インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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海上の激戦 Fourteenth Episode

「スーーーーーちゃーーーん!」

 

「ん?ごはっ?!」

 

福音(ゴスペル)との戦闘を終えた一行は砂浜に降り立った。そしてギンギラを待機状態に戻したステラに、束がいつかの様に抱き着いた。

 

「良かった!本当に良かった!スーちゃんが死んでなくて!すっごく心配たんだから!」

 

「束さん、知らないんですか?私はそう簡単に死にませんよ」

 

「何度も死にかけてるでしょ?!」

 

「うっ!それを言われると……」

 

ステラと束がそんなコントを繰り広げていると、千冬が歩き寄り、尻もちをついたままのステラの頭を撫でた。

 

「よく頑張ったな、ステラ」

 

「……はい!」

 

ステラが満面の笑みで答えると、その場の雰囲気が一気に解れた。

 

ザッ

 

その時、抱えられていたラウラが砂浜に足をつけた。

 

「ステラ、その、ありがとう」

 

ラウラは少し照れくさそうに、頬を掻きながら言った。

 

「ううん。元々は私が落ちたんだし、お相子だよ」

 

「それと、だな。出来れば、あの日の答えを聞かせてくれ……あ、出来ればでいいんだぞ?!」

 

あの日とは、ラウラがステラにキスをした日だ。それ以来、ステラはその答えをずっとはぐらかしていた。その答えを、ラウラは求めていた。

 

「私はね。ラウラの事、likeの方で好きだったんだ。でも、いつの間にかそれが変わっちゃってさ」

 

ステラは頬を赤らめながら言う。

 

「私ね、ラウラの事、好きだよ」

 

ステラの言葉に、ラウラ以外の全員が微笑む。

 

「あ、あぁ……」

 

ラウラは膝から崩れ落ちて、そのままステラに抱き着いた。

 

「やっと、やっと通じた!もう無理だと、諦めなくてよかった!」

 

「ごめんね、ラウラ。そして、ありがとう。私を好きになってくれて」

 

二人を、全員が優しく見守る。そしてそれを見守る様に、空に一番星が煌いていた。

 

 

…………………………

 

 

「「「「「「「「「「おかえりなさい!」」」」」」」」」」

 

戦闘を終え、旅館の広間に戻ったステラ達を待っていたのは、臨海学校に参加していた生徒全員からの歓迎だった。

 

「ただいま!」

 

それに対して、ステラが満面の笑みで応えた。すると、生徒達は一斉に雪崩の様にステラに駆け寄った。

 

「ステラさんが危ないって聞いた時はビックリしたけど、無事でよかった!」

 

「え?なんでその事知ってるの?作戦の内容は皆には秘密だったんじゃ」

 

ステラは疑問を抱き、それを問う。

 

「あ、実はね。あの後皆でここに集まってたの。そしたら急に頭に声が響いて。自分だけじゃなくて皆だったから驚いたよ!」

 

「しかもその声が『ステラが死にそうなんだ!誰か、誰でもいい!アイツの為に力をくれ!』って。ビックリしたけど、なんか妙に信じたくなって。だって、『ステラが一番星になる為なんだ!』なんて言うんだもん」

 

ステラの瞳孔が大きく開いた。その目は驚愕に染まり、何かを悟った様だった。

 

「そんな事言うの、ステラちゃんの知り合い以外にあんまりいないでしょ?」

 

皆がクスクスと笑い出した。それを見て、一夏達も笑い始めた。

 

「確かに、絶対ステラの身内だろうな」

 

「あぁ、だろうな」

 

広間を笑い声が包む。それに釣られて、ステラも笑い出した。その後、翔一と旅館の従業員渾身の料理を食べた後、少しの間旅館内で休憩時間となった。

 

「なぁ、ステラ見てないか?」

 

「いや、見てないが。嫁がどうかしたのか?」

 

旅館の廊下で、一夏が通りかかったラウラに声をかけた。

 

「いや、どこを探しても居ないんだよ。今回の詳しい話を聞きたいって千冬姉が言ってたから探そうと思ってたんだけど」

 

「っ!まさか、外に出て警備でもしているのか?」

 

「それなら連れ戻さないと!」

 

一夏とラウラは急いで千冬に事情を話し、共に旅館を飛び出した。

 

「くっそ!どこだよ!」

 

「ステラ!何処だ!」

 

一夏とラウラが大声を上げる中、千冬は静かに一点を見つめていた。

 

「歌声が聞こえる」

 

「歌声?」

 

「ギンーギンーギラーギラー……闘ー志がー燃ゆるー。俺ーらのー誓ーいは、血の契り」

 

不思議な歌だ。一夏達のイメージは総じてそうであった。

 

「ステ……」

 

一夏は声をかけようとした。だが、それは叶わなかった。突然現れた銀髪の男によって。

 

