなるのだろう。彼に口で敵うのはこの学園でも会長や数馬君だけだ。
「くっ、分かったわよ!この席使えばいいじゃない!」
「は?使わねぇよ。ここアンタらの席だろ」
「え?」
「俺は単にここが空席だと思って近付いただけだ。予約してあったんなら、そこに座っていいのは予約したアンタらだけだろ?」
こういう所だ。私が彼に惹かれた理由は。
「けど、ならなんでさっき私達に」
「そりゃアンタらが間違ってると思ったからだ。俺は自分にとって間違ってる事を認めない。それを認めちまえば、俺は俺じゃねぇからな」
「自分が、自分じゃない?」
「そそ。俺にとって間違ってる事は自分にも他人にもやらせねぇ。けど、それが正しいと思えたらそれ以降はどうでもいいんだよ。それが
彼の一番の魅力は、あの身勝手さだ。あの身勝手が周りを巻き込んで、皆を繋いでいく。そしてこれがまた、無自覚なのがタチが悪い。
「………そう。ならこの席は貴方達に譲るわ」
「は?お前俺の話聞いて「聞いてたわよ。その上でよ」どういうことだよ」
「私もその、
彼女はそう言ってテーブルに置いてあった札を取って一緒に居た女子生徒たちを連れて何処かへ行ってしまった。
「………感染しちゃいましたね、
「させる気無かったんだけどな…」
やっぱり、私はこの人が好きだ。無自覚に、人の生き方を変えてくれる。まるで、アニメの主人公の様な彼が。
「ま、いっか。食おうぜ虚」
この人の隣に居られるなら、たとえそこが戦場でも、私は平気だ。だって、私はこの人の事が。
「大好きですから」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ、なんでもありません」
まぁ、気付いて貰えるのはもっと先になりそうですがね。