インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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海上の激戦 Tenth Episode

「箒」

 

「…………一夏、か?なんだ、私を責めに来たのか?」

 

俯いていた箒は、一夏の顔を見てもう一度俯いた。

 

「んな訳ないだろ。一緒に行くぞ」

 

一夏は呆れた様に言うと、手を差し出した。

 

「私にそんな資格は無いさ。お前を傷付け、ステラを見捨てたんだぞ?」

 

「今はそんな事言ってる場合じゃ「力があったんだ!」…箒」

 

「確かに、お前達の役に立てる力が!なのに私は!お前達に迷惑をかけ挙句の果てに大怪我まで負わせたんだぞ!こんな私に戦う資格など無い!誰の役にもたてない私なんて、死んだ方が!」

 

バキッ!

 

その時、ずっと黙っていたシャルロットが箒の頬を殴った。

 

「うっ?!何をする!」

 

「ふざけないでよ。死んだ方がいいなんて、言っちゃダメだ。確かに僕も、生まれて来なければ良かったって思った事もあったよ。でも、それでも必死に生きてる!」

 

「何が言いたい!」

 

「うるさい!」

 

ガンッ!

 

箒は激昴し、シャルロットの胸ぐらを掴んだ。シャルロットはその腕を掴み、箒に頭突きして箒に後退りさせた。

 

「数馬が言ったんだ。人の命を奪うという行為は、皆等しく悪だって。だったら、自分を殺すのも悪だよ!」

 

「それでも!私みたいな者はいない方が!」

 

「いい加減にしろ!」

 

その時、一夏が大声を出しながら箒の肩を掴んだ。

 

「お前が死んだら、どれだけの人が悲しむのか分かってんのか?!俺や千冬姉、束さんに鈴や皆。そしてお前が見捨てたステラも悲しむんだぞ!お前はそれでいいのか?!」

 

「だったらどうしろと言うんだ!こんな取り返しのつかない事をしたんだぞ?私は、どう償えばいいんだ…」

 

箒は、溜め込んでいた感情を昂らせて涙を流す。そんな箒を見て、数馬は先程戦った父親の言葉を思い出していた。

 

「人は生きる限りは必ず罪を犯す。だがその一つ一つの罪を数え、その数だけ人を幸せにすればいい」

 

「え?」

 

数馬の言葉を理解出来ずに、箒は顔を上げた。

 

「親父の言葉だ。人は欲に生きるもの。生きていれば過ちの一つや二つあるさ。そうだな……

一つ、俺は親父が生きていた事に動揺した。

二つ、力を制御出来なかった。

三つ、そのせいで守るべき者に守られた」

 

「数馬…」

 

シャルロットは心配そうな目で数馬を見る。だが、数馬の目に曇りなどは一切なかった。

 

「俺は自分の罪を数えたぜ。箒」

 

数馬はそう言いながら右手で箒を指差すと、鋭い眼光で、尚且つ優しさの篭もった表情でその泣き顔を見た。

 

「さぁ、お前の罪を数えろ」

 

その言葉に、箒の涙はなお一層零れた。

 

「私は………私は!力を過信し、人の命を軽んじた。挙句の果てにはお前を傷付け、ステラも置き去りにした!これが、私の罪だ………っ!」

 

「箒。お前の過ちを取り返せる機会がある。どうだ。俺達と一緒に罪の分だけ人助けをしないか?」

 

数馬は指差していた手を開いて、その手を差し出した。

 

「あぁ!やらせてくれ!」

 

箒は笑った。その笑顔にはもう迷いなど無かった。

 

「あ、忘れた。ほら、やるよ」

 

その時、一夏が懐から一つの小さな袋を取り出した。

 

「これ、は?」

 

「こんな状況で言うのはなんだけど、誕生日おめでとう」

 

一夏からの祝福に、箒は頬を染めた。

 

「お、覚えていたのか?」

 

「忘れる訳ねぇだろ?幼馴染なんだから」

 

一夏は箒に笑いかけるが、それを見て数馬がため息を零した。

 

「こんな所でイチャイチャしてんじゃねぇよ」

 

「え?それ言ったらお前だろ」

 

「「?」」

 

((あー、ダメだこの二人))

 

奇跡的に、男子二人と女子二人がそれぞれ考えが一致した。そんな日常的な風景が流れた後、四人は準備を始めた。

弾が出撃に使ったマスドライバーに遠距離飛行用のパッケージを装備したラファール・リヴァイヴをセットし、その後ろに紅椿がしがみついて展開装甲で一夏と数馬を守りながら飛ぶという、簡単な様で高度な技術が必要となる作戦だった。

 

「シャルロット。俺達の事は構わず全力で飛べ」

 

「いいの?私達はISがあるから平気だけど、相当なGがかかるよ?」

 

「大丈夫だ」

 

「分かった。箒、二人を頼んだよ!」

 

「あぁ!」

 

シャルロットの言葉に、箒は力強く答えた。

 

「カウント行くよ!3、2、1、GO!」

 

シャルロットの掛け声と共にラファールリヴァイヴと紅椿のスラスターが全開放された。そこからエネルギーが爆発する様に吹きて出て、二機は高速で空へと飛び出した。

 

 

…………………………

 

 

「ウオラァァァァ!」

 

「……っ?!」

 

弾の異変に気付いた福音(ゴスペル)は、高速で後方に飛んだ。その瞬間、エクシアから膨大な光が放たれた。

 

「な、何なのよ?!」

 

「まさか、これって!」

 

「エクシアが、二次移行(セカンドシフト)したの?」

 

弾達の高速戦闘への援護の機会を伺っていたセシリア達の目の前で、突如エクシアが膨大な光を放ちながら現れた。

 

「ハアァ!」

 

弾がその光を切り裂くと、そこにはすでにダブルオーの機影はなかった。

 

「え?」

 

「食らえや!」

 

弾はGNソードIIで福音(ゴスペル)へと斬り掛かる。その速度はトランザムを使ったエクシアに迫る程のものだった。

 

「…………っ!」

 

ブンッ!

 

「流石に躱すか!でもなぁ!俺にはまだ上があるんだよ!」

 

弾はそう言いながら心でエクシアに語りかけた。

 

(なぁ、お前リミッター外せねぇか?)

 

『やれない事も無い。だが、リミッターを外すとお前への負担が上がるぞ』

 

(その程度、覚悟の上だよ!)

 

『分かった。リミッターを外してやる。シールドエネルギーが20%をきったら強制終了だ。いいな』

 

「そうなる前に終わらせてやる!トランザム!」

 

弾の叫びと共にダブルオーは赤く染まり、GNドライヴから放出されるGN粒子の量が爆発的に増した。

 

「エクシアダブルオー!五反田 弾!」

 

弾は全速力で福音(ゴスペル)へと迫る。福音(ゴスペル)も最高速で迎え撃つ。その戦いはまさに神速の域に達していた。

 

「行くぜオラァァァァ!」

 

弾の雄叫びは、海へと響き渡った。


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