「よっ、ステラ」

 

「あ、お父さん。本体も来れたの?」

 

「なんか来れたわ」

 

一夏達は困惑した。その男が何も無かった所から現れた事や、ステラがそれに驚いていなかった事もだが、最も一夏達の耳に残った言葉は、ステラの「お父さん」という言葉だった。

 

「そっちでの戦いって、どうなの?」

 

「今は、あの謎のISとエイクリッドとの戦いの傷跡の深さを見て停戦状態だ。奪い合うにしても、その星が壊れちまったら元も子もないだろ?」

 

「それは確かにそうだね。お母さんは?」

 

ステラが尋ねると、男は苦笑しながら頭をかく。

 

「向こうで待ってる。だから早く帰らねぇと拗ねちまうかもな」

 

「そっか。わかった」

 

ステラは笑いながらそう答えた。

 

「そろそろ時間っぽいわ。じゃあまた今度な」

 

男はそう言いながら、体に光を宿す。

 

「うん。私が帰るか、お父さんが来るか。まぁ、どっち道また会えるよ」

 

「おう!そうだな!まぁ、なんだ。元気でな」

 

「うん!」

 

ステラの答えを聞き、男は満足そうに光の粒となって夜空に消えていった。

 

「フーッ。まさかEDN-3rdに帰らずにお父さんに会えるとはね。まぁ、意識の中だけならお母さんにも会ったけど」

 

ステラの呟きは、暗闇に溶けていく。だが、一夏達の耳には鮮明に焼き付いていた。

 

「…………ステラ」

 

その時、静寂を切り裂いて千冬が声をかけた。

 

「ん?あ、千冬さん!あ、そのえっと、これはなんて言うか、別に千冬さんの言う事を聞いてなかったとかそういうのじゃ無くて「お前は、本当の家族の元に帰りたいか?」え?」

 

ステラは怒られると思ったのか、必死に言い訳をしようとしていた。だが、千冬はそれを気にせずにステラに問いかけた。

 

「お前は、本当の家族の元に帰りたいか?もしそうなら、束に言えばそれなりの物を作ってくれる筈だ。それにギンギラの性能も加われば、お前の星にも帰れる筈だ。そうだろ?」

 

千冬の言葉に、ステラや一夏達は目を見開いた。ステラは想像もしなかった言葉に、一夏達は触れる事を避けていた言葉に。

 

「どうなんだステラ」

 

千冬の目に迷いや偽りが無いと感じ、ステラはニコリと笑いながら千冬の顔を見た。

 

「帰りませんよ。私、まだこの星でやる事も、やりたい事も、一緒に居たい人も、会いたい人も居る。私は帰らない。いつか帰るとしても、私はまだ帰らない」

 

ステラの目にも、迷いは無かった。

 

「いいのか?父親や母親に、会いたくないのか?!」

 

親と居れない寂しさを知っているから、千冬はそう言わずには居られない。誰にも見せなかった弱い部分。それを千冬はステラに見せていた。

 

「…………お母さんが言ってました。そばにいない時は、もっとそばにいてくれるって。私の心に二人は居ます。会えなくても、心は繋がってます。だから、帰らなくたっていいんです」

 

「でも!「うっさい!」っ!」ガツンッ!

 

千冬が尚も反論しようとしたその時、ステラは頭突きでそれを止めた。

 

「いったぁ………千冬さんは、鈍感なんですか?少しは察して下さい」

 

「どういう、事だ?」

 

ステラはため息をつきながら、千冬を抱き締めた。

 

「私は、この星で千冬さん達と一緒に居たいんです。いつか帰るとしても、私の中に千冬さん達との思い出を刻みたいんです。寂しくないように」

 

ステラの言葉に、千冬の瞳から涙が零れる。

 

「私には足りない物が多過ぎるから、誰かにそれを貰いながら生きていく。この星に来て、私はいっぱい貰った。だから誰かに何かを返したりあげたり出来るまで、私はこの星で生きていくよ。確かに辛い事も多いし、正直逃げ出したくもなるよ。でもさ、逃げたら格好悪いじゃん?」

 

ステラはニコリと笑った。

 

「私が目指すのは、誰の目にも輝いて見える一番星。何よりも早く輝いて、皆が見つけられる一番星。誰よりも輝かなくても、皆が知ってる一番星なんです。だから、逃げたくない。逃げたら、一生後悔しそうだから」

 

ステラは、目に少し涙を浮かべた。過去の逃げた記憶が、ステラの心を蝕む。

 

「でも私弱いから、今まで沢山逃げて来た。一番星になんか、なれっこないよ…」

 

ステラの涙は頬をつたい、地面に落ちていく。その涙を、ラウラが受け止めた。

 

「逃げてもいいんだ」

 

「らう、ら?」

 

