インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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海上の激戦 Eighth Episode

「ここは……どこだ?俺、確か箒を庇って………もしかしてここがあの世って奴なのか?」

 

『それは違うよ、ちょっと近いかもだけど』

 

「誰だ?」

 

一夏の目の前には、白いワンピースを着た少女が立っていた。

 

『あなたは、力が欲しい?』

 

「え?いきなり何だよ!」

 

少女の言葉の意図が分からず、一夏はつい怒鳴ってしまった。

 

『欲しいの?欲しくないの?』

 

「そりゃ、あればいいだろうけど………ていうか、ここがあの世じゃないなら夢か何かなのか?」

 

『それは今答えるべきじゃないかな。それで、力がいるの?』

 

「んー、よく分からないんだけど、皆を守るためになら欲しいけど……どんな力なんだよ?」

 

『力は、力だよ』

 

少女がそう言うと、どこからともなくISを纏った女性が現れた。そのフォルムは、世界で最初に作られたIS。白騎士に酷似していた。

 

『力はあくまで力。どう使うかは君次第だよ』

 

白騎士と少女はじっと一夏を見る。

 

『君はちゃんと使いこなせる?』

 

「力、か………昔の俺なら変な自信だけ持って直ぐに飛びついてたな」

 

一夏は苦笑しながら頭を抑えた。そして顔を上げて表情を引き締めた。

 

「使いこなせるかどうかは分からない。でも、やり残したことがある。仲間を守りに、そして助けに行きたい。力があるなら、貸してくれ」

 

『なら、行ってあげなくちゃね?』

 

少女がそう言うと、背後に白い光の穴が開いた。

 

「そこから外に出られるのか?」

 

『うん。そうだよ』

 

「分かった。ありがとう!」

 

一夏は走って少女とISの間を走り抜けて光を目指す。

 

『それから、白い彼によろしくね』

 

「え?それって」

 

一夏が言葉を発するより早く、光が一夏を包んだ。

 

 

…………………………

 

 

「ハァ!」

 

「ハッ!」

 

数馬と荘吉は激しくぶつかり合う。その衝撃は砂を巻き上げ、辺りに突風を巻き起こしていた。

 

「ルナ!」

 

数馬が叫ぶと、持っていたシャフトが鞭の様にしなった。

 

パシイィン!

 

「グゥッ?!トァア!」

 

荘吉は一度だけそれを食らったが、その後は殆どの攻撃を躱し、それ以外は捌いていた。

 

「その程度か、数馬」

 

「黙れ!」

 

「数馬!落ち着いて!」

 

数馬は怒りに駆られ、いつもの冷静な戦い方を全く出来ていなかった。

 

「冷静さを欠けば、真っ先にやられる。俺はお前にそう教えた筈だが?」

 

「うるさい!お前が、裏切った癖に!」

 

「残念だ」

 

「っ?!」

 

数馬の攻撃は簡単に避けられ、がら空きになった背中に荘吉の持つマグナムの銃口が押し当てられた。

 

「お前を殺したくは、なかったがな」

 

その瞬間、数馬の意識はある場所に飲み込まれた。

 

 

…………………………

 

 

「っ?!」

 

数馬は目を見開いて起き上がった。そこは先程いた砂浜とはかけ離れた、ただただ白い本棚が無数に、そして空中にすら並ぶ不思議な空間だった。

 

「ここは、どこだ?」

 

数馬の声はその空間に木霊することなくまるで溶ける様に消えて行った。

 

「ここはISのコアの中の空間。要するに精神世界さ」

 

「っ?!」

 

数馬は背後から突然響いた声に飛び退いた。

 

「お前は何者だ。ISのコアの中というのはどういうことだ。そしてここはどこだ」

 

「質問は一つずつ答えよう。まず、僕はフィリップ。君が身に纏うISが人格化した者さ」

 

フィリップ。そう名乗った緑色のローブの様な服を着た青年に、数馬は疑念を抱いた。

 

「どういうことだ。フィリップはただのコアの筈だ」

 

「ISのコアには大小様々ではあるけど、意思がある。代表的な例が彼、ウッドベルネクストさ」

 

「ウッドベルネクスト?確か、ギンギラの正式名称だったか」

 

「その通り。彼はイレギュラーではあるが、ISのコアと融合しながらもそのAIを変わらず運用している。僕らの様に表に出ることが出来ないISは、どうにか彼とコアネットワークを接続して方法を得ようとした。その過程で生まれたのが、このデータの中継地点。つまりこの本棚だ」

 

フィリップの説明に、数馬は驚愕した。普段自分たちが使っているISに意思があり、ましてやその意思を確立させようとしていると言うのだから。

 

