インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~ 作:鉄血のブリュンヒルデ
「さらばだ」
壮吉は、マグナムの引き金に当てていた指に力を入れた。
バァァァァァァァン!
だが、引き金を引く寸前に、それは起こった。
「このタイミングで、
「ウオォォ!」
数馬は、雄叫びをあげた。その声に、シャルロットは唖然とした。
「数、馬?」
「力が大きすぎて、制御出来ていないのか。冷静ではなかったが理性があった先程とは違い、今度は理性すら無い。ある意味先程より厄介だな」
壮吉はそう呟いて構えた。
「ウガァァァァ!」
数馬が再び雄叫びをあげると、フィリップの機体にラインが入り、そこを境に装甲が開いた。
「展開装甲、だと?」
それは本来、白式の雪片弐型と紅椿にしか搭載されていない筈の能力だ。そのシステムは束以外に作れる者はいない。それを数馬のフィリップは
「束、あれはお前がやったのか?」
「そんな筈無い!いっくんの白式は雪片弐型だけだから使えているんだし、箒ちゃんの紅椿はそれ専用に設計と開発したんだ!フィリップに展開装甲を入れる隙間なんて!…………まさか、自己学習?」
束は一つの答えに辿り着き、唖然とした。
「何?どういう事だ?まさか、コアネットワークを介してフィリップのコアが展開装甲のシステムを理解して再現したとでも言うのか?!」
千冬は束の言葉を聞き、驚愕した。
「理論上は可能だけど、あそこまでの再現は計算外だよ!」
束は混乱しながらも頭の中で計算を続ける。そしてそんな中でも変化は続いていた。
「ウガァァァァァ!」
数馬が右腕を振り上げると、腕の装甲から光の刃が伸びる。それは真っ白な光を放ち、まるで牙の様だった。
「面白い、来い」
壮吉はブレードとマグナムを構えると、もう一度構えを取った。
「ウゥ…ハァ!」
数馬はまるで獣の様に体を撓らせながら壮吉に迫る。
「ラァ!」
その攻撃は無秩序で、全ての動きがバラバラだった。
「クッ!トアァ!」
壮吉の振るうブレードをギリギリのタイミングで避けると、今度は距離をとって腕部か伸びていた光の刃を抜いて投げた。
「遠距離も射程圏内か」
刃はまるで生き物かの様に縦横無尽に動いて壮吉を翻弄する。それに痺れを切らしたのか。壮吉は手榴弾の様な物を取り出した。
「今回は退く。次に相見える時はその力を制御しておけ」
壮吉はそう言いながら地面に手榴弾を叩き付けた。それが弾けるのと同時に、数馬とシャルロットの視界は強い光に阻まれた。
「ウゥゥゥ…」
数馬は、小さな呻き声の様な声を出しながらシャルロットを睨んだ。
「数馬?戦いは終わったよ?だから、もう休みなよ」
シャルロットは怯えながらも数馬に一歩一歩歩み寄る。
「ウゥゥゥ、ガァ!」
数馬はシャルロットに飛びかかろうとした。だが、その瞬間、シャルロットは数馬の懐に飛び込んだ。
「
シャルロットは自身の最大の武器である
「グアァッ?!」
数馬はその衝撃で吹き飛び、ISも解除された。
「数馬!」
砂浜に倒れた数馬に、シャルロットはISを解除して駆け寄る。
「シャル、ロット…」
数馬は、腕を震わせながらシャルロットに手を伸ばす。
「何?」
「俺は、弱いな」
「そんな事無いよ。だって、止まってくれたじゃない」
シャルロットは、数馬の手を掴みながら優しく微笑んだ。
「あの時、数馬が止まってくれなかったら、僕はそのまま死んでたかもしれないんだよ?」
シャルロットが言うあの時とは、数馬がシャルロットに襲い掛かりシャルロットが
「声が、聞こえたんだ。お前や、皆の声が」
数馬は起き上がりながら言った。
「皆が必死に戦っているのに、俺はこんな獣の様な本能を曝け出してただ暴れている。そんなの、俺が許さない」
シャルロットの肩を借りて立ち上がった数馬は、フィリップの待機状態である指輪を見た。
「あの力は、この事に気が付かせる為だったのか」
「何の事?」
「気にするな。お前は知らなくていい」
数馬は自分の身に着けていた帽子をシャルロットに被せると、微笑んだ。そしてシャルロットから離れて砂浜を歩き出した。
「どこ行くの?!」
「アイツらの所だ」
「アイツらって、まさか戦場に行くつもり?!ダメだよ!
