インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

50 / 75
海上の激戦 Seventh Episode

「オラァ!」

 

「……!」

 

ガンッ!ゴンッ!ガキンッ!ドンッ!

 

ギンギラの反応が消滅したという報告から十分前。ステラと福音(ゴスペル)の戦いはもはや考えなんて存在しなかった。本能と本能がぶつかるだけの、獣の様な戦いだった。

 

ギュンッ!ギュンッ!

 

そこにギンギラが稀に隙を作る為にビームを撃つ。

 

「消しとべ!サーマルキャノン!」

 

エネルギーの残量なんてステラは意識していなかった。それをギンギラは常に大気中のサーマルエナジーを吸収し続ける事でエネルギーの問題をなんとかしていた。だがその時、不意にステラは攻撃をやめた。

 

「………ねぇ、ギンギラ」

 

『っ?!マスター、意識が戻ったのですか?!』

 

「うん。多分もう、大丈夫」

 

ステラは息を絶え絶えにしながらも答えた。

 

「ねぇ、ギンギラ。あの作戦、やれる?」

 

『今の福音(ゴスペル)であれば、二十分が限度です』

 

ギンギラの言葉に、ステラは驚くこと無くただ構えた。

 

「そりゃ、あの状態だしね……………ギンギラ」

 

『なんでしょうか?』

 

「最悪の場合、エネルギーフィールドは任せたよ!」

 

『っ?!マスター!おやめ下さい!』

 

ステラはイグニッション・ブーストで福音(ゴスペル)の目の前へと飛んだ。

 

「ごめん、ギンギラ!」

 

ステラは振るわれる福音(ゴスペル)の拳を掴んで、叫んだ。

 

「サーマル、エクスプロージョン!」

 

ステラの叫びと同時に、ステラの体の周りに黄金の光が漂い始めた。

 

「これで!終わり!」

 

ドカアァァァァァァン!

 

次の瞬間には、辺り一帯に爆風が吹き荒れた。

 

『マスターーーーー!』

 

その場に残ったのは、中破した福音(ゴスペル)と、VSの状態で大破したギンギラだった。そしてステラは

 

「……………」

 

海へと、落ちていく。ギンギラはステラの言葉の意味を理解し、エネルギーのほとんどを使ってゴスペルをエネルギーフィールドで包み込んだ。

 

『マスター!』

 

ギンギラはギリギリの所でステラを受け止めた。

 

「………!」

 

だが、福音(ゴスペル)をエネルギーフィールドが完全に包む直前に放ったシルバーベルを背部にモロに食らって、その状態を保てずに待機状態であるゴーグルに戻ってしまった。

 

〈た…む!応し……れ!ステラ!〉

 

その時、辛うじて生きていた通信機能が、ステラの耳に千冬の声を届かせた。

 

「千冬、さん?」

 

ステラは声を絞り出して声を出した。

 

〈っ?!ステラか!無事なのか!〉

 

ノイズ混じりの声に、ステラは少しだけ泣きそうになった。

 

「千冬さん、ごめんね?」

 

〈何故だ!何故謝る!〉

 

「私………………勝てなかった」

 

最後の言葉を呟いたステラの声は、涙に濡れていた。

 

ザパアァァァァァァン!

 

ステラは、飛沫を上げながら海へと落ちた。

 

 

…………………………

 

 

時間は流れ、弾達は既に出撃の準備を終わらせていた。

 

「五反田 弾!エクシア、GNアームズ!行くゼオラァ!」

 

「凰 鈴音!甲龍!行くわよ!」

 

「セシリア・オルコット!ブルーティアーズ!行きますわ!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!シュバルツェア・レーゲン!出る!」

 

「更識 簪!打鉄弐式!行きます!」

 

弾は強襲用コンテナにエクシアごと入り、マスドライバーを使って勢いをつけて飛びたった。

それに続く様に四人も自分のISに出せる最高速度で遠くの福音(ゴスペル)へと飛ぶ。

 

「ダン君!そろそろ見える筈だよ!」

 

「おう!」

 

弾がメインモニターを見ると、そこにはエネルギーの膜に包まれて身動きがとれない福音(ゴスペル)がいた。

 

「見えた!エクシア、目標を駆逐する!」

 

弾は強襲用コンテナを飛び出してGNアームズを纏い、福音(ゴスペル)へと突撃する。それと同時にエネルギーフィールドは崩れて、福音(ゴスペル)も弾に向かった。

 

「ハァ!」

 

「……!」

 

福音(ゴスペル)の拳とエクシアのGNソードが衝突し、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

…………………………

 

 

「アンタは、八年前に死んだ筈だ。なのに、どうして生きている」

 

数馬は先程までの高ぶった感情をなんとか抑えて問う。

 

「簡単な話だ。俺達は死んでいなかった」

 

「俺達?まさか、純さんもなのか?」

 

荘吉の言葉に数馬は驚きつつも、冷静に質問を続ける。

 

「俺達はあの日、奴に殺された筈だった。だが俺も純も気付けばラボの様な所にいた。そこで分かったんだ。奴は最初から俺達を殺す気は無かったんだ」

 

荘吉は続けて話す。

 

「俺達はその日から手を組んだ。それが今俺がここにいる理由だ」

 

荘吉の告白に数馬は驚き、シャルロットは未だに困惑していた。

 

(数馬のお父さんって、御手洗 荘吉さんだよね?どうして、襲撃なんか……)

 

「お前はデュノアの娘か」

 

「そう、ですけど」

 

突然話しかけられたシャルロットは少し動揺しながら答えた。

 

「まさかあの日の少女が俺の前に立つ障害となるとはな」

 

シャルロットが身構えた瞬間、数馬がそれを止めた。

 

「お前は下がってろ。親父とは俺がやる」

 

「でも!一人じゃ危険だよ!」

 

「黙れ!いいか、これは俺の問題だ!お前はいいから下がってろ!」

 

普段とは違う数馬の剣幕に、シャルロットは怯えた。普段ならこの時点で冷静さを取り戻すのだが、今の数馬にその余裕は無かった。

 

「親父。昔よく賭けをしたのを覚えているか」

 

「あぁ、よくやったな。勝った方が負けた方から一つ命令権を得る、だったな」

 

「そうだ。俺が勝ったら、言う事を聞いてもらおうか!」

 

「あぁ、構わない」

 

荘吉の言葉を皮切りに、数馬はシャフトとマグナムを構えて攻撃を仕掛けた。

 

 

…………………………

 

 

「おーおー、ムキになってやってんなー」

 

数馬達の戦いを、崖の上から眺める者がいた。

 

「そろそろ戻るよ」

 

「ん?デストロか。了解」

 

その者は立ち上がり、数馬達に背を向けて歩き出した。だが、ふと立ち止まり海を見た。

 

「次は俺達の番かもな」

 

その者は、後ろで赤い髪を後ろで纏めて赤いパーカーの上から白衣を着ている男だった。

 

「ラスボスは親父だった、なんてRPGじゃ使い古してるが」

 

男はニヤリと笑い、海にも背を向けた。

 

「お前レトロゲー好きだろ」

 

「なに語ってんだよ。早く行くよ、純」

 

「おう」

 

男の名前は、五反田 純。今まさに命をかけて戦っている弾の父親だ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。