「僕は彼の近くにいるイレギュラーだから、僕にも彼の記憶や、この地球の歴史やデータが流れてきている。ここにある本は俗に言うそのデータのフォルダ達さ」

 

「星の本棚、といったところか」

 

「まぁ、そんな所さ」

 

フィリップがそう言うのと同時に、本棚が一斉に動き出した。そして一つ。また一つと、本棚が虚空に消えて行き、最後に一冊、空中に浮遊し残っていた。

 

「これは?」

 

「僕が探した中で、今の君でも扱える。そして最もこの機体に馴染む能力のデータだ」

 

フィリップの言葉と共に本に題名が浮かび上がる。

 

Fang(ファング)………牙、か」

 

数馬は本を取りながら呟いた。

 

「その能力はこの機体に掛けられたリミッターを最大まで解除できる。だが、その代わりに理性を失う危険性がある。ちょうど、君が見たステラ・ターナーの様にね」

 

フィリップはそう言いながら数馬の持つ本を奪った。

 

「それでも、君はこの力を使うかい?」

 

フィリップの言葉に、数馬は一瞬葛藤した。

 

(親父の裏切りだけで我を忘れた俺に、使えるのか?後ろにはシャルロットもいるんだぞ?)

 

「あ、ちなみに言うが」

 

その言葉に、数馬は顔を上げた。

 

「こうしている間にも時間は進んでいる。まぁ、人間に観測出来る程の速度ではないけど」

 

「っ?!」

 

その瞬間、数馬の心は決まった。

 

(迷っている暇は無い!俺がやられたら次はシャルロットだ!ダメだ、それだけは!)

 

「今すぐ力を貸せ!理性を失うだけなら、後ろの奴がきっと止めてくれる!」

 

「そうか。分かったよ」

 

フィリップはそう言うと、本を差し出した。

 

「一ページ目を捲りたまえ。そうすれば現実に戻れる」

 

「あぁ」

 

数馬は躊躇わずにページを捲った。

 

「そろそろ、自分を許してあげなよ」

 

「っ?!」

 

フィリップの言葉に反応した数馬だったが、既にフィリップは光の中に消えていた。

 

 

…………………………

 

 

「おいおい、こりゃわざとらしいタイミングだなぁクソが!」

 

エクシアを纏った弾が、苛立たしげに言う。ここは海上。目の前には光に包まれた福音(ゴスペル)がどんどん形状を変えていた。

 

「まさか、このタイミングで二次移行(セカンドシフト)?!」

 

「そんなっ!あと少しだったのに!」

 

「皆さん!一度距離を「セシリア危ない!」へ?」

 

鈴の声を聞いて正面を向いたセシリアだったが、そこには既に福音(ゴスペル)の拳が迫っていた。

 

ガンッ!

 

「ガハッ?!」

 

セシリアはそれを回避できずに、その拳をまともに食らってしまった。

 

「セシリア!この野郎!」

 

弾はGNソードを展開し、福音(ゴスペル)に切りかかる。だがそれは予測していたかのように避けられた。

 

「ラウラ!ステラはまだ見つかんないの?!」

 

「もう少しだけ待ってくれ!生体反応が見つからないんだ!」

 

ラウラの言葉に、場の緊張感が増した。生体反応が見つからない。それはつまりステラの死亡したという確率を上げる証拠になり得るからだ。

 

「なに下らねぇ事考えてんだよ!あの生命力魔王並みのアイツがそう簡単にくたばるかよ!」

 

「っ!そうよ!ステラはそう簡単に死んだりしない!絶対生きてる!」

 

「まだ、一緒にやってないゲームもたくさんある!ステラは約束を絶対に破らない!」

 

「私も!まだステラさんとお料理を一緒にする約束を果たしていませんわ!」

 

「わ、私もまだプロポーズの返事を貰ってないぞ!」

 

各々が、自らに言い聞かせる様にステラとの記憶を頭に巡らせる。

 

「さっさとコイツ倒して!ステラ連れて帰るぞ!」

 

「当ったり前よ!」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

「了解した!」

 

全員が心に火をもう一度付けたのを見計らったように、福音(ゴスペル)は紫電を纏い始めた。

 

「アイツの高速移動は俺が何とかする!皆は俺が抑えた瞬間に一斉攻撃だ!」

 

弾はそう言いながらエクシアのコンソール画面を呼び出して、一つのプログラムを起動させる。

 

<TORANZ―AM SYSTEM LADY?>

 

「しゃあ!行くぜ!トランザム!」

 

弾の叫びと共にエクシアが紅蓮を身に纏った。

 

ギンッ!