シャルロットは数馬の腕を掴もうとした。だがその手は数馬の腕を掴む事は無く、逆に数馬に腕を掴まれた。
「機体の性能を最大まで引き出せば、今の俺でも戦える。そして」
数馬はシャルロットの目を見て、続けて言った。
「お前の力も必要だ。俺が止まれなくなったら、お前が止めてくれ」
「そんな事、出来ないよ」
「今出来たじゃないか」
「そう何度も上手くいかないよ」
数馬を行かせまいと、シャルロットは自分には出来ないと否定する。
「多分、
数馬は海の向こうで起こる閃光を睨み、指輪を見た。
「でも、エネルギーが足りない。これをどうにかしないと、行こうにも行けない」
「数馬!」
その時、浜辺を走る一つの影があった。
「一夏?お前、怪我はどうした」
「よく分からねぇけど、なんか治ってたんだ」
一夏は白式の待機状態であるガントレットを見た。
「多分、コイツのおかげだ」
「お前も、
「あぁ、多分」
その言葉に、一夏と数馬は頷き合った。
「エネルギーは、どうするの?」
「それなら、宛てがある」
一夏はそう言いながら、マスドライバーを指差した。
「あそこに箒が居る。箒の紅椿なら、エネルギーをどうにか出来る筈だ」
「なるほどな」
一夏と数馬は並んで歩き出す。その後姿を見て、シャルロットは叫んだ。
「どうして戦えるの?!戦えば死ぬかも知れないんだよ?!」
「あぁ、死ぬかもな」
「勝てたって、名誉や報酬がある訳でも無いんだよ?!」
「確かに無いな」
「それなのに、なんで?!」
シャルロットの問いに一夏と数馬は顔を見合わせて少し笑い、その笑顔のまま二人は答えた。
「「友達だからだよ」」
「え?」
二人の答えの意味が分からずに、シャルロットは間の抜けた声を出した。
「手が届く所で困ってる友達が居るんだ。助けなきゃ、一生後悔する」
「それに、死ぬかもしれないのはアイツらも同じだ。結局リスクしか無い賭けなら、相乗りするだけだ」
「…………二人だけじゃ、行かせられないよ」
シャルロットは消え入りそうな声で言った。
「だから、僕も行く」
シャルロットの目には、強い意志があった。
「あぁ、来てくれ」
数馬は笑い、シャルロットに手を伸ばした。シャルロットはその手を取り、帽子を取った。
「あの、これ」
「持っててくれ」
「え?」
数馬は帽子を返そうとするシャルロットの腕を掴み、それを止めた。
「本来、男の目元の冷たさと、優しさを隠すのがこいつの役目だ。でも俺はまだ半人前だ。だから、未熟さを隠したくて、こいつを被っていた。だが、今は必要ない」
「どうして?」
「なんでだろうな。親父と戦って、その最中に思い出したんだ。弱さは隠すものじゃなく、受け入れるものだってな」
数馬は自嘲する様に笑った。
「数馬、お前の親父さんって死んだんじゃ無かったか?」
「その筈だったんだがな。生きていたらしい」
「そう、か。でも、とにかく今は」
「あぁ、弾達とステラだ」
数馬は、マスドライバーの方へと歩き出した。
「さぁ、終わらせよう。この戦いを」
「うん!」
「あぁ。本当の戦いはここからだ!」