ラウラの言葉に、ステラは間の抜けた声を出した。

 

「逃げる事を、誰も否定はしない。お前はそれだけ頑張ったんだ。それを誇れ」

 

「でも!頑張っても届かないんだ!一番星になる為には、まだ全然足らないんだ!」

 

「でも、お前束さんに言ったんだろ?」

 

その時、木に寄りかかって聞いていた一夏が問いかけた。

 

「『例え離れる事になっても、一番星みたいに強く輝いてれば、その回りには沢山の人が集まる。そうやって光を繋いで大きく輝け』って親父さんが言ってたって。なら、一人で頑張らなくてもいいんじゃないか?一人じゃ光は繋げられないだろ?俺の憧れの人が言ってたんだ。『光は絆。誰かに受け継がれまた光り輝く』って。これってさ、お前の親父さんの言葉と似てないか?」

 

「どういう、事?」

 

一夏の言葉の意味が分からずに、ステラは問い返す。

 

「結局さ、誰も一人じゃ輝けないって事だろ?お前がいて、俺や皆がいて、そのそれぞれにも繋がりがあって、それって多分、いつか自分に帰ってくると思う。そうやって皆が繋がって、星って光ってんじゃねぇかな。なんか、自分でも何言ってるか分かんねぇけどさ。なんていか、あれだ」

 

一夏はしゃがみ込み、ステラの頭を撫でた。

 

「結局は皆、一人じゃねぇって事だろ?」

 

その言葉と共に、ステラの感情の壁は決壊した。

 

「一人じゃない……。私、一人じゃ、無いの?」

 

「あぁ、一人じゃねぇよ。友達の俺達がいる。大人の千冬姉達がいる。そして、お前の好きな人がいるだろ?」

 

そう言って一夏は、ラウラの背中を押した。

 

「うわっ?!」

 

「うぇ?!ふぎゃっ!」

 

ラウラは変な声を出しながら転んだ。千冬は反射的にそれを躱したが、ステラはそうは行かずに、ラウラと一緒に倒れ込んだ。

 

「ほら、一人じゃ無いだろ?」

 

一夏は、イタズラを仕掛けた子供の様に笑い、二人を見た。千冬は立ち上がりながらそれに続く様に言った。

 

「ステラの保護者として、お前はまだ足りないが、ステラが好きなら否定は出来んさ」

 

「っ!ステラ!教官の許しが出たぞ!これで心置き無く嫁と呼べるぞ!」

 

「だから、まだ嫁じゃない!」

 

ステラはラウラを突き飛ばさない程度に勢い良く起き上がった。

 

「なら、私の事が好きじゃないのか?」

 

ラウラがニヤニヤと笑いながらそう問う。

 

「う、うぅ………好きだよォ!もう訳わかんないくらいにラウラの事が好きなんだよ!///」

 

「っ!///」

 

顔を赤く染めながらそう言うステラに、ラウラも顔を赤く染めて言葉を詰まらせた。

 

「こ、これは想像以上に、照れるな………///」

 

「なら、言わないでよ///」

 

((和むなぁ))

 

そんな二人を、一夏と千冬は暖かく見守る。その夜、旅館に戻ったステラは、心配していたセシリア達にこっぴどく説教されるのであった。

 

 

…………………………

 

 

「さてと、全員忘れ物は無いか?今の内に確認しておけ。最後の最後で旅館の従業員の皆さんに迷惑をかけるなよ」

 

バスに乗り込み、先に乗り込んでいた生徒に確認をとる。そうしていると、一人の女性が乗り込んで来た。

 

「ちょっと良いかしら?あ、いたいた」

 

その女性はステラを見つけると、そのままステラに近付き

 

チュッ

 

その頬にキスをした。

 

「ありがとう。白い流星さん」

 

「ふぇ?ふぇえぇぇぇぇぇ?!」

 

ステラは混乱し変な声で絶叫する。一瞬困惑していた一同だが、ステラの悲鳴の様な声で正気に戻った。

 

「き、貴様!私の嫁に何をする!」

 

「そうですわ!私の可愛いステラさんになんて事を!」

 

「今のは私でも許容出来ない!」

 

「ナターシャ、貴様私の妹分に手を出すとはいい度胸だな。表にでろ。久し振りにいたぶってやろう」

 

ラウラとセシリアと簪は感情を昂らせ、千冬は落ち着きながらも額に青い筋を浮かべる。

 

「あらあら。貴方随分と可愛がられているのね。それじゃあ皆さんご機嫌よう♪」

 

ナターシャはそれをものともせずに、バスから降りる。そのタイミングを見計らった様にバスの扉が閉まり、四人の怒りは矛先を失った。

 

そんなこんなで、波乱だらけの臨海学校が幕を閉じた。

それぞれの心に数々の物を生み出して。


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