 

二つの光は、風すらも追い越すスピードで空を駆けた。だが、時間が経つに連れて福音(ゴスペル)の力は増していき、もはやエクシアのトランザムですら、目で追うのがやっとになっていた。

 

「これも、リミッターなんかあるから!」

 

弾は苛立たしげにGNソードを振るうが、それは空を切り、逆に隙を生んでしまった。

 

ガンッ!

 

「グァア?!」

 

弾はそ福音(ゴスペル)の攻撃を諸に食らい、空中で体制を崩してしまった。

 

「クソが!」

 

福音(ゴスペル)はそんな弾に最後の止めを刺そうと、弾へと向かう。

 

「っ?!」

 

弾がそれに気が付いたのは、拳が目の前に迫った時だった。弾は一瞬死を覚悟した。だが次の瞬間、弾が目を開くと先程とはまるで違う場所にいた。

 

「ここって、どこだ?」

 

そこは、まるで戦争でもあったかの様に荒れ果て、壊れ果てていた。

 

「ここは、俺とお前の精神世界だ」

 

「あ?」

 

弾が振り返ると、そこには黒い上着と赤いマフラーを巻いた青年が立っていた。

 

「アンタ誰だよ」

 

「俺はエクシア。お前が乗るISのコアだ」

 

「へぇ、あーそう」

 

弾は至って普通に返す。

 

「驚かないんだな」

 

「まー、最近非常識続きだったもんでね。感覚狂ってんのかもな」

 

エクシアに、弾はまるで旧知の仲かの様な口調で語りかける。

 

「ところでさ。俺をここに呼んだのは理由があんのか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

弾の問いに、エクシアは間を空ける事無く答える。その表情に、弾は肩を竦める。

 

「お前は、何の為に戦う」

 

その言葉に、弾は思わずエクシアの顔を見た。

 

「お前は、何を見て戦う。何を目指して戦うんだ」

 

「………そうだな」

 

弾は近くにあった瓦礫に腰掛けると、オレンジに染まる空を目を細めながら眺めた。

 

「未来って奴は光が強すぎて見えねぇよ。だから俺は今を見る。必死に足掻いて、今の目の前の障害をぶち壊す……って、思ってた。でも、結局はただ未来を見るのが怖かったんだ。変えられない過去と、見えない未来に蓋をして、今やりたいことをやれればいいって。でもよ、アイツらのせいでそうも言っていられねぇんだよ」

 

そう語る弾の表情は、とても穏やかだった。

 

「仲間を、守る為か?」

 

「は?違ぇよ。アイツらは仲間じゃねぇよ」

 

「ならば一体「友達だよ」…友達?」

 

弾の言葉に、エクシアは不思議そうな表情になった。

 

「アイツらは仲間なんてそんた大層なものじゃねぇよ。ただの友達だ。だから助けてぇし頼りてぇ。これが、俺の戦う理由だよ」

 

弾は、そう言ってエクシアに笑いかけた。

 

「………分かった」

 

「お、おい!ちょっと待てよ!何なんだよ今の!」

 

「お前に本当に力を託して良いのか、試したんだ」

 

「それ、結果は?」

 

「無論合格だ」

 

「いよっしゃ!」

 

エクシアの言葉に、弾は派手にガッツポーズをした。

 

「あれに乗って行け。そうすれば外に出られる」

 

エクシアが指差した方向には、巨大な人型のロボットの様な形をしたエクシアが片膝を付いていた。

 

「お、おい。嘘だろ?」

 

「やり方は、分かるな?」

 

「あったりめぇだろ!」

 

弾はそう言いながら瓦礫を伝って建物の屋根に上り、そこから開いた胸のコックピット部分に飛び乗った。

 

「五反田 弾!エクシアダブルオー!行くぜ!」

 

弾がそう叫ぶのと共に、エクシアは姿を変えた。そしてそのまま夕暮れの空に羽ばたくように舞い上がった。

 

「頼んだぞ、エクシア」

 

エクシアと名乗っていた青年は穏やかな笑顔でそう言いながら、姿を変えて飛び立ったエクシアを見上げた。

 

「五反田 弾。お前が、ガンダムだ」




今回は男子三人の覚醒回でした!いかがでしたか?

ちなみに、物語に出てきた「フィリップ」の容姿はそのまま仮面ライダーWに登場したフィリップで、精神世界のモデルは皆さんご存知”星の本棚”です!まぁ、本編中に数馬も言ってますが(笑)

そして「エクシア」の容姿は、ガンダムダブルオーに登場する刹那・F・セイエイの普段着姿です。そして精神世界のモデルはダブルオーに登場したクルジスの紛争地域です。

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